連携
カシの木の周囲は、地獄絵図と化していた。
沼地から伸びる数十本の太い触手が、逃げ遅れた生徒たちを絡め取っている。ヌメヌメした表皮が月光を不気味に反射し、粘液が糸を引く。触手の先端は異形だ。蛇の頭を持つもの、鳥の嘴を持つもの、獣の爪を持つもの――明らかに自然界の法則を無視した歪な融合体だ。
「はぁぁぁっ!!」
ザナヴァスの咆哮と共に、霧が吹き飛ぶほどの衝撃波が走った。ユリウスの施した身体強化魔法を受けたザナヴァスが、剣を振り下ろす。魔力付与された刃は、狙いを定めた巨大な触手をいとも容易く両断した。
「キシャァァァッ!!」
切断面から粘液が噴出し、千切れた触手の先端が痙攣する。しかし――すぐにそれは再生を始めた。蛇の頭部が新たな肉片を形成し、切断面から新しい触手を伸ばし始める。
「こいつ……!再生してるぞ!」
「多分核を潰さなきゃ意味がないんです!」ユリウスの声が飛ぶ。彼は剣を逆手に持ち、ザナヴァスの死角を狙う別の触手を一刀両断した。同時に、捕らわれた生徒の一人に駆け寄り、剣の柄で触手の関節部分を叩き壊す。「魔力核はそれぞれの触手の中に分散配置されています!先輩、僕が触手を斬り飛ばしますので、先輩は飛んだ触手の核を叩いてください!」
「了解だ!」ザナヴァスは再び剣を構える。ユリウスの指示に一切の迷いはない。互いの動きを熟知しているかのような連携だった。
ユリウスが剣を振るう。その動きは舞うように優雅でありながら、的確に触手の弱点を突く。刃が閃くたびに触手が宙を舞い、その破片にザナヴァスの剣が突き刺さる。剣の先端に宿ったユリウスの魔力が炸裂し、触手の内部で脈打つ微小な魔力核を破壊していく。
「くっ……!数が多すぎる!」
ザナヴァスが背後から迫る触手を切り払うが、他の触手が生徒たちを袋状に包み込もうとする。その表面は消化液で溶解する性質を持っているのが見て取れた。
「僕が対処します!」
ユリウスは剣を振るいながら、小さな呪文を紡ぐ。剣に宿る魔力が増幅され、剣閃が触手を追う。袋状の触手に達した瞬間――
「『風牙』」
剣の軌跡が残光となって炸裂した。それは風の刃だ。しかし、ユリウスの詠唱はごく簡易なものだったはずだ。古代魔術に精通するユリウスだからこそ可能な、現代魔術の枠を超えた応用術式。袋状の触手は内側から破裂し、中に閉じ込められていた生徒が解放される。
「無事ですか?」ユリウスはすぐさま駆け寄り、生徒の肩を支える。
治癒魔法が傷を塞いでいく。ユリウス自身も触手に引っ掻かれた腕から血が滴っているが、自身の傷は後回しにして生徒たちの安全確保を優先していた。
ザナヴァスが歯を食いしばる。ユリウスの戦い方を見て、己の無力さを痛感していた。確かに素の状態であれば身体能力はザナヴァスが上回っているかもしれない。しかし、ユリウスは状況分析と魔法・剣技の複合運用において、はるかに高度な次元にいる。霧で魔力が乱れるこの環境下で、これほど的確に魔法を操るとは――
(こいつ……本当に底が見えねぇ)
「先輩!集中してください!」ユリウスの声が意識を引き戻す。新たな触手が複雑な軌道を描いてザナヴァスを襲う。
ユリウスがその前に躍り出た。剣を両手に構え、触手の動きを完全に読み切ったかのように最小限の動作で回避し、連続で斬りつける。
「『閃』『疾』『断』!」
一息に三つの魔力短詠唱。風牙の応用か、剣撃が風圧を伴って触手を切り裂き、切断面で小爆発が起こる。触手がバラバラになり、核が露出する。それをザナヴァスが見逃さなかった。
「オオオオッ!!」
剣が核を粉砕する。同時に、ユリウスの放った魔力が剣の軌道を補正し、威力を倍加させていた。ザナヴァスはユリウスのサポートの精度に驚愕しながらも、その手応えを感じていた。互いの力が完璧に噛み合っていたのだ。




