カイオスの覚醒
「うおおおっ!」
ガラドンが雄叫びを上げ、触手を斬り払った。ネレウスも双剣を煌めかせ、幻影を断ち切る。二人の目には再び戦士の炎が灯っていた。
カイオスが神器に手を伸ばす。
「これが……俺の力……!」
トライデントが王子の手に収まった途端、神殿全体が雷鳴のような轟音を響かせる。カイオスの体から青白いオーラが噴出し、タラッサの触手が次々と消し飛んだ。
「愚かな……!」
海魔の絶叫が水中を揺らす。残った触手が一斉に襲いかかる!
「殿下は神器に集中してください!」
ユリウスが前に飛び出した。彼の周囲に無数の魔法陣が浮かび上がる。
「影魔術・多重展開!」
ユリウスの姿が十重二十重と分身し、触手を惑わせる。炎の槍、氷の刃、雷の矢が四方八方から放たれ、タラッサの本体を削っていく。
「ユリウス……!」
カイオスは神器を握りしめた。穂先に海の魔力が収束し、槍は光の柱となる。
「俺は……王子として……!」
「殿下!」
ユリウスの叫びに応え、カイオスはトライデントを掲げた。
「この海を守る!!」
光の奔流が放たれた。それはもはや槍ではなく、天を貫く海の怒りそのものだった。
タラッサの巨体が飲み込まれ、光の中で塵となって消えていく。
「うぐおぉぉぉぉ……!!!」
神殿に静寂が戻った。波紋だけが残された。
***
カイオスは神器を抱えたまま呆然と立っていた。全身から力が抜けていく。ユリウスが彼の肩に手を置いた。
「殿下……」
「ありがとう……ユリウス……」
王子の声は震えていた。涙が水に溶けていく。
「今日の戦いは十分すぎるほどご立派でした」
ユリウスは微笑んだ。「でも……これからが本当の始まりですよ」
カイオスは深く頷いた。
「ああ……!」
そのとき、神殿全体が暖かな光に包まれた。海流が穏やかになり、水流が壁を優しく撫でるように変わる。海底神殿が本来の姿を取り戻したのだ。
ガラドンとネレウスが近づいてきた。疲労の色は濃いが、目に宿る光は以前よりも強い。
「帰ろう、皆」
カイオスが言った。神器を握る手に確かな力が込められている。
ユリウスはこっそり微笑んだ。この王子の目には、もう迷いはなかった。
彼は新たな海の守護者――王の器となったのだ。




