紅蓮教団
全てのサンドワームを倒し終え、帰路についた一行はユリウスの功績を讃えていた。
「見事でしたぞ!若き魔術師よ!」
「あんな魔術は見たことがない!」
「砂漠の英雄だ!」
隊員たちの賞賛の声に、ユリウスは照れくさそうに頭を掻いた。
「そんな……大したことないですよ」
ハキームも感嘆の表情を隠せない。
「ユリウス殿の知識と魔術の腕前は確かに並外れています。これほどの実力者がいたとは……」
「ユリウス殿のおかげで多くの命が救われました。ありがとうございます」
その賛辞の中、ラシードだけは不機嫌そうに砂を蹴っていた。
城に戻り、夕食の席でユリウスが突然口を開いた。
「一つ気になることがあります」
全員の視線がユリウスに集まる。
「サンドワームの出現パターンが不自然でした。偶然にしては集中しすぎている。それにあの最後の一匹……まるで私たちを待ち構えていたかのようでした」
「どういうことだ?」ジャファルが眉をひそめる。
ユリウスは地図を広げた。
「これらのサンドワームの出現ポイントを結ぶと……」
彼は地図上のポイントを指で繋いでいく。「大きな円を描きます」
「円?」
「はい。しかも……」
ユリウスは一点を指さした。
「この中央には古代の遺跡があります。そして—」
ユリウスは立ち上がり、皆を見渡した。
「サンドワームを引き寄せる魔術の痕跡を見つけました。これは単なる災害ではありません。誰かが意図的に引き起こしたものなのです」
「まさか……」ハキームが息を呑む。
「何者かがサンドワームを操っていたというのか?」ハーリドが声を震わせた。
ユリウスは静かに頷いた。「確証はありませんが、その可能性は高いでしょう。特に最後のサンドワームは明らかに待ち伏せをしていました」
「何のためにそんなことを……」ハーリドが言葉を途切れさせた。
その時、ハーリドの脳裏に不安が走った。彼は兄を見つめた。
「兄上、もしや……」
「何だ?」
ラシードの鋭い声に一瞬躊躇したが、ハーリドは決心したように話し始めた。
「最近耳にする噂です。『紅蓮教団』という集団が古竜の復活を目論んでいると」
「紅蓮教団?」ラシードが首をかしげる。
「聞いたことがあるぞ」ハキームが暗い表情で言った。「伝説の古竜を崇拝し、強大な力を取り戻そうとする秘密結社だ」
「その教団がサンドワームを操っていたと?」ユリウスが問うた。
「わかりません」ハーリドは首を振った。「ですが、最近この地域での不審な活動報告が増えています。特に古代遺跡の周辺で……」
「もし本当に古竜を復活させるつもりなら……」ハキームが深刻な表情で続けた。「サンドワームはただの前哨戦かもしれない」
部屋に緊張が走った。これまでの討伐隊の任務は「サンドワーム退治」だったが、事態はもっと深刻な方向へ向かっているようだ。
「ユリウス殿」ハキームがユリウスを見つめた。「恐縮ですが、もう少し我々に協力いただけませんでしょうか。この謎を解くには、あなたの知識が必要です」
ユリウスは一瞬考え、そして明るく答えた。「もちろんです!古代遺跡と古竜……とっても興味深いです!」
その無邪気な反応に、ハキームは苦笑いを浮かべた。この少年の純粋な好奇心が、これから明らかになるかもしれない恐ろしい事態を乗り越える鍵となるかもしれない。
「決まりだな」ジャファルが頷いた。「明日から新たな調査を始めよう」
「紅蓮教団についても調べる必要がある」ラシードが厳しい表情で言った。
ユリウスは興奮を抑えきれずに両手を握りしめた。古代魔術の痕跡、謎の教団、そして伝説の古竜—これこそ彼が求めていた未知の世界だった。
(どんな発見があるか楽しみだ!)
彼の瞳は期待に輝いていた。
しかし一方で、ラシードの胸には別の感情が芽生え始めていた。それは悔しさではなく、もっと複雑なものだった。




