ユリウス
「貴様。死にたいようだな」
公爵は剣を抜きギルバートの首に押し当てる。
「違うとおっしゃられるのでしたら、どうしてイフェイオン様の気持ちを無視されるのでしょうか」
「それが、あいつの勤めだからだ」
公爵も昔、愛する人がいた。
その者と共に過ごす未来を夢見ていたが、両親の反対でその者とは別れ、今の夫人と結婚した。
当時は両親を恨んだが、公爵となりルーデンドルフ家を守るためなら何でもできると、今ならあの二人の行動が理解できる。
だから、これはイフェイオンのためだ。
例え今は憎まれようと、いずれ理解してもらえるのだから。
公爵はギルバートからイフェイオンに視線を向ける。
「イフェイオン様はそれを望んでおられません。あの方は、これまでこの国のために人生を捧げられました。それでも許されないのでしょうか。ただ、愛する人の残り少ない時間を共に過ごしたいと思うことは」
ギルバートは公爵が何か言う前にこう続けた。
「エニシダ様の呪いは不治の呪いです。誰にも解けることはできません。余命一年もないのです。その短い時間ですら、許されないというのでしたら、イフェイオン様は二度この国のために戦うことはないでしょう」
ギルバートはこのまま行かせなければ、イフェイオンはこの国を見捨てると断言できた。
長年、彼の傍にいたのだ。
わからないはずがない。
「公爵様。お選びください。一年かそれとも永遠にイフェイオン様を失うか」
※※※
「死ぬつもりだったのか」
音もなく現れた顔を隠した男に尋ねられた。
「まさか、そんなつもりはなかったさ。ただ、結果としてそうなっても仕方ない状況だったけどな」
ギルバートは今になって恐怖が襲ってきて足が子鹿のように震えたが、口角は上がっていた。
男はギルバートの答えに呆れて深くため息を吐いてからこう言った。
「まぁ、そのおかげで時間は稼げたな」
公爵の気がいつ変わるかはわからない。
さっきは何とか説得でき、公爵は部下を引き連れて帰っていった。
今、ここにいるのはイフェイオンと共にエニシダの捜索をしていた者たちだけだ。
イフェイオンについていかなかったため、ルーデンドルフ家に帰るしか選択肢は残っていないが、彼のいない屋敷に戻るのが嫌で全員その場からなかなか動けなかった。
そんなとき、一人の部下が変なことを言った。
「あれ?ユリウスは?」
「そこらへんにいるだろ」
全員がユリウスを探すが、どこを探しても姿が見えない。
「まさか……」
全員が同じことを思った。
イフェイオンについていったのだと。
「まぁ、ユリウスなら大丈夫だろ」
「確かに、あいつなら上手いことやるだろ」
勝手についていって大丈夫かと心配したが、ユリウスはイフェイオンの身の回りを世話をする従者であるため問題にならないだろうと思い直した。
「だな。
※※※
「……なんで、お前がここにいるんだ」
イフェイオンは船長と進路について話し合った後、用意された部屋に入ると何故か置いてきたはずの部下の一人であるユリウスがいて顔を顰めた。
「私はイフェイオン様の従者です。イフェイオン様がいるところに私がいるのは当然です」
ユリウスはイフェイオンの疑問にさも当然のように答えた。
「俺はもうルーデンドルフ家の一員じゃない。お前も聞いていただろ」
「はい。もちろん、聞いておりました。ですが、私には関係ありません。私が仕えているのは公爵様ではなく、イフェイオン様ですので」
「……」
イフェイオンはユリウスと出会った日のことを思い出した。
魔物に襲われそうになっているところを助けたが、両親は既に殺されていた。
助けたことを批判するような目で見られた。
既に生きる気力がなくなっていた。
施設に預けたところで自ら命を断ちそうなのは目に見えていた。
彼を生かすために、自分の傍にに置くことを決めて世話をした。
最初は話すこともできなかったが、剣を教え、読み書きを教えていくうちに、少しずつ心を開いてくれたのか、一年たった頃には部隊に馴染んでいた。
ユリウスを置く名目として従者にしたが、今となってはそれが正しいことだったのかと不安になる。
「あの日、助けてもらったあの時から私の命はイフェイオン様のものです。ですから、私の心配など不要です。それに、私は結構役に立ちますので、傍に置いておいた方がいいかと思います」
ユリウスはイフェイオンが自分の未来を心配していることに気づき、笑顔で心配するなと伝える。
イフェイオンに忠誠を誓った日から、命を捧げる覚悟はできていた。
イフェイオンはまだ納得していない様子だったが、それには気づいていないふりをして目的の確認をした。
「イフェイオン様。必ずエニシダ様に会いましょう」
いつ死ぬかわからないエニシダと生きたまま会うのは至難の業だ。
それでもやるしかない。
それが、あの日命を救ってくれた彼への恩返しになるのだから。
「ああ。そうだな」
イフェイオンの表情は逆光になっていてユリウスには見えなかったが、声から不安なのは伝わってきた。




