イフェイオンside
「お嬢様。どうかされましたか?」
シオンが心配そうに顔をのぞく。
「ううん。なんでもないわ。ただ、美しいと思っただけよ」
昔は「眠り姫の墓地」
今は「祈りの花畑」
おじさんの話を聞いた後だと今の名前の感じ方が変わってくる。
「はい。本当に美しいです。お嬢様と一緒に見ることができてよかったです」
「私もよ」
一人だったらきっと泣いていた。
彼女と自分を重ねて、この光景を見ることができなかった。
シオンが隣にいてくれてよかった。
※※※
時は三日前に遡る。
オルサーストに着いたイフェイオンとユリウス。
「イフェイオン様。どこから探しに行きますか?」
ユリウスは船を降りるとすぐにどこに向かうか尋ねる。
探す案を出してもいいが、イフェイオンに考えがあるならそちらを優先しなければならない。
「まずは宿を回る」
「では、俺は平民が利用するところを回ります」
二人で一緒に動くより別々に動いた方が効率がいい。
貴族の方の宿はユリウス一人では教えてもらえない可能性もあるため、そちらはイフェイオンに任せることにした。
「ああ。見つけ次第連絡をしてくれ」
通信用の魔法石で作られたイヤリングを渡される。
使うのは初めてではないので問題はない。
「わかりました」
ユリウスはイフェイオンと反対の方角に向かっていく。
貴族と平民の宿は真反対に建てられるのが当たり前だ。
貴族の安全を考えて、との建前だが実際は自分たちが泊まる宿から平民を見るのが嫌なだけだ。
騎士を引き連れている貴族にどうやって平民が怪我を負わせられるというのか。
何もしてなくても気に入らないという理由で平民を痛めつけるものもいる。
ユリウスはどこにもぶつけることができない怒りが湧き上がってくる感情を理性で無理矢理抑え付け、貴族通りを早足で抜け平民通りを歩く。
「すみません。この女性をみましたか?」
エニシダの絵を見せて尋ねる。
もう何十回も同じ質問を尋ねたが、誰一人彼女を知っているものはいなかった。
平民の宿は数が多いため仕方ないのかもしれないが、毎回知らないと言われると妙に焦ってしまう。
エニシダは本当にこの街にいるのか。
違う街にいるのではないか。
早くしないと死ぬかもしれない。
どうせ、ここもハズレだろうと期待せず、ここから近い次の宿はどこにあるかと頭の中で考えていると、「この子。少し前にウチに泊まってた客だね」と言われた。
「この子。何かしたのかい?いい子だと思ってたんだけどな」
男は楽しそうに聞いてくる。
その姿にユリウスは苛立つ。
彼女の情報を教えてもらうため、なんとか怒りを抑えて尋ねる。
「今はどこにいる」
「知らん」
男は鼻でフッと笑う。
「おい。もう一度だけ聞く」
我慢ができなかった。
何も知らないのだから男の態度は普通のことなのかもしれない。
だが、それが妙に癪に触る。
こっちは大切な主の大切な人の命がもう少しなのに。
必死に探し回っているのに、馬鹿にされた気がして許せなかった。
「今はどこにいる」
ユリウスは戦場で魔物と戦うときのように殺気を放つ。
「し、知らない。本当に知らない。あの二人は慌てて出て行ったんだ。だから、何かしたのかと思っただけなんだ。許してくれ」
男はユリウスの殺気に怯え、早口で助けを乞う。
「それはいつのことだ」
男は少し考えた後、「三日前だ」と言う。
「他に何か知ってることは?」
「ない。何もない。本当だ」
男はユリウスと話しているだけで倒れそうになる。
知っていることは全て言ったので、早く出て行ってくれと何度も願った。
(嘘はついてなさそうだな)
これ以上ここにいても意味はない。
ユリウスは金を男に渡してから宿を出る。
イフェイオンに早くいま知った情報を報告するために、通信をしてから会いに行った。
「つまり、彼女はもうこの街にはいないということか」
イフェイオンはユリウスからの報告を聞いた愕然とした。
「はい。行き先まではわかっていませんが」
「いや、よく調べてくれた。三日前なら、まだ近くにいる可能性もある。どこに向かったのか知っているものを探そう」
「はい」
だが、そこから一週間全く進展はなかった。
誰に尋ねても知らなかった。
時間ばかりが過ぎていった。
イフェイオンは焦っていた。
もし、このまま会えなかったら。
もし、知らないうちに彼女が死んでしまったら?
そんな想像をしただけで胸が張り裂けそうなくらい痛かった。
早く会いたいのに、ここから動くことができなかった。
情報屋に会いにいっても、何も知らなかった。
ここで終わりなのか。
もう、どうすればいいのかわからなかった。
答えが見つからないまま、イフェイオンは今日もエニシダの情報を求めて探し回った。
空が暗くなり始め、今日もダメだったかと喪失感に襲われたそのとき、荷馬車から降りてきた男が目に入った。
ダメ元でこの男にも聞くか、と尋ねると「ああ。この女性なら俺がルルシオまで乗せて行ったぞ」と求めていた言葉を聞くことができた。




