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料理対決

学院の中央調理室は熱気に包まれていた。壁一面の窓から差し込む陽光が、磨かれた調理台を照らし、準備された食材が宝石のように輝く。そこにはすでに何組ものペアが待機していた。


「皆さん、注目!」調理室の入り口で、トリスタンが両手を広げて叫ぶ。白いコック帽をかぶり、エプロンを締めた姿はやけに様になっている。「本日のイベントは『チームで作る!美食対決』!2人1組で、制限時間1時間以内に最も美味しい料理を完成させてください!」


調理台の周りからは歓声が上がる。普段は競争相手の多い学院生たちだが、共同作業という非日常に興奮しているのだ。


「制限時間は1時間!」今度はライナスが声を張る。こちらも同じくコック帽とエプロン姿だが、なぜか手に持った大きな砂時計を掲げている。「使用できるのは基本食材のみ!特別な香辛料や調味料は禁止です!」


「おおーっ、面白そうだな!」ブルドランが大きな声で叫ぶ。彼は腕まくりをし、すでに気合十分だ。「やるぞ!おい、相棒!」


「ふん、手際良く作れ。無駄に焦がすな」調理台の一角に陣取ったダミアンが、冷ややかに言い放つ。黒獅子男獣人の王子としての威厳を見せつけながらも、その目は興味深そうに周囲を観察している。隣には緊張した面持ちのハインリヒが立っていた。


「は、はい、王子様。頑張ります」ハインリヒは汗をぬぐいながら答える。


「俺はエドガーと組む。手取り足取り教えてやるよ」ザナヴァスが肩を回しながら言う。黒狼男獣人の先輩としての威厳を漂わせつつ、幼馴染のエドガーに視線を向ける。


「うおっ、任せろザナ先輩!よし、頑張るぞー!」エドガーは元気いっぱいに拳を突き上げる。お調子者の猿男獣人らしく、すでに周囲を和ませている。


**ダミアン&ハインリヒチーム:**


「おい、ハインリヒ。まずは火力を最大にするのだ」ダミアンがフライパンを手に取り、指示を飛ばす。


「は、はい!でもそれだと食材がすぐに焦げてしまいますが……」ハインリヒが躊躇いがちに言う。


「構わん。焦げた部分は削り取る」ダミアンはすでに巨大な牛肉の塊にナイフを入れている。豪快すぎる。


**ザナヴァス&エドガーチーム:**


「よし、まずは玉ねぎをみじん切りだ」ザナヴァスが冷静に指示する。「エドガー、お前は野菜を洗ってくれ」


「了解っす!」エドガーが張り切って玉ねぎに手を伸ばす──が、勢い余ってフライパンにぶつかり、中の油が跳ねる。「あっちぃー!」


「おい、気をつけろよ」ザナヴァスが苦笑しながらも手早く食材を処理していく。


**トリスタン&ライナスチーム:**


「落ち着いてやろうね」トリスタンが穏やかに微笑む。優しいパンダ男獣人の彼は、ゆっくりと人参の皮をむいている。


「ああ、慎重に……」ライナスも真剣な表情で包丁を握る。


***


調理が始まってから約40分。各ペアともに佳境に入っていた。ダミアンはフライパンから立ち上る煙に眉をひそめ、エドガーはまたしても卵を割るのに失敗し、悲鳴を上げている。


そんな騒がしい調理室に、ひょっこりと一人の少年が顔を出した。


「あらら、皆さん楽しそうですね」ユリウスがほほ笑みながら入ってくる。金髪をゆるく束ね、白いエプロンを身につけている。「僕も作りますー」


「……遅れてきて何を言う」ダミアンが冷たく言い放つが、その尻尾は無意識にパタパタと動いている。


「王子様、ここは黙っておいた方が……」ハインリヒが小声で耳打ちする。ダミアンは不服そうに鼻を鳴らした。


ユリウスはそんな二人のやり取りを気にすることなく、空いている調理台に立ち、手際よく動き始めた。その動作はまるで熟練の職人のようだ。包丁捌きは無駄がなく、火加減も絶妙。鍋を振る手さばきは踊るように優雅だった。


「くっ……あいつ、手際が良すぎる」ザナヴァスが思わず唸る。


「うぉ!ユリウス、マジでプロ級!」エドガーが目をキラキラさせている。


ダミアンもまた、苛立ちと同時に奇妙な感覚を覚えていた。(……なぜか目が離せない。ユリウスの手が、魔法のように動いている)


***


調理終了のベルが鳴り響く。一同はそれぞれの料理を完成させ、試食会へと移った。


「うおっ、ユリウスの料理……うめぇぇぇぇ!」ブルドランが一口食べて飛び上がる。シンプルな魚介のクリーム煮だが、驚くほど濃厚な旨味と豊かな香りが口の中に広がる。


「確かに……これはレベルが違う」ダミアンが珍しく感心した表情で呟く。その黄金の瞳は、料理を見つめるユリウスの姿を追っていた。


「僕たちのも悪くないけど……少し霞んでしまいましたね」トリスタンが苦笑いしながら言う。


「ちっ……俺ももっと完璧に作ればよかった」ザナヴァスが悔しそうに舌打ちする。


試食が進むうちに、参加者たちに変化が現れ始めた。なぜか全員が顔を紅潮させ、汗をかき、息が荒くなっているのだ。


「な、なんだか……体が熱い!」エドガーが叫ぶ。


「お、おい……これはまさか……」ダミアンが眉をひそめる。その耳はピンと立ち、呼吸が少し速い。


ユリウスはほんのりと頬を赤らめ、困ったように微笑んだ。「あらら……ちょっと張り切りすぎちゃいました。皆さんのエネルギーを底上げしようと『滋養強壮の魔術』をかけたんですけど……ついうっかり多めに入れちゃって」


その瞬間、調理室に異変が起きた。全員が突如として熱狂し、大声で叫び始めたのだ!


「うおおおーっ!走りたくなってきたあああ!」ブルドランが上着を脱ぎ捨て、裸足で廊下へ飛び出していった。


「はぁ……はぁ……これは……どうなってる……」ザナヴァスがフラフラと壁に寄りかかり、エドガーは嬉しそうに部屋中を駆け回る。


ハインリヒは呆然と立ち尽くし、トリスタンとライナスは互いの手を取り合い、なぜか踊り出した。


そしてダミアンは──ユリウスの方を真っ赤な顔で睨みつけながら、突然叫んだ。


「こ、これは……貴様のせいだぞ!ユリウス!今すぐ解除しろ!」


「は、はい!でも……僕もなんだか……」ユリウス自身も目を潤ませ、頬を染めていた。魔術の反動か、体が熱い。


結局、調理室は阿鼻叫喚の渦と化した。ユリウスが慌てて魔術を解除しようとするも、熱に浮かされた参加者たちは次々と暴走し、全員が上着を脱ぎ捨て、学院中を走り回る事態に。最終的に駆けつけた教師たちによって鎮圧され、事件は「ユリウスの魔術暴走事件」として伝説となった。

その代償として1週間の奉仕活動が命じられたが…


***


その日の夕方──ユリウスが一人で食堂の片付けをしていると、背後に静かな足音が近づいた。


「あっ、ダミアン。もう体調は大丈夫ですか?」


「……次からは気をつけろ。せめて俺を巻き込むな」

ダミアンが腕を組み、調理台に寄りかかっていた。耳はピクピクと動き、尻尾は小さく揺れている。


ユリウスはタオルを手に持ったまま、振り返って微笑んだ。「すみません……でも、皆と一緒に料理できて楽しかったです」


ダミアンの金色の瞳がわずかに揺れた。喉の奥で何か言葉を探しているような間があったが、結局は短くため息をついて、去り際にこう言った。


「……次は初めから参加しろ、後魔術は禁止だ」


そう言い残し、黒獅子の王子は背を向けて歩き去った。その後ろ姿を見つめながら、ユリウスはぽつりと呟いた。


「……はい、楽しみにしています」


彼の金色の瞳が、ほのかに優しい光を宿していた。

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