過去 5
イフェイオンはゆっくりと視線を彼女に移した。
何も言わずにじっと見つめていると、気まずそうに「これを」と小さな箱を差し出してきた。
受け取らずに「これは」と尋ねると、アドリアナは「姉の代わりに、私がプレゼントを持ってきました」と言った。
(エニシダは体調が悪くて来れないから、代わりに持ってきてくれたのか)
一瞬でその小さな箱が愛おしく思えた。
「感謝する」
イフェイオンは箱を受け取り、中を確認した。
中身はアメジストで作られたカフスボタンだった。
初めて彼女から貰ったプレゼントが嬉しすぎて、その場でつけているものを外して、アメジストのをつけた。
「とてもお似合いです」
「そうか。ありがとう」
エニシダからの贈り物が似合っていると言われて嬉しかった。
心から思ったことが口から出ていた。
その言葉を聞いていた周囲にいた貴族はそれだけでも驚きを隠せないのに、笑ったイフェイオンを見て驚きを通り越して恐怖を感じていた。
その後イフェイオンはパーティーが終わるまでの間、ずっと大事そうにカフスボタンを触り、幸せを噛み締めていた。
※※※
パーティーから二週間後。
ようやくオルテル伯爵からエニシダの体調が治ったと手紙が届いた。
いつでも会いにきていい、と書いてあったので次の日にオルテル家へと向かった。
もちろん彼女から贈られたカフスボタンをつけて。
これまで多くの人たちからプレゼントは贈られてきたが、これほど幸せな気持ちにしてくれるものを貰ったのは初めてだった。
これさえあれば、会えない日も幸せな日々がおくれると思えるほど。
オルテル家に着くと、エニシダが既に待っていた。
来ることは伝えていなかったが、使用人が気づいて教えたのかもしれない。
その使用人に感謝しながら、エニシダに話しかけた。
「体調を崩されたと聞きました。もう大丈夫ですか?」
病み上がりなら、外に出るのは危険なはずだ。
「はい。もう大丈夫です。出られずに申し訳ありませんでした」
頭を下げて謝罪の言葉を口にしているので、エニシダが今どんな顔をしているのかは見えなかったが、いい顔ではないことは簡単に予想できた。
「謝罪は必要ありません。体調が良くなられたのなら、それで構いません」
まだ少し震えている彼女を見て、早く建物の中に戻すべきだと思った。
「今日はこれで帰ります」
「……はい。わざわざ来ていただいてありがとうございます」
「それと、これはお礼です。大事にします。ありがとうございます」
「……え、はい。こちらこそありがとうございます」
エニシダはお返しのプレゼントを渡すと、驚いた顔をしてお礼を言った。
そんな驚くようなことか、と思っていたが、婚約してから二年、魔物討伐にかかりきりで一度もプレゼントを贈っていないことに気づいた。
それでは驚かれるのも無理はない。
帰り道、彼女に贈るプレゼントでも買おうと決め、まだ一緒にいたい気持ちを抑えて別れた。
それから月に一度、エニシダと会うことができるようになったが、彼女は一度も贈ったドレスや宝石を身につけて会いには来てくれなかった。
気に入らなかったのか?
社交界に出ていないせいで、おかしなものでも贈ったのかと不安になった。
気になって聞きたかったが、一生懸命話しているエニシダをもう少し見ていなかったのと、言って空気が悪くなるのが嫌だった。
着てきてくれないのは残念だが、側にいられればそれでよかった。
次は一緒に買い物に行けば、エニシダの気に入ったものをプレゼントできる。
前向きに考え、次に会う日は街に行こうと約束した。
待ち合わせの場所に少し早く着くと、オルテル家の馬車が見えた。
今日も彼女は贈ったドレスを着てはくれなかったが、今度こそ喜んでもらえるドレスを贈れると思うとどうでもよくなった。
街にはたくさんの店があった。
最初はドレス店に行きたかったのが、あちこち楽しそうに見ているエニシダを見ていたくて、一緒にいろんな店を見た。
売店で串焼きを食べたりした。
肉は硬いし、味は濃いが、なぜか今まで食べた物の中で一番美味しく感じた。
その後も街の中を歩いていた。
いろんな場所を見ていると、ショーケースに飾られている美しいイエローダイヤモンドが目に入った。
エニシダと同じ瞳の色で、この宝石を彼女に贈りたいと思った。
少ししたら彼女の誕生日だ。
そのときに贈ろう。
そう決めて、エニシダと別れたら買いにこようと決めた。
宝石に目を奪われていると、少し離れたところにエニシダがいて子供たちと何かを話していた。
邪魔をしたら悪いと思い、見守っていると別の場所で商売をしている子供たちの声が耳に届いた。




