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ライナス・エルヴェイン

学院の昼休み。ユリウスは一人で食堂へ向かっていた。午前の授業で少々疲れてしまったが、魔術理論の講義は充実していた。廊下の窓から差し込む光が眩しく、金髪がきらめく。


「やぁ、ユリウス! 一緒にご飯どう?」


突然の声に振り向くと、明るい笑顔の犬獣人がいた。ライナス・エルヴェイン――先輩の一人だ。黒い毛並みに茶色の模様が入った耳と尻尾がぴょこぴょこと動いている。


「あっ……ライナス先輩。ぜひご一緒させてください」


ユリウスが控えめに答えると、ライナスは嬉しそうに「よし!」と声を弾ませた。二人は並んで食堂へ向かう。


***


食堂はすでに混雑していた。空いた席を見つけて座ると、ライナスはトレイに載せたチキンソテーにぱくつきながら、唐突に切り出した。


「実はさ、ザナヴァスのことなんだけど――」


ユリウスはスプーンを持つ手を一瞬止めた。今は打ち解けたが、最初は厳しい態度だった。


「あいつが最近、昔みたいに明るくなったんだ。人に手を差し伸べて笑うなんて、本当に久しぶりでさ」


ライナスは嬉しそうに笑いながら


「……それはきっと、君のお陰だよ」


「そんなことはありませんよ」とユリウスが謙遜すると、ライナスは真剣な表情になった。茶色の瞳がまっすぐこちらを見つめる。


「実は家からも言われてるんだ。『ユリウスと親しくなれ』ってね。侯爵家だからさ、どうしても政治的に敏感でさ」


ユリウスは息を詰めた。やはり貴族社会では自分の存在は大きいらしい。


「でも、俺がこうして声をかけたのは義務感だけじゃないよ。お礼を言いたかったんだ」


ライナスの声には嘘がなかった。彼は続ける。


「あいつの性格、知ってるだろ? 頑固で融通が利かない。けど本当は仲間思いなんだ。君が現れて、初めてあいつが『心から誰かを大切にする』姿を見た気がするんだ」


ユリウスは少し照れた。


「僕は何も特別なことは……」


「特別だよ」ライナスは断言した。


「君が現れてから、みんな変わった。ザナヴァスだけじゃない。クラスの雰囲気も、エドワード様も――全部」


ユリウスは戸惑いを隠せなかった。自分が特別扱いされることへの居心地の悪さが胸をよぎる。


ライナスは察したのか、急に爽やかに笑った。


「あーごめんごめん! 政治とか偉そうな話は忘れて! 俺はただ――可愛い後輩が困ってるんじゃないかって心配だっただけさ!」


突然の軽いノリにユリウスは目を丸くした。


「……可愛い後輩?」


「そ! 君は変に気を使いすぎてるって聞いたからさ」ライナスはソースを拭いながら


「今や君はヴァルデール王国で一番注目されてるんだぜ? みんなの視線が集まってる。でも、俺にとっては――ただの可愛い後輩だ」


その言葉には打算が一切感じられなかった。犬獣人は耳をピンと立てて、太陽のように笑う。


ユリウスはふっと肩の力が抜けた気がした。


「ありがとうございます……ライナス先輩」


「礼なんかいらないって!」


ライナスは握り拳を軽く机に乗せた。


「君が変えてくれたこと、そしてこれから変えていくこと……考えるだけでワクワクする」


真剣な口調が再び戻る。


「だから――これからもよろしくな、ユリウス」


差し出された大きな手。ユリウスは一瞬迷ったが、しっかりと握り返した。ライナスの掌は温かく、誠実さに溢れていた。


食堂のざわめきの中、二人の握手が静かに交わされた。爽やかな笑顔の先輩と、少し照れながら応える後輩――そんな光景がそこにあった。

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