潜入
「見てください」
ユリウスが指差す先に影があった。岩陰で蠢く何か。人影にしては不自然な動きだ。
「どうする?」ラシードが剣を構える。
「決まってんだろ!殴り込むぜ!」
カリムが短剣を抜く。
「馬鹿が……」ラシードが吐き捨てる。「相手の正体もわからない内に突っ込む奴があるか」
「隠遁魔術を使いましょう」
ユリウスが提案する。「私の術なら全員を透明化できます」
「そんな高等魔法が使えるのか?」
「まあ、少しだけなら」
ユリウスが指先で複雑な印を切る。青白い光が一行を包み込み、周囲の景色に溶け込んでいく。
「行こう」
慎重に石段を上っていく。石ころ一つ踏まないよう足裏に神経を集中させる。
「気をつけてください」
ジャファルが警告する。しかし注意は空回りし――
「あっ」
岩に触れてしまった彼の腕が崩れ落ちる。
ゴトッ!
「気づかれた!」
「遺跡の中へ!」
ユリウスが叫び入口に飛び込んだ瞬間――床が消失した。
「落とし穴だ!」
ジャファルの悲鳴と同時に彼の身体が吸い込まれる。反射的にユリウスも跳躍した。
「ジャファル!ユリウス!」
ラシードの叫びが虚しく響く。
「追っ手が来るぞ!」
カリムの声にラシードは歯を食いしばり駆け出した。
***
「ジャファルさん……無事ですか?」
ユリウスの声にジャファルは目を開ける。天井の穴から細い光が差し込んでいた。
「大丈夫です」
周囲を見渡すと小さな地下空間。どうやら致命的な落下ではなかったようだ。
「私のせいで……」
「怪我はありませんか?」
ユリウスが近づき傷を確認する。腕に擦過傷がある程度で深刻ではなさそうだ。
「治癒魔術をかけます」
掌から淡い光が溢れる。
「逸れましたね」
ユリウスが立ち上がる。「ラシード殿下とカリム殿は無事でしょうか……」
「彼らなら問題ないでしょう」ジャファルが答える。「それより出口を探すべきです」
「ここから奥へ進めそうです」
ユリウスが指さす先に暗い通路があった。
***
一方、地上では――
「この階段……」
カリムが見つけた地下への入り口。慎重に降りていく二人。
「ユリウスもジャファルも無事だって」カリムが断言する。
「当たり前だ」ラシードが鼻を鳴らす。「特にジャファルは私が幼い頃から仕える最強の騎士だぞ」
「ふーん」
カリムはラシードの横顔を見る。(こいつ意外とジャファルのこと信頼してるんだな)
「騎士として尊敬してるんだ?」
「そうだな……」ラシードが珍しく素直に認めた。
カリムの胸に温かいものが広がる。(ちゃんと話せば伝わるじゃん……俺が文句ばかりだったのが悪いのか)
「ごめん」
「何の事だ?」
「今まで色々文句言っちまったからさ」
「不満が出るのは王の能力不足だ」ラシードが断言する。「貴様も次期族長ならば、俺に求める"王の資質"とやらを見せつけてみせろ」
「へえ……」
カリムは内心でラシードを見直した。
***
「行き止まりですね」
ユリウスが壁に手を当てる。ジャファルが肩を落とす。
「引き返しましょう」
「うーん……」
ユリウスが壁を叩く。「この壁なんか変なんです」
「気のせいでは?」
「多分奥がある」
ユリウスが壁を調べ始める。その背後で――ジャファルの手が静かに腰の剣に伸びた。カチャリ。鞘の音。
「ユリウス殿」
ジャファルの声が低く響く。
「何でしょう?」
ユリウスが振り向きかけたその時――
無音の剣閃が空気を裂いた。




