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過去 2


魔物討伐に出て一ヶ月が過ぎた。


はっきり言って状況は最悪だった。


被害は過去最大だ。


志願兵は多くいたが、半数近くがこの討伐が初参加の者たち。


そのせいか、もう既に三割近くが死亡した。


多くの負傷者もいる。


それだけならまだいいが、初参加の者たちの多くは精神的にやられ、戦える状態ではない。


まだ動けるものは全体で半数近くいたが、魔物を討伐しながら、兵たちを守らなければならないため、場慣れした者たちでさえ疲れ果てていた。


イフェイオンもその内の一人だった。


討伐部隊の指揮官であるため、一瞬の迷いが大勢の命を奪うことになる。


常に最善策を探すが、一人、また一人と魔物に殺される兵たちをみると、自分の判断が本当にあっているのかと苦しくなる。


そんな苦しみも日が経つにつれ、感覚が麻痺していくからか、何も感じなくなっていた。


止まれば死ぬ。


動かなければ生き残れない。


剣をとにかく振るった。


斬って、斬って、斬りまくる日々を繰り返し、一年が過ぎた頃、国王が死んだ知らせが入った。


そのとき、イフェイオンはようやく自分が一年もの間、戦場にいたことを知った。


エニシダとの婚約はどうなったのか?


婚約発表はちゃんとできたのか?


陛下の葬式に参加できるのか?


そもそも、なぜ陛下は死んだのか?


気になることは多かったが、それを知る時間すら、まだイフェイオンには許されなかった。


魔物との戦いは最初の頃に比べたら落ち着いたが、油断は許されない。


手紙をエニシダに書きたかったが、そんな時間はなかった。


帰還したら、手紙を出せなかったことをきちんと謝罪しよう。


そのためにも、早くこの戦いを終わらせようとイフェイオンは剣を振い続けた。


そうして半年が経ち、ようやく魔物との戦いに終わりが見えてきた。


だからといって、イフェイオンは今すぐ帰還することはできなかった。


本当に魔物はもういないのか。


隠れている残党はいないか?


やるべきことがたくさんあった。


それでも余裕ができたため、イフェイオンは帰還するまでの間、エニシダに手紙を送ることにした。


最初に書く言葉は謝罪だった。


まず婚約発表のときそばにいられなかったこと。


次に婚約したのにも関わらず一度も会えなかったこと。


最後に誕生日を祝えなかったことについて謝罪をした。


これだけで十枚の紙を使った。


さすがに多すぎるな、と反省するがどう頑張っても数が減らなかった。


それから最初の手紙を送るまでに一ヶ月近くかかったが、時間をかけたおかげで納得するものが書けた。


返事が来るのが今から楽しみでしかたなかった。


だが、待てど一向に返事はこなかった。


手紙が届いていないのか、それとも自分のような人間とはやはり婚約は嫌になったのかと思った。


もし前者だったらいけないと思い、それから何度も手紙を送ったが、帰還するまでの間、一度も返事は返ってこなかった。


一回も手紙が届かなかったってことはあり得ない。


そうなると答えは一つしかない。


エニシダが返事を書くことを拒んでいる。


最悪は結論に胸が締め付けられるほど痛くなった。


今、思えば公爵家がわざと手紙を送らなかったのか、それとも彼女の家族がわざと渡さなかったのかはわからないが、手紙はきっと彼女の元には届かなかったのだろう。





魔物討伐に向かってから二年が経ち、ようやくイフェイオンは帰還することができた。


今回の討伐ははっきりいって大失敗だったが、国はその真逆の大成功として、討伐部隊の兵たちを褒め称えた。


全ての魔物を倒すことができなかったくせに、大勢の兵を死なせた。


指揮官として最悪の結果だった。


だが、街を通るたびに大勢の人たちが笑顔で出迎えてくれた。


嘘の情報のせいだとはわかってはいるが、自分たちのこの格好を見てよく笑えるなと呆れるしかなかった。


荷台には、生きて帰ることができた死んだ兵士たちの死体があるのに。


イフェイオンは誰にも向けることができない怒りを飲み込み、重い足取りで、ただ王宮へと向かった。


王宮についても街の人たちの対応と変わらず、うんざりした。


一度、戦場に出ればいいのに。


そうすれば、そんな顔で馬鹿な発言はできないだろう、と。


イフェイオンは彼らを適当にあしらうと、謁見の間で、偉そうに待っているであろう現国王の元へと向かった。


イフェイオンは新たな国王にこの二年の出来事を報告していたが、彼は見下(みくだ)すような目つきで自分を見下(みお)ろしていた。


先代陛下とはえらい違いだな、と思いながら報告を続けた。




疲れているのに更に疲れさせられ、苛立ちながらルーデンドルフ家へと帰った。


ここなら大丈夫だろうと思っていたが、他と同じように笑顔で出迎えられ、自分を褒め称える言葉をずっと聞き続けた。


それは家族も変わらなかった。


自分が今何を思っているのか、何をしたいのか、それすらもわからなくなりかけていた。


部屋に入って休もうとしたら、扉を誰かが叩いた。


無視してもよかったが、何か大事な用かもしれないと思い入る許可を出すと、入ってきたのはリナリアだった。


その姿を見た瞬間、イフェイオンは会いにきたのがリナリアではなくエニシダだったら良かったのにと思い、内心がっかりした。


それと同時に、自分が何を求めていたのかがわかった。



ーー彼女に会いたい。笑顔がみたい。



そう思った。


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