ルルシオ 2
街の中を歩いても最初はお互い気まずかった。
会話も普段とは違い、どもったりした。
目が合うと顔がすぐに真っ赤になり、誤魔化すように目を逸らした。
せっかく初めて訪れた街なのに、楽しむよりも恥ずかしさの方が勝りすぎていて、ただ歩くという時間を過ごした。
そんな時間が終わりを迎えたのは、遅い朝食をとった後だった。
私のお腹から音が鳴ったのがきっかけで、一番近くのお店に入った。
寝巻きを見られただけでも恥ずかしいのに、食い意地がはっていると勘違いされそうで余計に恥ずかしくなった。
恥ずかしくてシオンの顔を見ることはできなかったが、笑われているようなきました。
料理が届くまでの間、私はずっと顔を上げることができなかった。
目の前に座ったシオンの視線に気づいていたが、ずっと自分の手だけを見ていた。
だが、そんな時間も永遠には続かなかった。
私は美味しそうな匂いにつられて顔を上げた。
「お待たせしました」
優しい笑みを浮かべたおばさんがいい匂いのする料理をテーブルの上においた。
焼きたてのパン、みずみずしいサラダに卵、ウィンナー、果物が一つの皿にまとめてあった。
伯爵家で食べる朝食より美味しそうだった。
また、お腹がなった。
恥ずかしかったが、目の前の美味しそうな料理を食べるより優先することは今の私にはなく、顔を真っ赤にしながら、焼きたてのパンに手を伸ばした。
「美味しい!これ、すごく美味しいわ!」
一口食べただけなのに、視線と笑顔になった。
ふわふで美味しいパンは産まれて初めて食べた。
いつもは硬いパンしか食べないので、パンがこんなに美味しい料理だとは思いもしなかった。
気づけば、あっという間にパンを完食してしまっていた。
もう少し、ゆっくり食べれば良かったと後悔した。
「本当ですね。とても美味しいですね。おかわりしますか?」
「してもいいの?」
「もちろんですよ」
シオンは店員を呼んでパンのおかわりを頼んだ。
店で料理を頼むのは当然なのに、私は最初に出された料理だけで満足するのが当たり前だと思っていて、おかわりしてもいいんだという発想がなかった。
シオンのお陰でそうじゃないと知った。
好きな料理を好きなだけ食べれるのが嬉しかった。
おかわりできる、してもいいことをしれた。
「ありがとう。シオン」
「はい。お嬢様」
シオンは私を馬鹿にするわけでもなく、優しく微笑んでくれた。
貴族なのに何も知らない私に優しく教えてくれる。
私が恥をかかないよう気づいていないふりをしてくれる。
今だって、一緒に大量のパンを食べてくれる。
おかわりできるのが嬉しかったのと、初めて食べたふわふわのパンが美味しすぎて、気づけば十回もおかわりをしてしまった。
貴族の令嬢がこんなにたくさん食べたと知られたら呆れられるし馬鹿にされる。
貴族の女は美しさに囚われている。
そのために、食事を取らない日を作る人もいるくらいだ。
でも、それをもう気にせず好きなだけ食べられる。
「……ねぇ、シオン」
「はい。なんでしょう」
私が何を言いたいのか気づいているのか、シオンは笑っていた。
何を言うのかバレていて、その言葉を言うのには勇気がいったが、頑張って言った。
「最後にもう一回……パンのおかわりをしてもいい?」
「ええ。もちろんです」
※※※
ルルシオにきて四日目。
ようやくお目当てのネモフィラ畑に来ることができた。
本当はもっと早くにきたかったが、そうもいかなかった。
二日目の朝、朝食をとり終わったあと、すぐに雨が降った。
最初はすぐに止むだろうと思っていた。
だが、それは昨日の夜まで続いた。
雨がこれ以上降ったら花が散るのではないかと心配になった。
せっかくきたのに、見れなかったら悲しい。
本当にいるかわからない、神に「明日は晴れますように。花も散っていませんように」と祈った。
その祈りが届いたのかはわからないが、朝になると雨は止んでいた。
窓から空を見ると雲一つない快晴だった。
今日こそ行ける!
そう思うと、シオンが来る前に着替えを済ませ、いつでも行けれるように準備をした。
「お嬢様。起きてますか?」
シオンが控えめに扉を叩いた後、そう聞いてきた。
「ええ。もう起きてるわ」
急いで扉を開けてシオンに声をかけると、私の格好を見た彼は一瞬目を見開いたがすぐに笑顔になり「では、行きましょうか」と言った。
いつもはシオンに声をかけられてから着替えるが、今日は既に準備を終えていたから驚かれたんだな、と思うと恥ずかしかったが、ネモフィラ畑に行けることがそれよりも嬉しかった。
朝食はもちろん、美味しいパンが食べれる店でした。
店員のおばさんには顔を覚えられ、行くたびに「今日もたくさんあるから好きなだけ食べてね」と言われるようになった。
最初は大食いだと思われて恥ずかしかったが、今では「はい。今日たくさん食べます」と言えるようになった。




