サル=ザハル
「サル=ザハル……?」
ユリウスが息を飲む。
その名は砂漠の歴史書に記される禁忌の存在だ。伝説によれば「砂漠の英雄」「風の守護者」と讃えられる初代王が、幾百もの同胞の命を犠牲に封印した最凶の存在――それが蘇ったというのか。
カリムが呆然と呟く。
「冗談じゃねえ……そんなモンが復活しちまうなんてよ……!」
ユリウスが鋭く首を振る。
「逃げてください! ここは僕が引き受ける!」
彼が二人を結界の外へ押しやろうとしたその時――
『フオオオォォッ!!』
サル=ザハルの咆哮が砂を震わせた。黒龍の巨体が蠢く。胸部に埋め込まれた巨大な眼球がユリウスを凝視する。その眼窩から滴る闇色の粘液が砂に触れると、触れた部分が黒く変色し枯れ果てていく――!
「させるかッ!」
ユリウスが結界を維持したまま踏み出した。
彼の両手に蒼い魔光が迸る。指が複雑な軌跡を描き、空中に七芒星の魔術陣を描き出す!
「『蒼嵐断陣』!!」
風を切る鋭い衝撃波が放たれる! 蒼い光の刃が虚空を裂き、サル=ザハルの胸に突き刺さった!
『ガッ!?』
巨龍が初めて怯んだ。刃が黒い鱗を貫き、内部で蒼炎が爆ぜる。サル=ザハルの身体が大きくよろめく――
が!
「……なっ!?」
ユリウスの眼が見開かれた。貫かれた傷口がみるみる塞がっていくのだ。まるで砂丘が風に削られたように新しい砂粒が盛り上がり、元の滑らかな装甲へと戻っていく!
「再生……!?」
冷たい汗がユリウスの頬を伝う。サル=ザハルは悠然と構えなおした。その口角が醜く吊り上がる――まるで嘲笑するように。
「なら……これでどうだ!」
ユリウスの周囲に炎と雷の魔力が渦巻く。右手から迸る紅蓮の槍『焔穿』! 左手からは電撃を纏う無数の短剣『紫閃刃』!
「『炎雷万華』!」
燃え盛る槍と雷光の短剣群が雨霰のごとく黒龍へ襲いかかる! 爆音と閃光の嵐が夜空を埋め尽くす! サル=ザハルの巨体が爆煙に包まれる!
「やった……!?」
「油断しないで下さい!」
ユリウスが叫ぶと同時に、爆煙を裂いて黒い衝撃波が走った! それは鋭利な砂刃――サル=ザハルの放った砂断爪だ!
「くっ!」
ユリウスが咄嗟に障壁を張るも間に合わない! 砂刃がユリウスの右腕を掠め、衣服が裂け血が飛び散る!
「ぐっ!」
痛みに膝をつくユリウス。魔力制御が乱れる刹那――
「危ねぇっ!!」
叫び声と共に巨大な影が飛び込んだ!
ラシードだ。彼は短刀を抜き放ち、さらに飛来する砂刃を必死に切り払う! しかし間に合わない! 最も大きな一撃が彼の脇腹を抉り取った!
「ぐ……っはぁ……!?」
ラシードの巨体が砂に叩きつけられる。腹部から鮮血が溢れ出す。傷は臓器に達していた




