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ルーデンドルフ家


「彼女の呪いを解く方法はまだ見つからないのか?」


イフェイオンは部下に問いかける。


「申し訳ありません。まだ……」


部下は申し訳なさそうに謝る。


「いや、すまん」


不治の呪いを解く方法が簡単に見つかるなら、彼女にかけられた呪いを「不治の呪い」の一つとして扱われなかっただろう。


彼女にかけられた呪いは不治の呪いの中でも最も不明のものである。


誰がかけたのか、どんなかけかたをしたのか、何人でかけるのか、誰がどんな想いでかけたのか。


一つのこと以外全てが謎に包まれていた。


唯一わかっていることは呪いをかけられたものが死ぬと、心臓がなくなるということだ。


その理由はわからないが、この呪いにかかった者は全員心臓が消えていた。


何か一つでも新たにわかれば彼女を救えるかもしれないのに、調べても何も出てこない。


どうしたら彼女を救えるかがわからない。


婚約破棄を告げられた日から寝る間も惜しんで調べていたせいで、イフェイオンの体はとっくに限界を迎えていた。


あと少しで張り詰めていた糸が切れそうというとき、扉を叩く音が聞こえた。


いい知らせかもしれない、とほんの少し期待をして「入れ」と命じたが、入ってきたのはリナリアだった。


部下はリナリアに一礼したあと、部屋から出て行った。


「何のようだ」


眉間に皺が寄るのがわかる。


今はリナリアに構っている暇がない。


今すぐ出ていって欲しいくらいだ。


だが、リナリアは双子の妹のエリカと仲がいいため無碍に扱うことができない。


「エリカからあなたが元気ないから会って欲しいって手紙をもらったの。だから、会いにきたのよ」


「今はお前に使う時間がない。悪いが帰ってくれ」


エリカにまでわかるほど心配かけたことに申し訳ないと思うも、それより余計なことをされたことに苛立った。


今のイフェイオンは他人に気をつかう余裕がなかった。


「そんな言い方しなくてもいいじゃない。心配してきてあげたのに」


リナリアはやれやれといった様子で首を横に振る。


「ずっと部屋に篭ってるんだって?食事も抜いているそうじゃない。顔色も悪いわ。その様子だと寝てなさそうだし」


リナリアは困った表情でため息を吐く。


「まずは食事をしましょう。その後に睡眠ね」


リナリアはイフェイオンの持っていた資料を取ろうと手を伸ばす。


だが、資料に触れる前にイフェイオンに手をふり払われた。


「触るな」


その声は静かだったが圧があり、拒絶だった。


リナリアは出会ってから初めてイフェイオンから冷たい視線を向けられた。


「え……ちょ、どうしたの、イフェイ?」


リナリアは初めてイフェイオンから拒絶されたことに戸惑い声が震えた。


「二度も同じことを言わせるな」


イフェイオンの冷たい声が部屋に響く。


リナリアが何も言えずに固まっていると、慌てたように扉を叩く音が聞こえた。


イフェイオンが「入れ」と言うとギルバートがやっぱりか、と言った表情をしながら入ってきた。


ギルバートはここ一週間イフェイオンのそばにいた。


調べものをするために、ほんの少しイフェイオンの傍から離れていた。


すぐ戻って報告するつもりだったが、思った以上に時間がかかった。


そのせいで、エリカに呼ばれてリナリアが訪れたことも、イフェイオンと二人っきりになっていることも、ついさっき知らされた。


それを聞いた瞬間、最悪だと思った。


愛する女性が不治の呪いをかけられて、それを救う手立てがなく苛立っている状況に、自分を好いている者(イフェイオンは気づいていない)が近づいてきて邪魔をしたらどうなるだろうか?


言われなくても答えは簡単にわかる。


ギルバートは全力疾走でイフェイオンたちの元に向かった。


何とか間に合ってくれと祈ったが、その祈りは神には届かなかったみたいだ。


どうやってこの重い空気を変えればいいのだ、と悩んでいるとリナリアが「イフェイ」と弱々しい声で読んだ。


「あなたがこんな状況になったのはエニシダ嬢のせい?」


リナリアのその言葉を聞いてイフェイオンは資料から視線を外しゆっくりと彼女を見た。


ギルバートも「は?」と思いながらリナリアを見た。


「やっぱりそうなのね」


イフェイオンの反応を見てリナリアは彼がおかしくなったのはエニシダのせいだと確信した。


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