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ユリウスの村 その2

ヴォルカの低い唸り声が洞窟内に響く。


「おう厄災が帰って来たぞ。ここの空気まで歪ませるたぁ相変わらず恐ろしい奴だぜ」


大きな灰色の鱗を震わせながら、ヴォルカは巨体を起こした。その横では小さなリュミナが灰色の翼をパタパタと揺らし、ユリウスを見上げる。


「お帰りなさいユリウス様!今日は何か面白いお話でもあるのですか?」


「誰が厄災ですか」

ユリウスは金色の髪を掻き上げながら、ジト目でヴォルカを見据えた。青い瞳が一瞬だけ冷たく光る。「そもそもヴォルカこそ僕がいなければあの炭鉱で永久に燻ってましたよね?」


「ぐぬ……」

ヴォルカが牙を剥いて唸るも、言葉に詰まる。


「自覚がねぇのが一番やべえんだよ」

ヴォルカは大きな尻尾で地面を叩いた。「お前が『ちょっと』で造った村があんなに化け物になってるの見てねえのか?」


ユリウスの統治する村は短期間で目覚ましい発展を遂げていた。

各家庭には「水が出る管」が通され、蛇口を捻るだけでお湯と冷水を供給。

排泄物は「水洗便所」という装置で地下の処理施設へ自動で運ばれ、悪臭や感染症のリスクは皆無。

畑は全て透明な結界に覆われており、極端な温度変化から作物を守り、いつでも水をやり放題。

さらに村の外れにある大樹にはいつでも新鮮な果実が実り、その枝は稀少な素材として取引されていた。


「これは素晴らしいですね!」ユリウスが手のひらを広げる。


「普通じゃねぇって言っとるんだがな」ヴォルカは溜息をつく。「あの機械鳥なんぞを作りやがって……」


***

~ドワーフ職人スカルディンは語る~


「ここは異常だ。何がって?全部だ全部!」

槌を振り下ろしながら、スカルディンは唸った。

目の前には純度100%のアダマンタイトが積まれている。こんなもの王国でも年に数キログラムしか採れないというのに、ここでは望めばほいほいと納入されてくるのだ。


「あのユリウスという童が村を起こすというので興味本位で移り住んだ」

当時の判断をスカルディンは後悔していないが、呆れはしている。

何せ無から有を創り出すのが当たり前。整地、貯水、建築──それを「ほいほい」と片付けてみせたのだから。


「工房も用意してくれてよぉ……」

思わず口元が緩む。ドワーフ国でもこれほどの設備はない。


しかも素材提供がやばい。ドラゴンの鱗や骨、魔石──リュミナとヴォルカが嫌そうにしながらも提供してくれるのだから恐ろしい。


(まぁ実際に嫌そうなのはヴォルカだけなんだがな)


「鉱石類の素材もな」

トルヴィという商人が各地から輸入してくる上に、ユリウスが「あー多分それありますよ!」とその場で謎の手段で提供してくれるのだから反則だ。


「そんな環境だとこっちも応えねえ訳にはいかねぇ」


おかげで次々と魔導具が生まれた。火を使わずに部屋を暖める機械。水を無限に浄化する装置。瞬時に暖かい料理が出来る箱。どれもが王国では王族だけが使える宝具並みの性能だ。


(ただし……)

スカルディンは眉間に皺を寄せた。

この前作った機械鳥。あれは不味い。視覚と聴覚を共有し、自在に遠隔操作できるあれは、使い方次第で諜報活動から暗殺まで何でも可能だ。


「世に出したら戦争が起きるぜ」


たまたま来ていたクラウディール家の面々が即座に禁止令を出したことで量産化は免れたが、ユリウスの笑顔には危険な光があった。


「それでだ」

スカルディンは振り返る。

ユリウスを監視するためにという名目で移住してきたドナ嬢──少女でありながら魔女めいた風格を漂わせる女だ。


「『計画通りね……理想のスローライフ生活だわ』ってほくそ笑んでたのをおれは聞き逃さなかった」


一体何を企んでいるのやら。この村は楽しいが、大変な毎日だぜ。


* * *


~ユリウスを良く知る村人は語る~


「ユリウス坊ちゃんは昔っから規格外だったぜ」

トム爺さんがパイプを咥えながら言った。

彼が手入れしている葡萄畑は完璧に管理され、雨季でも水害を気にせず収穫できる。


「だから坊ちゃんが村起こすっつー時、移住権は争奪戦だったのさ。なんせ昔から日照りが続けば雨を降らせてくれてよ。洪水になりそうになれば川底をせり上げて助けてくれた」


「まさに神様みてぇなもんだ」隣の老婆が笑う。「こっちに来てからは案の定快適な生活よ。飢えも寒さも気にせず毎日を過ごせる」


「しかもよ!」若い農夫が畑の向こうの洞窟を指さす。「ドラゴン様が村の守神として居てくれるんだから怖いもんはねえよ!」


「おいおい」別の農夫が肩をすくめる。「守神じゃなくて番犬だろ」


村人たちは笑い合った。


「あまりに快適すぎてな」トム爺さんがパイプの煙を吐き出す。「元の村の連中に悪いからなぁ。追加の移住者を受け入れるように嘆願書を作らなきゃいけねぇ」


「坊ちゃんならきっと受け入れてくれるさ」


全員が頷いた。この快適な暮らしはユリウスがもたらしたもの。彼の規格外の力をみんなが知っているからこそ、彼らはユリウスを崇拝していた。


(坊ちゃんが望むなら王国だってひっくり返るかもな)農夫の一人が内心で呟いた。(冗談じゃなく……でもそれを望まないのもまた坊ちゃんなんだけどな)

とはいえ、ユリウスの村は静かな文化革命の中心地となりつつあった。

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