オアシスにて
オアシスが目の前に現れた。澄んだ水が静かに湧き出し、砂漠の中に緑の円を描いている。風にそよぐ椰子の木陰。鳥のさえずり。そこだけは別世界のようだ。
「ひと休みしていこう」
カリムが喉を鳴らす。
「水浴びも必要だな」
「水を補給できれば十分だ」
ラシードは水筒を取り出す。
「そんなこと言ってー」
カリムが意地悪く笑う。
「皇太子様ったら恥ずかしがり屋さん?」
「なっ……貴様!」
ジャファルが慌てて割って入る。
「お二人とも!」
ユリウスはふたりを眺めながらふと思い出した。
「そういえば砂漠を旅する際は定期的に塩分と水分を摂るべきだと本で読みました」
ゆっくりと上着を脱ぎ始める。
「少し汗も流しておきましょう」
ラシードの視線が止まる。
(えっ……何をしてるんだ?)
白い肌が露わになる。鍛えられてはいるが細身の身体。特にその――
「お前も入るならこっちだぞ!」
カリムがユリウスの腕を引っ張る。
「ちょっと……!」
抵抗も虚しく少年は水辺に連れ込まれた。
「おい……」
ラシードが呆然と見つめる。ジャファルが小声で耳打ちする。
「殿下、水浴びは砂漠では日常の一部です。特に男子同士なら……」
「わかってはいるが……!」
しかし目の前の光景は耐え難い。濡れた金髪が額に貼り付く。滴り落ちる水。日に焼けぬ肌の艶めき――
「周囲を見てくる」
ラシードは踵を返し離れた。しかし耳だけは鋭敏に音を拾っていた。
「ラシードっていつも怒ってるよなー」
水面を蹴り上げながらカリムが呟く。
「きっと君の態度が原因だと思います」
ユリウスは苦笑い。太陽の下で青い瞳がキラリと光る。
「カリムも歩み寄らないと」
「わかってるけどさぁ」
少年は半分水に潜りながらぶくぶくと泡を立てる。
「あいつが次の王様になるんだろ?だったらもっとしっかりしてもらわないと!」
「王の素質とは何ですか?」
ユリウスが問いかける。
「決まってんだろ!みんなを導けるリーダーシップ!」
カリムは胸を張る。
「親父がそうだった!いつも俺たちの先頭に立って……」
「なるほど」
ユリウスが岸辺に上がる。
「ならそれを彼に伝えればいいんですよ」
「へ?」
「俺の父親のように規範となれ、と」
カリムはぽかんと口を開けたが――
「……そっか」
少し考え込み、「そうかもな」と小さく呟いた。
***
着替えを終えた一行。
「気が済んだか?」
ラシードが尋ねる。
「はい」
ユリウスがにこりと笑う。
「次は一緒に入りましょうね」
「な……!」
皇太子の顔が真っ赤に染まる。
「行くぞ!」
歩き去る背中をユリウスが見送る。
「怒らせてしまいましたか?」
ジャファルがため息をつく。カリムはジト目でユリウスを見上げ――
「天然ってこえーな」
ぼそりと呟いた。




