襲撃者
窓から差し込む柔らかな陽光が床に金色の縞模様を描いていた。ユリウスは机に向かい、古びた羊皮紙に書かれた魔術理論を吟味しながらペンを走らせていた。その対角線上にあるベッドの隅で、トリスタンは大きな体を縮めるようにして本を膝に抱えていた。
「今日は良い天気ですねぇ。お散歩でもしたくなります」ユリウスが顔を上げ、にこやかに言った。
トリスタンは本から顔を離し、少し寂しげに微笑んだ。「君は本当にのんきだなぁ……でも、そういう君を見ると、気持ちが少し楽になるよ」
「ありがとうございます。先輩も一緒にどうですか?」ユリウスは明るく誘った。
トリスタンは少し考え込んだ後、照れ隠しのように手を振った。「うーん、今ちょっと手持ちが心許なくて……」
ユリウスは特に気にした様子もなく頷くと、書物を閉じた。「では、僕は少しだけ買い物に行ってきますね」
軽やかな足取りで部屋を出るユリウス。ドアが閉まる音が部屋に響き、トリスタンは再び本に目を落としたが、その心には妙な不安が渦巻いていた。
***
夕暮れが近づき、石畳の路地は既に薄暗くなっていた。人通りはほとんどない。ユリウスは果物の入った布袋を提げて歩いていた。ふと足を止め、周囲を警戒するように見回す。何かを感じ取ったのか、彼の瞳が鋭くなる。
「救世主……ここで終わりだ」闇の中から低い声が響いた。
ユリウスが振り返る間もなく、黒装束の影が躍り出た。鋭い短剣が月光を反射し、一直線に彼の胸元へと向かう。ユリウスは咄嗟に身を捩って回避するが、その瞬間、短剣からのようなものが噴き出し、彼の周囲に広がった。霧が肌に触れると、体内の魔力が急速に吸い取られるような感覚に襲われる。
「魔力阻害の呪具ですか?これは、ちょっと厄介ですねぇ」
ユリウスは額に汗を浮かべながらも、落ち着いた声で呟いた。詠唱を試みるが、紡ぎかけた魔法の術式は霧に触れた途端に霞のように消えてしまう。大技どころか、基本的な防御魔法すら普段どうりに使えなかった。
(これはあの沼地の霧に良く似ている……)
沼地に現れたキメラ、そしてその沼地特有の霧を模した呪具を持った謎の襲撃者、偶然であるはずがなかった




