おちこぼれの勝利
「馬鹿な……私の……私の力が……こんな……!」
サリオンは膝を折り、信じられないというように頭を抱える。その体から黒い瘴気が急速に抜けていき、彼は力なく地面に崩れ落ちた。
森の瘴気が晴れていく。木々の黒ずみが薄れ、緑の息吹が戻り始める。精霊たちの囁きは再び甘美な旋律となり、里を包んでいた暗雲が散り、陽光が差し込んできた。
ヴォルカは肩で息をしていた。蒼炎は収まりつつあったが、その体からは今もなお青白い光の粒子が漂っている。彼の体の変化は内面だけにとどまらず、外見にも現れていた。鱗の黒鉄色の下から、以前にはなかった澄んだ青銀色の輝きが覗いている。まるで煤の中に隠されていた真珠のような輝きが表面化したかのようだった。
「ヴォルカ……!」
ライエルが驚きと感謝を込めて名を呼ぶ。ユリウスは静かに微笑み、そしてヴォルカに近づくと、そっとその首元に手を添えた。
「お見事でした、ヴォルカ」その言葉には、偽りのない称賛が込められていた。
ヴォルカは照れくさそうに鼻を鳴らしたが、その心はかつてないほどの充実感に満たされていた。落ちこぼれだった自分。しかし、今は違う。守るべきもののために戦い、勝利した。そして、その力はユリウスという仲間からの信頼と、自身の魂の叫びによって呼び覚まされたのだ。
彼は天を仰ぎ、その蒼い瞳で再び光を取り戻した森を見渡した。もう二度と、ただの落ちこぼれとは呼ばせない。自分の魂の色は、紛れもなくここにあるのだから。
戦いの熱気がようやく冷め始めたエルフの里。倒れ伏したサリオンの周囲には、エルフの衛兵たちが警戒の輪を広げていた。ユリウスは油断なく彼を見下ろす。
「抵抗は無駄ですよ。あなたの呪法はもう完全に解かれました」
ユリウスの声には有無を言わせぬ響きがあった。サリオンは憎々しげに唇を噛みしめるが、もはや抵抗する力も意思もないようだった。精霊を闇へと堕とすための呪具は破壊され、彼の体内に宿っていた瘴気もほとんど抜け落ちている。
「……ふん、落ちこぼれの竜如きに……」
ヴォルカが低く唸る。
「うるさい。俺が『落ちこぼれ』だろうと何だろうと、お前を倒せた事実は変わらん。それに……」
ヴォルカはちらりとユリウスを見た。その瞳には、以前にはなかった確かな光が宿っていた。
「俺の仲間を傷付けようとする奴は、誰であろうと許さん」
***
森は急速に再生の兆しを見せていた。黒ずんでいた木々は瑞々しい緑を取り戻し、湖の水は澄み渡り、精霊たちの歌声が再び優しく響き渡る。囚われていたエルフたちも続々と解放され、家族や友人と再会を喜び合っていた。
その輪の中で、ライエルは一人のエルフの男性と固く抱き合っていた。
「父上!よくぞご無事で……!」
「ライエル……!お前こそ、よく無事だった……!」
ライエルの父フェインローズ王は、衰弱していたものの、息子の姿を見て目に涙を浮かべていた。ユリウスたちの存在に気づくと、深々と頭を下げた。
「ユリウス殿、そして皆様方。我が里と民を救っていただき、このフェインローズ、生涯忘れることはありません。御礼の言葉もございません」
ユリウスは謙虚に答える。
「いえ、私はただすべきことをしたまでです。それよりも、今後の対策を考えるべきでしょう。この里の結界も修復しなければなりませんね」
その冷静な言葉に、フェインローズは改めて彼の能力と洞察力に敬意を払った。
やがて、長老セリュナが杖をつきながらユリウスたちの前に進み出た。その表情は安堵と深い感謝に満ちていた。
「ユリウス殿、そして竜たちよ。この里の長老として、心より感謝申し上げます。あなた方がいなければ、私たちは今頃どうなっていたことか……」
セリュナはゆっくりとヴォルカに向き直った。
「ヴォルカ=スモルドよ。そなたの炎は確かに煤に覆われていたかもしれぬ。だが、その奥に眠る鋼の意志と仲間を守る尊い心は、誰よりも強く輝いておった。その魂の輝きこそが、真の竜の証。そなたはもう、落ちこぼれなどではない」
ヴォルカは少し目を見開き、それから小さく頷いた。照れ隠しに「ふん」と鼻を鳴らしたが、その尻尾は嬉しそうにわずかに揺れている。
ヴォルカは「ああ」とぶっきらぼうに返事をしたが、その声には以前のような刺々しさはなかった。




