砂漠の英雄
「ラシードーーッ!!」
カリムの絶叫が響く!
「離れろ……! ユリウス!」
血まみれのラシードが震える手でユリウスを押し返す。
「馬鹿な真似を……!」ユリウスの顔が歪む。
「あなたは……! なぜこんな無茶を……!」
ラシードが苦痛に顔を歪めながらも、ニヤリと笑った。
「当たり前……だろ……」
血を吐きながら言葉を紡ぐ。
「お前は……砂漠の希望だ……! 俺が死んでも……お前さえ生きていれば……この国は……救われる……!」
「次期王として……民を守るのが……俺の……使命だ……!」
彼の声は震えている。意識が遠のきかけている。
「だから……お前は……生き延びろ……」
「すみません……!」
ユリウスが泣きそうな声で叫び、ラシードの傷に手をかざす!
治癒魔術の光が傷を包むが――流しすぎた血は戻らない
「ダメだ……!」
ユリウスの焦りが頂点に達したその瞬間――
『フゥウウウン……』
サル=ザハルが悠然と彼らに歩み寄る。巨体を震わせて大きく息を吸い込む! 胸の眼球が異様に輝きだす!
「ブレスが来るッ!」ユリウスが絶叫!
「お……おれは……」
ラシードが最後の力を振り絞り、ユリウスを庇うように前に立つ。
「……もう……動けん……!」
二人の運命が尽きようとした刹那――
月が急激に輝度を増した!
『……!?』
サル=ザハルすら動きを止めた。月光が降り注ぐ場所が突然、時間が止まったように静止する! まるで世界が凍りついたかのように!
そして――光が凝縮し、白く輝く人影がユリウスたちの前にふわりと舞い降りた。
「……誰だ?」
カリムが呆然と呟く。
月光が形作ったようなその人影は、白銀の衣を纏い、背中に煌めく羽根を背負っているかのようだ。顔は光に溶けて見えないが、その声音には懐かしさと暖かさが滲んでいた。
『ユリウス、そしてラシード……』
穏やかな声が直接心に響く。
『其方達に……この国の未来を託す』
白い影がそっと二人の手を優しく包んだ。触れられた部分に温もりと微かな魔力が流れ込む。
『この国を……頼む』
そう言い残し、影は眩い光に包まれて消えていった。
消える寸前――金髪をなびかせる後ろ姿が一瞬だけ見えた気がした。
時間が再び動き出す。
サル=ザハルのブレスがまさに放たれようとしている!
「……!」ユリウスが息を詰める。
だが彼の胸には温もりが残っていた。あの声が聞こえる。
(託したぞ……)
ユリウスはラシードを見つめる。血まみれでもラシードは頷き返した。
互いの手が自然と絡み合う。
「……やりましょう」
ユリウスの声に迷いはない。
「ああ……」
ラシードの目に決意の光が宿る。
「一緒に……!」
「「―――『流星砂瀑葬』!!」」
二人の詠唱が重なる!
砂漠全体が黄金に輝き始めた!
砂の一粒一粒が生命のように震え、宙へ浮かび上がる! 数千、数万、いや数億の輝く粒子が天に昇り、巨大な光の河を形成する!
「うおおおおおっ!!」
ユリウスが全身全霊で叫ぶ!
「押し流せぇっ!!」
光の河が奔流となって降り注ぐ! それはまさに天から落ちる星の川だ!
サル=ザハルが放った漆黒のブレスを丸ごと飲み込み、その巨体へと襲いかかる!
『ゴガアアアアァッ!!?』
サル=ザハルが咆哮する!
光の粒子が黒龍の鱗を削り、肉を焼き尽くす! 再生しようとする傷口が次々と光に塞がれていく!
「くっ……まだだ……!」
ユリウスの額から血が流れ落ちる。限界を超えた魔力放出で身体が悲鳴をあげている。
「諦めるな! ユリウス!」
ラシードが彼の手を固く握り返す。出血で意識が朦朧としてもなお、彼は倒れない。
「そうだぜ! やっちまえーっ!!」
カリムが二人に体当たりするように抱きついた!
「お前らの力だ! 見せつけてやれぇっ!」
カリムの声がユリウスを奮い立たせる!
「うおおおおっ!!」
光の奔流が更に激しさを増す! サル=ザハルの巨体を完全に覆いつくした!
『グオォォ……!! オノレェ……!!』
黒龍の断末魔が光の中でかき消されていく――
やがて奔流は一つの巨大な球体となり――
天高く昇っていった……
月へ向かって吸い込まれるように消えていく……
星屑がキラキラと夜空に残滓を散らしながら……
戦場となった遺跡が静寂に包まれる。荒れ狂っていた砂嵐が嘘のように収まり、砂漠全体が穏やかな月明かりに照らされている。
ユリウスとラシードが同時に膝をついた。全身が痙攣し、息も絶え絶えだ。
「はぁ……はぁ……」
「ふぅ……」
二人は互いを見つめ合った。
次の瞬間――
「「あははははっ!!」」
堰を切ったように笑い出した!
それは解放感と安堵から来る、心からの笑いだった。
「おいおい……なんちゅう笑い声だよ……」
カリムが呆れながらも加わる。
「でも……確かに……やってやったなぁ!」
三人の笑い声が乾いた砂漠に響く。
倒れたマリクの亡骸や破壊された遺跡の惨状など目に入らない。ただ目の前の夜空に広がる月と星々が、彼らの勝利を祝福しているかのようだ。
ラシードがユリウスに向き直り、改めて言った。
「ユリウス……ありがとうな」
「こちらこそです……ラシード」
互いの手を握りしめる。
カリムがそっとその手に自分の手を重ねた。
「……帰ろうぜ」
カリムが言った。
「皆が待ってるところへな」
砂漠の夜風が彼らの背中を撫でた。




