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魔導ガーディアン

部屋全体が激しく振動する中、天井から巨大な物体が落下してきた。それは高さ五メートルを超える、漆黒の装甲に覆われた魔導ガーディアンだった。


「こんなものが……!」


ライナスが思わず声を上げる。


魔導ガーディアンは全身から微かな電流のようなエネルギーを放出しており、その動きは洗練されていた。目と思われる部分からは冷たい光が漏れている。


「下がれ!」


ザナヴァスが叫ぶ。


「これは俺とライナスだけで対処しなければならない!」


ライナスとエドガーは素早く後退したが、ユリウスだけは違う反応を見せた。彼の目が異常に輝き始める。


「すごい……これが古代の防衛システム……!魔力構造はどうなっているんだろう……素材は……動作原理は……」


ユリウスの声は興奮で震えていた。


ライナスが呆れた様子で言う。


「ちょっとユリウスくん!危ないから下がって—」


「見てください!」


ユリウスが叫ぶ。


「あのエネルギーの流れ方は……おそらく魔力回路が肩甲骨部分を通っていて……腕の可動域が限定されるはず……」


ザナヴァスが剣を構え直す。


「分析は後だ!来るぞ!」


魔導ガーディアンが拳を振り上げて突進してきた。その動きは速く、重い衝撃波が床を揺らす。


***


ザナヴァスの剣が一閃。しかし、金属同士がぶつかる耳障りな音とともに跳ね返された。


「くそっ!」


彼の表情に焦りが浮かぶ。


ライナスも魔法を放つが、効果は薄い。


「これは普通の攻撃じゃダメージを与えられないみたいだね」


ライナスの声に緊張が滲む。


エドガーは苦しそうに立ち上がろうとしたが、まだ完全に回復していないようだった。


「ぼくも……」


「無理しないで!」


ライナスが制止する。


「ここで休んでて」


戦況は明らかに不利だった。魔導ガーディアンの攻撃は容赦なく続き、ザナヴァスとライナスは防戦一方。時折反撃を試みるも効果は皆無だった。


***


その様子を見ながらユリウスの目は輝き続けていた。彼は壁際で両手を握りしめ、「あの装甲は特殊合金……?いや、これは魔法と物理を融合させた複合構造だ……!なんて精巧な設計……!」と独り言を繰り返していた。


明らかに戦闘状況を忘れ、目の前の「作品」に夢中になっている様子だった。


ライナスが苛立ちを隠せず声を荒げる。


「ユリウスくん!今は分析してる場合じゃないんだよ!」


「え?ああ……すみません」


ユリウスがはっと我に返る。


「でも……」


彼は魔導ガーディアンの攻撃パターンを観察しながら呟く。


「あの……僕にも何か手伝えるかもしれません。試してみたいことがあるんですが……」


ザナヴァスが訝しげな表情で見る。


「何ができる?」


「魔法を付与することで物理攻撃の効果を高められるかもしれません」


ユリウスの目が真剣になる。


「この敵は魔力と物理を融合させた防御を持ってるので、同じ方式で攻撃すれば……」


ライナスが迷いつつも同意する。


「確かに今のままじゃ埒があかない。やってみてくれ」


***


「ありがとうございます!」


ユリウスが2人に向けて手を伸ばす。


「ではまず剣に直接触れますね」


彼の手から淡い光が溢れ出し、それが2人の剣へと流れ込んでいく。


「これは……?」


ザナヴァスが驚きの声を上げる。


「振動増幅魔法です」


ユリウスが説明する。


「剣の分子レベルの振動を増幅させることで、対象物質の結合力を弱める効果があります」


「説明はよく分からないけど……」


ライナスが苦笑する。


「効果がありそうだね」


魔導ガーディアンが再び攻撃の構えを見せる。今度は前回よりも素早い動きだった。


「今です!」


ユリウスが叫ぶ。


ザナヴァスが前に飛び出し、剣を振り下ろす。先ほどは硬質な音を立てて弾かれた刃が、今回は違った。


スパッという鋭い音と共に、魔導ガーディアンの腕が切り落とされた。


「え……?」


ザナヴァス自身も驚いた様子で自分の剣を見る。


「成功です!」


ユリウスが喜びの声を上げる。


「振動増幅効果で、あの特殊装甲の分子結合を弱めることができたんです!」


ライナスも続いて剣を振るう。今度は胸部に浅い傷をつけた。


「すごい……」


ライナスが感嘆の声を漏らす。


「これが君の本当の力なんだね」


ユリウスは嬉しそうに頷いた。


「えへへ。まだまだ実験段階ですが、効果があるようで安心しました」


魔導ガーディアンは明らかに怯んだ様子だった。しかしすぐに体勢を立て直し、より激しい攻撃を開始する。


ザナヴァスとライナスは連携して攻撃を繰り返し、次第に魔導ガーディアンの動きが鈍くなっていった。切断された部位からは奇妙な液体が滴り落ちている。


「もう少しです!」


ユリウスが興奮気味に言う。


「コア部分は背中の装甲の下にあるようです。そこを狙えば……」


ザナヴァスが頷き、最後の力を振り絞って跳躍した。剣が背中の装甲に食い込み、やがて深く突き刺さる。


魔導ガーディアンの体が激しく震え、やがて崩れ落ちていった。


***


静寂が戻った部屋で、二人は荒い息をついていた。

ザナヴァスが剣を鞘に戻す。


「なんとかなったな……」


ライナスが額の汗を拭う。


「正直、もうダメかと思ったよ」


「本当にありがとうございます……」


エドガーが弱々しくも感謝の言葉を述べる。


ユリウスはまだ興奮が冷めやらぬ様子で魔導ガーディアンの残骸に駆け寄った。


「これ……持ち帰ったら研究できるかな……」


ライナスが慌てて止める。


「ダメだよ!それは遺跡の一部だ。持ち帰り禁止!」


「えー……」


ユリウスが残念そうな表情をする。


ザナヴァスが苦笑する。


「まったく……変わった奴だな」


その時だった。部屋全体に再び振動が走り、彼らの足元に転移魔法陣が浮かび上がった。


「出口だ!」


ユリウスが声を上げる。


「みんな急いで!」


四人は魔法陣の上に乗り、やがて光に包まれた。次に視界が晴れたとき、彼らは遺跡の入口付近に戻っていた。


***


外に出ると、トリスタンとコンラッドが心配そうに待っていた。


「ユリウス!」


トリスタンが駆け寄ってくる。


「心配したよ!大丈夫!?」


「はい!全部解決しました!」


ユリウスが明るい声で応える。


ライナスが代表して状況を説明し始めた。トリスタンとコンラッドの顔が驚きで染まっていく。


「魔導ガーディアンを倒したのか……?」


コンラッドが信じられないという表情で訊ねる。


「正確には俺達というよりこいつのお陰だがな……」


ザナヴァスがユリウスの方を見ながら言う。


ユリウスは照れくさそうに頭を掻いた。


「いえいえ……ただのアイデアです」


トリスタンが疑わしげな目で彼を見る。


「君はまた変なことをしたんじゃないでしょうね?」


「えへへ……」


ユリウスが曖昧に笑う。


こうして波乱の一日は終わりを告げた。学院への帰途につく一行。夜空には満点の星が輝いていた。

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