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「……教えてくれ。俺はいったい何のために戦ってきたのか。命をかけて戦ったのに、民からは化け物と恐れられ、家族からは婚約者との仲を無茶苦茶にされた。俺が幸せになることが、そんなに許せないのか。大勢の兵を殺したからか?なぁ、親父は知ってたはずだろ。母さんやエリカがしてたことを。知ってて無視してたんだろ。いや、それだけじゃないよな。俺の耳に入らないようにしてたよな」


部下にオルテル家を調べさせて報告を受けたときに思った。


エニシダの噂を公爵が知らないはずがない。


使用人たちも知っているはずだ。


それなのに、誰も何も言わない。


まるで、そんなことなかったかのよな日常を過ごしていた。


だから気づかなかった。


人の口を閉じさせるのは簡単だ。


それが自分の雇用主の命令なら特に。


自分がいない間、エニシダを家族が守ってくれると信じていたのに裏切られた気分だった。


いや、それ以上にこんなこともしてくれないのかと激しい怒りが湧いた。


どんな思いで戦場に向かい、どんな思いで帰還したのか、同じ経験をした公爵ならわかってくれていると信じていた。


だご、それは勘違いだった。




魔物討伐から帰還してまず最初にするべきことは、持って帰ることができた兵たちの死体を家族に返すことだ。


もう何回もやっているが未だに慣れない。


息子が帰ってくると、生きている者たちの家族は感謝の言葉をそのときは口にするが、暫くすると「化け物」とはあまり仲良くなるな、と子供に注意をする。


死んだ者たちの家族は遺体を見るなり、ありとあらゆる暴言を投げかけてくる。


ーーお前のせいで死んだ。


ーーなぜ息子を守ってくれなかったのか。


言葉にはしなかったが、お前が死ねば良かったのに、と目で訴えてくるものもいた。


イフェイオンは彼らに形式的な謝罪を口にした。


するたびに自身の心がすり減っていく気がした。


それでも、自分には未来があるからと我慢した。


だが、その未来すらも奪われたいま、イフェイオンはこれ以上自分を犠牲にするのはやめた。


名を捨て、家族と縁をきることになっても。


共に戦ってきたルーデンドルフの騎士たちを見捨てることになったとしても。


魔物に襲われ誰かが死ぬことになったとしても、もう全てがどうでもよかった。


命を賭けてやった代価が、今の現状なら必要ない。


「あんたの望み通りに、これからも好きに何でもすればいい。俺はもう名を捨てる。だから、二度と俺に干渉しないでくれ」


イフェイオンはそれだけいうと、ついてきた部下を置いて船へと乗る。


部下はどうするべきか悩む。


部下たちはイフェイオンと共に戦場で戦ってきたが、ルーデンドルフの騎士であるため名を捨てると言った以上、今までと変わらず仕えていいのか悩んだ。


ここに公爵がいなければついて行ったがいる以上、彼の存在は無視できない。


そのため、その名を捨てたイフェイオンを追いかけることができなかった。


船が出航の合図を出し動こうとしていたが、それでも動けなかった。


部下たちは公爵がどうするのか見守った。


「今すぐ船を壊せ」


公爵は冷たい口調で連れてきた部下に命じる。


部下は返事をし、船を破壊しようと動こうとするが「お待ちください。公爵様」とギルバートの声を聞いて足を止めてしまった。


すぐにまた足を動かそうとしたが、指一本動かせない状態になっていて、意思とは関係なくギルバートの話を聞く羽目になった。


「どうか、行かせてあげてもらえませんか」


ギルバートは少しでも時間を稼ごうと公爵の意識を自分に移させる。


できるなら、諦めさせたいが自分にそんな才能がないことは知っていた。


だから真っ向勝負だ、とギルバートは頭を深く下げて頼むが、公爵はそんな彼の頭を冷ややかに見下ろした。


「あいつはルーデンドルフ家の次期公爵であり、私の息子だ。勝手な行動は許されない」


「ですがっ……!」


「くどい!それ以上は聞きたくない」


公爵はギルバートの話しを聞く気はなく、無理矢理会話を終わらせた。


それでもギルバートは諦めるわけにはいかず、話しを続けた。


そんなことをしたら即刻切り捨てられても文句は言えないが、イフェイオンを助けたい一心だった。


「これ以上、イフェイオン様の気持ちを無視しますと本当に息子様を失うことになりますよ」


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