過去
それからは国王のお陰で、あっという間に話がうまくまとまっていった。
両親は最初は物凄く反対していたが、国王が説得してくれたお陰で、最後は納得してくれた。
伯爵に関してはすぐに了承してくれたが、妹であるアドリアナの方と婚約させようとしてきたときは、エニシダの父親でなければ殴り倒していたなと思う。
今思い出しても、あの時の出来事は不愉快でしかなかい。
※※
「オルテル伯爵。この度はエニシダ嬢との婚約を許可していただき感謝します」
国王に呼ばれ王宮にきたとき、たまたまオルテル伯爵と出会った。
婚約発表はオルテル家で主催したパーティーで皆に知らせたいと言うので、伯爵の顔を立てるためにも了承した。
公爵は「うちでやるべきだ」と言ったが、決めたことだと言って無視を決め込んだ。
エニシダに会いに行きたかったが、その前に片付けないといけないことが多く、会いにいく時間がなかった。
それでも、エニシダが自分との婚約を了承してくれた事実が嬉しくて、仕事が忙しくても頑張れた。
国王には、もし彼女が望まなければ無理強いはしないで欲しい、と伝えていたので彼女も同じ想いなのだと知って嬉しかった。
オルテル伯爵のことはあまり好きではないが、愛する女性の父親なため礼儀正しく、これからは接することにした。
「これは小公爵ではありませんか。お礼を言うのはこちらの方です。娘と婚約していただき、本当に感謝いたします」
伯爵はにこやかに話していたが、急に笑顔が消え、距離を詰めてこう続けた。
「ただ、どうしてエニシダと婚約しようと思ったのですか?父親である私が言うのもなんですが、娘にはこれといった特技はありませんし、妹のアドリアナと違って可愛らしさもありません。あ、そうだ。婚約はエニシダではなく、アドリアナはどうでしょう。アドリアナなら、きっと毎日楽しく幸せな……」
日々を過ごせると思います。それが良くないですか?と続けたかったが、伯爵は今にも殺されそうなほど感情のこもってない瞳で見下ろされ、それ以上声を出すことができなかった。
「オルテル伯爵。私の婚約者はエニシダ嬢です。いくら、伯爵が彼女の父親だからといって私の婚約者を侮辱する発言は許すことはできません。今回は聞かなかったことにします。次はありません」
イフェイオンは冷たい口調で吐きしてるように言うと、そのままその場から去った。
※※
その一件から伯爵と会うことはなかった。
婚約発表まで残り一ヶ月をきったころ、国王が倒れた。
毒を盛られたのだ。
誰が盛ったのかは明白だったが、証拠がないため裁けなかった。
この事件を調査するために、イフェイオンはまた王宮に行くことになったが、それよりさらに最悪な事態が起きた。
魔物の大群が北に現れた、と言う知らせが入った。
せっかく地獄の日々から逃れられたのに、またあの日に戻らなければならないのか。
イフェイオンは王宮に着くなり、王妃に魔物の討伐を命じられた。
国王に会いたかったが、未だに意識が戻らないため会うことを許されなかった。
それに、なにより、王妃は一秒でも早く魔物討伐に行って欲しかったため、国王に会う時間があるなら出発しろ、という思いもあり許可を出さなかった。
イフェイオンも王妃が何を思っているかわかっていたが、引き下がることはできなかった。
国王をそんな状態にさせた犯人がよく言うな、と内心呆れながらも、会うまでは討伐に行かないと言った。
イフェイオンを含めたルーデンドルフ家は国のために戦う騎士だが、国王に忠誠を誓っている。
その証として、戦いに行くときは必ず国王に誓いを立ててから出向する。
例え、意識不明の状態でも、この行為をしないわけにはいかなかった。
王妃は遠回しに、それは自分にすればいいと言ったが、そのことには気づいていないふりをして、イフェイオンは国王に会わせてほしいと頼み続けた。
イフェイオンと王妃の会話を聞いていた臣下たちは、これは物凄く無駄な時間だと思っていた。
そんな時間があるなら、魔物討伐に時間を割くべきだと。
そんな臣下たちの苛立ちに気づいた王妃は、このままでは自分の印象が悪くなることを恐れて国王に会う許可を出した。
イフェイオンは許可が出るとすぐに王妃にお礼を言い、謁見の間から出て、国王の寝室に向かった。
報告で聞いた通り、国王の顔色は悪く今にも死にそうな容態だ。
見た限り、このままでは助からなさそうだったが、医療知識がないイフェイオンには信じることしかできない。
イフェイオンはベッドの横で跪き、誓いの言葉を述べる。
いつもなら帰ってくる言葉も返ってこない。
少し寂しく思いながらも、最後に言うお決まりの言葉を述べる。
ーー必ずや勝利を勝ち取り、国の平和を守ります。
言い終わって立ち上がると、出る前にもう一度国王の顔を見た。
さっきより顔の表情が柔らかくなっている気がした。
気のせいかもしれないが、誓いの言葉を述べた後、毎回国王はそんな表情をして「任せた」とただ一言言っていたので、寝ててもそう言ってくれているようで、つい嬉しくて口角が上がってしまった。




