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襲撃者 その3

煙が完全に消え去った路地には、破壊の痕跡だけが残っていた。壁に刻まれた亀裂、転がる瓦礫、そしてユリウスの果物袋から零れたリンゴが転がっている。


ユリウスはゆっくりとトリスタンに近づいた。その金色の瞳は、純粋な感謝と尊敬に満ちていた。


「トリスタン先輩……ありがとうございました」


ユリウスの声は小さく震えていた。いつも飄々とした彼の表情が、今は安堵と深い敬意で満たされている。


トリスタンは大きく息を吐き出した。まだ肩が上下し、心臓が早鐘を打っている。先ほどの異常な昂揚感は消え、代わりに疲労感と恐怖の余韻が押し寄せていた。


「僕は……」トリスタンは自分の両手を見つめた。巨大な手には戦いの痕跡が生々しく残っていた。「僕は……ただ君を守りたかっただけだ。それだけなんだ」


ユリウスはそっとその手を取った。柔らかな白い手が、荒れた大きな掌に優しく触れる。


「それが『力』なんです。先輩」ユリウスは静かに言った。「誰かを守りたいという想いが、人を強くするんです。僕はそれを……今日改めて教えてもらいました」


トリスタンの目に涙が滲んだ。今まで抱えてきた無力感や臆病さが、ユリウスの言葉によって解きほぐされていくようだった。


「君は……僕なんかを信じてくれるのか?」彼は震える声で尋ねた。「僕は争いが嫌いだ。臆病者だ。なのに……」


ユリウスはゆっくりと首を横に振った。


「臆病であることは罪ではありません。ただ……大切なものを守る勇気が持てるなら、それはもう弱さじゃないんですよ」


月光が路地を優しく照らした。二人の影が壁に映り、まるで長い時間を共にしてきた友人のように寄り添っていた。


***


ユリウスは果物を拾い集めながら、ふと思い立ったように口を開いた。


「先輩。もし良ければ……これからも僕を助けてくれませんか?」


トリスタンは驚いたように目を見開いた。


「え……?」


「今回の件で分かったんです」ユリウスは真剣な表情で続けた。「僕一人ではできないことがたくさんある。そして……僕の背中を預けられる人が必要なんです」


ユリウスは真っ直ぐにトリスタンを見つめた。


「僕の『信じる先輩』が……僕を守ってくれたように。今度は僕も……先輩を守りたい」


トリスタンの心臓が高鳴った。今まで感じたことのない温かい感情が胸に広がっていく。


「……僕は……」


言葉が出なかった。だが、トリスタンはゆっくりと頷いた。彼の大きな体が、ユリウスの小さな体を優しく包み込んだ。


「……ありがとう、ユリウス」


ユリウスはトリスタンの胸の中で小さく笑った。その笑顔には、今までにない確かな信頼があった。


「一緒に歩みましょう、先輩」ユリウスは顔を上げた。


翌朝、トリスタンは寮の部屋で目を覚ました。昨夜の出来事が夢のように思えたが、腕に残る僅かな痛みが現実だと告げていた。


ユリウスは既に起きており、窓辺で小さな魔法の鳥を飛ばしていた。


「おはようございます」ユリウスが振り返って笑った。「今日は特別授業があるそうですよ」


トリスタンはベッドから起き上がり、少し照れくさそうに笑い返した。


「おはよう、ユリウス」

彼はもう、昨日までの彼ではなかった。胸に秘めた小さな勇気が、確かに芽生えていた。


二人の新しい物語は、ここから始まるのだった。

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