クラーケン その2
ユリウスの声が水中を貫く。
「ネレウスさん!動きを止めてください!」
ネレウスが双剣を閃かせると、剣先から無数の魔法糸が放射状に飛び散る。
「『鎖縛水網』!」網のように絡みついた触手が一瞬硬直する。
「ガラドンさん!頭部を狙ってください!」
「おうよ!」ガラドンの重斧が水中で加速。サメの牙のような刃がクラーケンの頭部を直撃し、紫色の血液が噴き出す。「ちっ、浅いか!」
ユリウスは二人の連携を見つつ、王子に指示を飛ばした。
「王子!今です!渦を押さえ込んでください!」
「……わかってる!」カイオスの杖が青く煌めく。「『潮流逆転』!」
地面から湧き上がる海流が渦の中心に衝突し、巨大な水の塊を形成。触手の攻撃が僅かに緩む。
「素晴らしい!」ユリウスが剣を抜く。
黒い刀身が星屑のような微細な魔術式で覆われていく。
「さあ、お片付けしましょうか!」
剣の一振りで触手三本が切断され、空中で爆発。
蒼白い閃光が遺跡を照らす。
***
しかし――
クラーケンの咆哮が鼓膜を破るほどの衝撃波を放つ。巨大な渦が再び形成され、全員が吸い込まれそうになる!
「ぐわっ……!」ネレウスの網が千切れそうだ。「耐えろガラドン!」
「うおおおおっ!」ガラドンの盾がひび割れながらも踏ん張る。
ユリウスの姿が水中で揺らめく。彼の瞳が鋭く光った。「王子!今です!」
カイオスは恐怖に歯を食いしばる。全身が震え、呼吸が乱れる。過去の惨劇が蘇る――護衛を失った夜、嵐の中で泣き叫ぶ民の声。でも……
「違う……!俺は……!」
王子の杖が震えながらも高く掲げられる。
「俺はティレニアの王子だ!国を守る者だ!!」
水魔法が炸裂した。渦を覆う巨大な逆さ円錐が形成され、海流が一気に反転する!
「『大渦逆転』!!!」
クラーケンの咆哮が悲鳴に変わる。触手が次々と切り離され、本体が露になる。
「ユリウス!」王子が叫ぶ。
ユリウスは既に動いていた。剣を逆手に持ち、背後に魔術陣を展開――
「『光刃解放』!」
蒼白い光の剣がクラーケンの胸を貫く。巨体が痙攣し、ゆっくりと崩れ落ちた。
***
海は静寂に包まれた。
カイオスは膝をつき、肩で息をしていた。遺跡の奥から微かな青い光が漏れ始める。
「……俺は……少しは役に立てただろうか」
震える声で呟く王子。
ネレウスが無言で頷き、静かに歩み寄る。「はい。お見事な魔術でした。王子」
その言葉に王子の目が潤んだ。
「とても素晴らしい水魔術でした!王子!」
ユリウスが駆け寄り、満面の笑みで王子の肩を叩く。
「今度その水魔術について是非詳しくお聞かせいただきたいです!」
カイオスは顔を上げた。初めて素直に口を開く。
「……助かった。ありがとう……ユリウス」
海の底に初めて信頼の芽が生まれた。




