ユリウスの魔術講座
ザナヴァスが部屋で難しい顔をして腕組みをしていると、ルームメイトのエドガーが猿男らしく軽い調子で声を掛けてきた。
「ザナ先輩、なんか難しい顔してるっすね?またテストの結果でも悪かったんすか?魔術のやつ」
「……うるさい。少し考え事をしていただけだ」
ぶっきらぼうに答えるザナヴァスだが、エドガーの指摘は的を射ていた。剣術なら誰にも負けない自信があるが、こと魔術となるとてんで駄目だ。特に基礎理論となると頭が痛くなる。
「まぁ、魔術のことならユリウスに聞いてみたらいいんじゃないすか?あいつ、魔術オタクですし。……ただ、話が長くなると思うっすけどね。魔術の話になると止まらないんで、あいつ」
エドガーがニヤニヤしながら付け加えた言葉に、ザナヴァスは眉間の皺を深くした。あのほわほわした金髪の少年は、魔術のこととなると目の色を変えて語り出す。それが長いことは想像に難くない。しかし、他に頼れる当てはないのも事実だった。
「……仕方ねぇ。相談だけしてみるか」
ザナヴァスは渋々腰を上げ、ユリウスの部屋へと向かった。
***
「ふむふむ、ザナヴァス先輩は魔力の流れがうまくイメージできないんですねぇ。それは基礎の基礎ですよ。魔力の流れを把握できないと、どんな詠唱をしても効率は悪いままですし、最悪暴発の原因にもなりますからね」
ユリウスはザナヴァスの悩みを聞くと、ぱぁっと顔を輝かせた。まるで新しい玩具を見つけた子供のように。
そして始まったのが、ユリウスによる魔術力学の講義だった。
「まずですね、魔力というのは体内を巡る血液のようなものなんですよぉ。でもただ流れるだけじゃなくて、意志の力で操作できるんです。これは魔術の基本中の基本でして、この『操作』の感覚を掴むことが重要なんです。例えば火属性の魔術を使う時には、魔力を一点に集めて、それを指向性を持たせて放出する。この際の魔力の密度や指向性の角度によって威力や精度が変わってくるわけですが、これを可能にするのが魔力制御の技術なわけです。では具体的にどうすればこの感覚を掴めるかというと……」
ユリウスは時折首を傾げたり、虚空を見つめたりしながら、立て板に水のごとく語り続ける。その内容は的確で分かりやすい……のかもしれないが、ザナヴァスにとっては専門用語の洪水だった。彼はただ黙ってうんざりと聞いていることしかできなかった。約一時間、それは永遠とも思える長さだった。
***
「……というわけで、魔力の流れを知覚することこそが全ての始まりなんです。お分かりいただけましたでしょうか?」
ユリウスがにっこりと微笑んで問いかけてきた時、ザナヴァスは既に限界を迎えていた。
「いや、全然わからん!もっと俺に分かるように説明しろ!」
思わず叫ぶと、ユリウスは少し驚いたように目を丸くしたが、すぐに納得したように頷いた。
「ふむふむ、そうですよねぇ。言葉だけでは難しいかもしれません。では、実践してみましょうか!」
その言葉に、ザナヴァスはほんの少しだけ希望を抱いた。実践ならば、あるいは……。




