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救世主?

昼下がりの街は喧騒に包まれていた。石畳の通りを行き交う人々。屋台からは甘い焼き菓子の香りが漂い、広場では大道芸人が拍手を浴びている。


「おっ! やっぱりこのチョココーティングのパンケーキが一番美味いぜ!」

エドガーが頬張りながら目を輝かせる。猿獣人の俊敏な手さばきで二枚目を確保する彼に、コンラッドが呆れたように声を上げた。

「食い過ぎだ。公演前に腹痛起こしたらどうする?」

虎獣人の青年は真っ直ぐな性格が顔に表れている。武具店のウィンドウには彼の目が釘付けだ。「でもよ~、こんな華やかな場所で大人しい方がおかしいって!」

エドガーの陽気な声を遮るように、古書店の扉が静かに開いた。アレクシスが数冊の本を抱えて出てくる。鷹獣人の鋭い目つきは紙面の文字に集中している。

「ユリウス、君はどう思う? 古代儀式に関するこの論文は参考になるか?」

「ええ、面白そうです!さっそく一緒に……」

ユリウスが答えた瞬間――

「救世主よぉおお!!」


突如響き渡る叫び声。小柄な男が駆け寄り、ユリウスに飛びついた!


「うわっ!?」

「なっ! おい離せ!」

コンラッドが鋭い爪で襟首を掴む。引き剥がされた男は眼鏡をずらしながら地面に転がった。

「わ、私は怪しいものではありません! 救世主様に頼みがあるのです!」

必死に手を合わせるその男――丸眼鏡に派手な赤いジャケット。劇団団長アルノー・ヴァルクリードだ。


「……え? 僕が救世主?」

「そうだ! あなたのその金色の髪と澄んだ瞳! まさに《暁の舞台》の主役に相応しい!」

アルノーの涙声に周囲がざわつく。ユリウスは困ったように髪を掻いた。

「でも僕は舞台なんて……」

「主演女優が失踪したんだ!」

エドガーがパンケーキを落としかけた。

「今日の夜公演なんです! 開演まであと四時間しか……!」

「いや、無理です。門限もあるので…」

「そこを何とか!!」

アルノーは泥に塗れた膝をついて土下座した。通行人たちが遠巻きに囁き始める。

ユリウス達は顔を見合わせて大きな溜息をついた。


選択肢は一つしかなかった。


***


劇場は街一番の華やかな建物だった。入り口には「暁の舞台 今宵の悲恋劇」という垂れ幕が下がっている。

楽屋に通されたユリウスの周りには、劇団員が目を輝かせながら群がった。

「すごい……本当にミレーユそっくり!」

「お顔立ちも声色もピッタリだわ!」

衣装係が慌ただしく衣装を合わせ、メイク係が頬に紅をさす。あっという間にユリウスは主人公役の王女に仕立て上げられた。


「まさか代役なんて……」

ユリウスが鏡を見つめると、エドガーが背後で腕を組んで唸った。

「で、問題のミレーユ嬢だが――」

その時、楽屋の扉が開いた。震える手に握られた一枚の紙。差出人は不明だ。

《娘の命が惜しければ、今夜の開演までに五千金貨を用意しろ》


「なんてことだ……!」


アルノーが顔を青ざめさせる。ユリウスは眉を寄せた。

「団長。金は渡さない方がいい。犯人は必ずまた要求してきます」

「しかし……!」

「安心してください。僕達が解決します」

ユリウスが振り向くと、エドガー達が頷いた。

「任せろ!」とエドガーが胸を叩く。

「まずは情報収集だな」とコンラッドが低く呟く。

アレクシスが静かにメモを取り始めた。

「あ、あの……僕も手伝います……」

セナが影に隠れながら声をあげた。


ユリウスは微かに微笑んだ。

「ではこうしましょう。僕は稽古に専念します。皆さんは――」

「任せとけって!」エドガーが親指を立てた。

「情報班・エドガー&セナ。戦闘班・コンラッド&アレクシス。そして僕が舞台を守る」

まるで魔法のような迅速な作戦決定に、劇団員達は呆然と見守るしかなかった。

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