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ネモフィラ

婚約破棄


「お嬢様。大丈夫ですか?」


山道を歩き始めて結構な時間が経った。


普段、長時間歩くことがないため疲れた。


山道というのもあるだろが、自分の運動不足を恨むしかない。


看板を見る限り、目的地までまだ半分以上ある。


シオンは荷物を持っているというのに、息切れひとつしていない。


大丈夫、と言いたいのに上手く声が出ず、かわりに首を縦に振って返事をした。


シオンは「休憩しましょう」と言うが、ついさっきもしたばかりだ。


この調子だと昼過ぎに着くことになる。


昼食は花畑でしたいので、少し無理してでも頑張りたかった。


そんな私の思いをシオンは尊重してくれたが、心配そうな表情は変わらなかった。


それから目的地に着くまでに二回ほど休憩したが、何とか昼前に着くことができた。




「綺麗ね」


想像を超えるネモフィラの花に圧倒される。


どこまで咲いているのかわからないほどネモフィラの花であたり一面覆い尽くされている。


太陽の光でネモフィラがキラキラと輝いていた。


綺麗。


それ以外の言葉が似合わないほど、この景色は美しかった。


恋愛小説で恋人同士がなぜ花畑に行きたがるのかがわかった。


「はい。とても綺麗ですね」


私たちはそれ以上は何も話さず暫くの間、ただネモフィラの花畑を眺め続けた。





「あ、そういえば、夜は昼と違った美しがあるそうですが知っていましたか?」


シオンはふと何かを思い出したように言った。


昼食を終え、ネモフィラの花の中に座り、花冠を作っていた手を止めて、シオンの質問について考える。


だが、何が夜と昼の美しさが違うのか言ってもらわないとわからない。


「ごめん。何がか言ってくれないとわからない」


「あ、すみません」


私の指摘でシオンは言葉が足らないことに気づき、恥ずかしそうに謝った。


「ここの景色です。昔、おじいさんから聞いた話を思い出したんです。一度だけネモフィラ畑に行ったことがあって、そのとき見た景色が忘れられなかったと。夜だったが、月の光で輝く花は美しかった、と。空には星の花が、地面にはネモフィラの花が。とても幻想的で今でも目を瞑ればその景色を思い出せると言っていたんです」


シオンの話を聞いて、その光景を思い浮かべてみる。


ただの想像だが、その景色は美しかった。


実際に見たら、その景色はどれだけ美しいのだろうか。


気になった。


でも空に星の花が咲くほどなら、きっとあたりは結構暗くなっている。


シオンに迷惑をかけてまで、みたいと言うわけにはいかない。


なんて言うべきか迷っていると、「お嬢様がよければ一緒に夜までここにいませんか?」と言われた。


シオンはどうして私が言って欲しい言葉を毎回言ってくれるのだろうか。


私の心でも読めるのかと思ってしまう。


別に読めても読めてなくてもどっちでも良かった。


欲しい言葉を言ってもらえるのは本当に嬉しいから。


「うん。いよう。私も同じことを思ってた」


夜まで結構な時間があり、夕食と夜になって気温が下がったときの寒さ対策のため魔法石を取ってくるため、一度シオンは街に戻ることになった。


本当は一緒に行きたかったが、帰るだけならまだしも、もう一度来るのは体力的に難しかった。


シオンは私一人をここに残すのを心配していたが、ここは安全な観光地として有名だったし、周囲を見渡しても魔法石で魔物が入れないよう対策をとってあった。


人は有名な場所にしては珍しく私たち以外誰もいない。


シオンはすぐに戻ってくると言って、走って街までいった。


美しい景色を独り占めできる優越感に浸りながら、ネモフィラの花を眺めていると一人の老人が現れた。


老人はすごく大きな鞄を持っていた。


いったい中に何が入っているのだろうと気になって、つい見ていると老人と目があった。


不快な思いをさせたかと申し訳なく思ったが、特に気にしてなかったのか微笑まれて終わった。


老人を見ないようにしようと視線を別の場所に向けるが、彼が鞄から何か取り出そうとしたときは、つい気になってまた視線を戻してしまった。


(あ、あの人は絵描きなのね)


老人が鞄から取り出したものを見て、正体がわかった。


老人は私に背を向けたまま絵を描き始めた。


この景色をどんな風に描くのか気になってみていると、どんどん白からいろんな色で彩られていく彼の絵に魅力された。


どれだけ時間が経ったのか。


ふと彼がペンを置き、後ろを振り返った。


また目があった。


老人は微笑み、私を呼んだ。


彼の優しい柔らかい笑みで、警戒心は薄れ、呼ばれて近寄った。


「とても綺麗です」


近くで老人の絵を見て感動した。


見たままの景色が描かれていた。


「ありがとう」


老人は嬉しそうに笑った。


もっと気のついた感想を言いたかったのに、いい言葉が浮かばなかった。


こういうとき貴族はなんといって、画家を喜ばせるのか今だけ知りたかった。


そうしたら、老人をもっと褒めることができた。


自分の語彙力の無さに落胆していると、老人が少し遠慮がちにこう言った。


「もし、お嬢ちゃんが嫌でなければなんどが、絵のモデルになってくれんかの」

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