期間限定の約束
「お嬢様。お待たせして申し訳ありません。大丈夫でしたか?」
見る限り何かあった様子はない。
それでも心配で尋ねた。
「うん。大丈夫よ。シオンの方こそ大丈夫?」
「はい。大丈夫です」
シオンは少年のように笑った。
それにつられて私もよかった、と笑った。
「お嬢様。それは何ですか?」
シオンは私が持っていたビンに気づき尋ねた。
「あ、これ?貰ったの」
「誰にですか?」
シオンは周囲を見渡すが、誰もいない。
「画家さんに。一緒に食べよう」
本当は貰ってすぐに一個食べたかったが、シオンがくるまで我慢してした。
なぜか一緒に食べたいと思って。
「飴ですか?とても綺麗ですね」
受け取った飴を見てシオンはそう言った。
「うん。すごく綺麗だよね」
キラキラと光る飴を口に入れる。
甘くて、どこか爽やかな感じの味だ。
不思議な味だが、とても美味しい。
自然と頬が緩む。
「とても美味しいです。これは何の味なんですか?」
シオンに尋ねられ、ビンを見るが何も書かれていない。
「ごめん、わからないわ」
「では、不思議な味ですね」
「そうね。不思議な味ね」
何の味かわからないのなら、それは不思議な味。
そう結論づける彼が面白かった。
私にはない、その考え方が新鮮だった。
「そうだ。これ。上手にできたと思わない?」
私はシオンを待っている間に作った花冠を見せる。
「はい。とてもお上手です」
「ありがとう」
昔から一人で花冠を作っていた。
誰にあげるわけでもなく、ただ街の子供がやっていたのが羨ましくて一人で作っていた。
最初は上手くできなかったけど、何度も何度も繰り返して作っていたら、いつの間にか上達した。
いつか誰かに作った花冠をあげたいと思っていた。
この年の男性は花冠は嫌いかもしれない。
でも、シオンなら笑顔で受け取ってくれる気がした。
「これはシオンにあげるわ。こっちは私の」
自分の分を頭に乗せた後、シオンの頭にも乗せる。
最初は驚いた顔をしていたが、すぐに満面の笑みを浮かべ「ありがとうございます。お嬢様」とすごく嬉しそうにお礼を言われた。
予想を遥かに上回るほど、シオンが喜んでくれたのでとても嬉しかった。
いつかやりたいと思っていたことを叶えられただけでも嬉しいのに、いい思い出を作れて幸せだと思えた。
「こちらこそ、ありがとう。シオン」
※※※
「少し肌寒くなってきましたね。お嬢様。大丈夫ですか?」
空の色が赤くなりはじめた。
もうすぐ、夜の時間がやってくる。
「ええ。大丈夫よ」
そう口では言っても、本当は少し寒い。
シオンが持ってきてくれたブランケットを膝にかけていてもだ。
夜になるとまだ寒くなるのだろうか。
それでも、ここまできて帰るという選択肢はない。
「これを」
シオンは上着を脱いで、私の肩にかけた。
「ううん。大丈夫よ。シオンが着て。寒いでしょ」
気持ちは嬉しかったが、申し訳なさの方が勝った。
「寒くありません。俺、元々体温高いですし、鍛えているんで。それに、昔はこれよりも薄着で真冬で過ごせるほどだったんで。だから、それはお嬢様が使ってください」
今の話が嘘か本当かはわからなかったが、ここまで言われて使わないのは、彼に対して失礼だと思った。
「ありがとう」
シオンのお陰で寒さを感じなくなった。
体だけでなく心まで温かくなった。
「お嬢様。あそこに星が出てます」
シオンは空を指さす。
その指先の向こうに視線を向けると、小さな星がポツンとあり輝きを放っていた。
「本当た。出てる。この時間に星を見るのは初めてだわ。まだ、明るいのにこんなに早く星って出るのね」
昔は空を眺めることなんてできなかった。
そんな暇はなかった。
夜に空を見た時には既に星が沢山出ていて、この時間帯からではじめるのだと初めて知った。
「ここから、一気に星が出ますね」
「私、星がで始める瞬間を見るのは初めてだわ。こんな楽しみがあるなんて知らなかった。もっと、早く知れたら良かったな」
「なら、これから毎日星が出る瞬間を見ましょう」
何も知らない自分が恥ずかしくて俯いていたら、隣からシオンが「これから見ればいい」と励ましとは違う前向きな言葉に今からしても遅くないんだと思えた。
私はゆっくりと顔を上げてシオンを見た。
太陽は既に沈み、赤く染まった空もあと少しで消えるというのに、シオンの笑顔はとても眩しかった。
「ありがとう」
シオンと共に過ごして何度泣きそうになり、何度お礼の言葉を言っただろう。
いつまで生きられるかわからないが、その日まで星を一緒に待つ楽しみができたことが嬉しかった。




