砂帝龍復活
「ユリウス・クラウディール!」
マリクの叫びが空間を切り裂いた。声には狂気が滲んでいる。
「やはり……貴様が邪魔をするか! あのお方の忠告は正しかった!」
その言葉にユリウスの歩みが僅かに止まった。
「あのお方……?」
問いかけたが返事はない。代わりにマリクが狂ったように両腕を天へ掲げた。
「貴様ら! あの小僧を殺せー!」
その号令と共に、ラシードを押さえつけていた魔物たちが一斉に動き出した! 彼らの赤く濁った瞳がユリウスを捉える。獣のような咆哮と共に、五体の魔物が四方から襲いかかる!
「────ッ!」
ユリウスは躊躇なくジャファルを地面へと適当に投げ捨てた。
最初の魔物──かつては人間であった者──が巨大な爪を振り下ろす!
「遅いですよ!」
ユリウスがひらりと身をかわした瞬間、右手に雷光が宿る。
「『蒼雷掌』!」
電撃が魔物の胸板を貫いた! 魔物が痙攣し、黒い煙を上げて崩れ落ちる。
続いて二体目が牙を剥きながら突進してきた。ユリウスは腰を落とし、剣を逆手に構える。
「『炎葬剣』〉」
刃が灼熱の炎を纏い、魔物の腹部を深々と抉る! 体内で炎が炸裂し、魔物が爆発するように四散した。飛び散る肉片が黒い灰に変わっていく。
休む暇はない。三、四体目が左右から挟撃しようとする!
「まとめてどうぞ!」
ユリウスが剣を地面に突き立てた。剣先から青白い光が放射状に広がる。
「『氷牢結界』!」
冷気が魔物たちを包み込む! まるで瞬時に凍結したかのように動かなくなった魔物の胸部めがけて、ユリウスが鋭い蹴りを叩き込む。氷像のように砕け散った!
その間に最後の二体がユリウスの背後を襲う! 一体は巨大な斧を振り下ろし、もう一体は毒液を吐き出す。
ユリウスが身体を回転させながら剣を閃かせた。斧が空中で両断され、毒液は透明な障壁に阻まれ蒸発する。
「『嵐巻斬』!」
風の刃が魔物たちの体をズタズタに切り裂いた! 二体の魔物が同時に血飛沫を上げて倒れる。
わずか数秒の出来事だった。五体の魔物が完全に消滅していた。
ユリウスが汗一つかかず振り返ると──
カリムがかつての仲間と思われる魔物に槍を突き刺していた。魔物の肉体が灰となって崩れていく。
「この針に誓って……お前らの仇は撃つ!」
カリムの目には涙が光っていた。
***
ユリウスはマリクへと向き直った。狂気と恐怖が入り混じった顔がそこにある。
「もう諦めたらどうですか?」
「ふ……ふはははは!!」
突如マリクが狂ったように笑い始めた。
「こんな……こんなはずではあああっ!!」
絶望と怒りに震える声だった。マリクがゆっくりと台座へと歩み寄る。その眼差しが盃に注がれた。
「龍の姿と滅びゆく国をこの目で見られぬのは残念だが……既に条件は満たされている!」
彼が懐から小型の刃を取り出した。
「我が意志と命を持って……顕現させようぞ!」
次の瞬間──
マリクが自らの首に刃を押し当てた! 横一直線に引く!
「──ッ!!」
鮮血が噴き出す。首の半分が切断されたマリクの体がグラリと揺れる。それでも彼は倒れない。最後の力を振り絞るように、彼は己の首を掴み上げると──
盃の中へと落とした
その瞬間!
盃が激しく輝き始めた! 黒と紫の光が渦巻く。大地が微かに震動し始める!
「まずい……!」
ユリウスの顔から余裕が消えた。彼は素早くラシードとカリムの元へ駆け寄った。
「しっかり捕まってください!」
二人の肩を掴むと、倒れたジャファルの傍らへと引きずった。
「結界展開! 〈聖域結界!〉」
ユリウスが両手を天に掲げる。三人とジャファルを包み込むように透明な球体の結界が形成された!
その直後──
遺跡全体が轟音と共に崩れ始めた!
「うわぁっ!!」
「くそっ……!」
天井の一部が落下し、結界の表面で火花を散らす。壁が崩れ、砂塵が舞い上がる。地面が波打つように揺れた!
「落ち着いて! 僕の結界なら耐えられます!」
ユリウスが声を張り上げる。しかし彼の額にも汗が滲む。
盃が黒い光を放ち続けている。その光が蛇のように周囲へと伸び、床に描かれていた紋様に流れ込んだ。紋様が生命を得たように脈動し始める!
やがて紋様全体が輝き出し、その中心から黒い砂が湧き上がり始めた!
「これが……」
ラシードが震える声で呟く。
「古の龍の……復活!?」
黒砂はどんどん増殖していく。重力に逆らうように柱となり、歪な形状を形成し始めた。頭部と思しき膨らみができ、長大な尾が鞭のようにしなる。
結界の外で崩れる遺跡の中で、その黒い砂の巨体がゆっくりと形を成していく──
全長は十数メートルにも及ぶだろうか。胴体は岩のような装甲で覆われ、四肢は太く頑丈。首が異常に長く伸び、その先端に頭部が鎮座している。頭部には鷲のような鋭い嘴、そして全身から禍々しい瘴気を漂わせていた。
そして何より異様だったのは──
「なんだ……これは!?」
カリムが息を呑む。黒龍の胸部の中央に、巨大な「眼球」が埋め込まれていた。黒曜石のように輝くその眼が……ゆっくりと開き始める!
ギョロリ──!
開かれた眼球が結界内のユリウスたちを捉えた。黒龍が低く唸るような咆哮を上げる。
『オオオオオ……』
その声には千年の怨念が込められているかのようだった。
崩壊する遺跡の中で、黒龍の全身に紫色の紋様が浮かび上がっていく。龍の形をした砂が完全に実体化し、鱗のように硬質化していくのが見える。
遺跡の天井が最後の大崩壊を起こした!
天から降り注ぐ大量の瓦礫。結界が悲鳴を上げるように軋んだ。
「くっ……!」
ユリウスが歯を食いしばる。結界を維持するのが精一杯だ。
しかし次の瞬間──
黒龍が天を仰ぎ、大きく息を吸い込んだ!
「ッ!」
黒龍の嘴から漆黒の炎が噴き出した!
炎の奔流が崩れ行く天井を一気に薙ぎ払う! まるで巨大な鎌が通り過ぎたかのように天井が消し飛んだ。砂埃が晴れたその場所に──
夜空が見えた
黒龍の巨大な身体が夜空に向かって屹立する。月光がその禍々しい姿を照らし出す。
完全なる復活──!
『フゥゥゥ……』
再び黒龍が唸った。その声が夜空を震わせる。
遺跡はほぼ完全に崩壊した。かつて地下深くにあった儀式の場は、今や露出し、夜風が吹き込む巨大な穴となっていた。その中心に佇む黒龍。その胸に埋め込まれた巨大な瞳が、冷たい光を放ちながらユリウスたちを見据えている──
「あれは…伝説の砂帝龍『サル=ザハル』なのか……⁈」
ラシードが驚愕の声を上げた




