ゲイルの秘密
「ルーデンドルフ小公爵様にお聞きしたいことがあります」
平民が貴族に問いかけることなど許される行為ではない。
だが、ゲイルは既に何度も貴族に対して許されない行為を犯した。
今さら、もう一つ増えたところで怖くはなかった。
それに、イフェイオンがそんなことで怒るような人間ではないとこの数分でわかっていた。
「なんだ」
ダイヤモンドのように美しいイフェイオンの瞳が真っ直ぐゲイルの瞳を捉えた。
「なぜ、エニシダ様をお探しになっているのですか?あなた様はリナリア様を愛しているのではないのですか?」
エニシダと婚約する前にイフェイオンが栄光の冠をリナリアに渡したことは国民全員が知っていた。
エニシダと婚約してからは栄光の冠を誰にも渡さなかったため、イフェイオンが愛しているのはリナリアだけだと誰もが思っていた。
それなのに、目の前の男はなぜ消えた婚約者に会おうとしているのか。
「それとも、エニシダ様が不治の呪いをかけられたため罪悪感から会おうとしているのですか?」
「なぜ、彼女が呪われたことを知っている」
イフェイオンの目が鋭くなる。
一気に家の中の空気が重くなった。
イフェイオンは彼がエニシダに呪いをかけたのかと疑いの目を向けるが、すぐにそれはないと頭の中で消し去る。
もし仮に目の前の男がかけたのなら、すぐバレそうな事を言わないだろうし、彼女のことを本気で心配することもない。
なら、何故この男は知っているのだ、と警戒してしまう。
それはギルバートも同じで、柔らかい表情が一変して険しくなっていた。
「一目見ればわかりますよ」
「いいえ、わかりません。わかるはずがありません」
ギルバートが即座に否定する。
わかるはずがない。
昔ならともかく、今は魔法が発達し髪の色など簡単に変えられる。
「それは私が医者だから、そう思うのでしょう」
ゲイルの言いたいことがわからず、二人は警戒心を強める。
「ですが、私は元神官です。いや、神官と名乗ってもいいか微妙ですが、神官の仕事をしていました。不治の呪いに関しては全て頭に入っています」
ゲイルの言っていることが本当なら、彼がエニシダを一目見て不治の呪いにかけられているとわかるのは可能だ。
ただ、それだと矛盾する点が生じる。
「確かに、あなたが元神官ならエニシダ嬢を見て不治の呪いにかけられると判断することは可能だと思います。ただ、それが本当だとおかしい点が浮上します」
「神官は一度は神殿に属すると二度と出ることはできない、ですよね」
ゲイルはなんともいえない怒りや苦しさ軽蔑を込めた瞳で、困ったように笑った。
「はい。そうです。あなたが元神官だとおっしゃるなら、どうしてあなたは今ここにいらっしゃるのでしょうか」
ギルバートは時の魔法を使ってゲイルの過去を覗きたかったが、一度使ったら次に使うまで一か月使えなくなる。
そのため、今は使えなかった。
歯痒さを感じながら、質問するしかなかった。
「その話をすると長くなりますね」
思い出したくない過去なのか、ゲイルは顔を歪める。
少しして息を吐いてから覚悟を決めた表情をして、こう言った。
「お見せした方が早いでしょう」
ゲイルはそう言うと席から立ち上がり、水を顔に大量にかけた。
ゲイルの意味不明な行動に二人は何をしているのかと内心思ったが、顔には一切出さずにただ黙ってその行動を見守った。
手にしていた容器の水を全てかけ終わると、タオルで顔を拭いた後、ゲイルは椅子に座り直した。
「「……!」」
ゲイルが目の前に座ると、二人は驚きを隠せなかった。
さっきまでなかった真っ白な顔にたくさんのシミが浮かんでいた。
「……あなたは、神から、見放された、子……なのですか?」
ギルバートは言葉を選びながら尋ねたが、どう言ってもそれはいい言葉にはならず、貶してしまうようになった。
他の言い方だと「悪魔の子」「悪魔に魅入られた大罪人」しかない。
「はい。そうです」
ゲイルは微笑んだ。
その微笑みは、全てを諦めたかのような微笑みだった。
ギルバートは彼のそんな笑みをみて、自分がどれだけ失礼なことを言ったのかと後悔した。
「私は'神に見放された子'ですが、'神の意志を引き継ぐ者たち'である神官としての才、神聖力を使うことができるのです」
ゲイルは右手に神聖力を纏い、二人に神聖力の象徴である水色のオーラを見せる。
「おかしな話しですよね。'神に見放された子'が'神の意志を引き継ぐ者たち'でもあるなんて」
ゲイルは自傷気味に笑った後、神聖力の力を消した。




