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サンドワーム退治

「準備はよろしいですか?」


翌朝、砂漠の入り口でハキームが最終確認を行った。朝日が砂丘を金色に染め上げる中、十数人の討伐隊が隊列を組んでいる。その中心に立つのはユリウスだった。


「はい!」ユリウスは元気よく返事をした。「いつでもいけます!」


その横でラシードが不機嫌そうに鼻を鳴らした。


「ふん、小僧の言うことをどこまで信じればいいのだ」


「兄上……」ハーリドが心配そうに兄を見る。


「出発します」


ハキームの号令と共に討伐隊は砂漠へと足を踏み入れた。隊商道を離れるとすぐに地面は細かい砂に変わっていく。


---


砂漠に入って三時間ほど経ったときだった。


「来ます」


ユリウスが突然立ち止まり、前方を指さした。隊員たちが警戒態勢を取る中、砂の表面に波紋のような歪みが広がり始めた。


「そこだ!」


ユリウスが叫ぶと同時に、砂の中から巨大な生物が姿を現した。体長は優に十五メートルを超え、赤褐色の硬質な表皮が太陽の光を反射している。サンドワームだ。


「構えよ!」


ジャファルが号令を下し、隊員たちは一斉に武器を構えた。


「待ってください」


ユリウスが前に出る。「ここは私に任せてください」


ユリウスは両手を掲げると、複雑な詠唱を始めた。彼の周りに青白い魔力の渦が形成されていく。


「『氷結陣形』」


瞬時に地面に巨大な魔法陣が展開され、サンドワームの足元(正確には腹元)から鋭い氷柱が突き出した。


「ぎゃあああっ!」


サンドワームが悲鳴を上げる。しかし致命傷には至らない。激怒したサンドワームが再び砂に潜ろうとしたその時—


「『雷閃破!』」


ユリウスの左手から眩い光条が放たれ、サンドワームの脇腹を貫いた。


「グオオォッ!」


断末魔の叫びと共に巨体が砂上に倒れ伏す。


「これは……」


ハーリドが目を丸くして呟いた。たった二つの魔法で強大なサンドワームを倒してしまうとは。


その後も砂漠のあちこちでサンドワームを発見したが、ユリウスの魔術は圧倒的だった。


炎に耐性のあるサンドワームを冷気と電撃で倒すという、完璧な戦術を展開していく。


---


「なぜ炎に耐性があるサンドワームにそんな魔法が効くんだ?」


夕暮れ、野営地で焚き火を囲みながらラシードが詰問した。不機嫌そうな表情は崩していないが、ユリウスの実力には明らかに関心を持っている。


「サンドワームの表皮は高温に耐えますが、内部は違います」ユリウスは微笑みながら説明した。「急激な温度変化や電撃には対応できないんです。それに—」


ユリウスが突然立ち上がり、指を一本立てた。


「来ますよ」


全員が警戒する中、砂が大きく波打ち始めた。しかし今度は様子が違う。四方八方から波紋が広がり、まるで包囲されているようだ。


「五匹……いや六匹以上だ」ジャファルが唸る。


通常サンドワームは単独行動をするはずなのに。


「これは罠です」ユリウスは真剣な表情になった。「皆さん、私を中心にして円陣を組んでください!」


隊員たちは指示通りに配置についた。

同時に四方からサンドワームが襲いかかる。


「今だ!」


同時に彼は両手を広げた。


「『氷雷双牙!』」


巨大な氷の竜巻が渦巻き、周囲のサンドワームを巻き込んでいく。氷の刃と雷の火花が乱舞し、次々と巨体が倒れていった。


「す……すごい……」


誰かが呆然と呟いた。ラシードでさえ言葉を失っている。たった一人で十数匹のサンドワームを相手にするとは……


「ふぅ……終わりました」


ユリウスは額の汗を拭いながら笑顔を見せた。


***


二日目の昼過ぎ、サンドワームの最後の一匹を追っていたときだった。


「ユリウス殿の警告によれば……」


ハキームが地図を確認しながら歩を進める。


「このあたりが最後の痕跡地点です」


「私が行く」


突然ラシードが前に出た。皆が制止しようとする前に彼は槍を手に走り出してしまった。


「皇子!お待ちください!」


ハキームが叫ぶが既に遅い。ラシードは砂丘の頂に立ち、遠くを見渡していた。


「そこか!」


地面のわずかな動きを捉えたラシードは槍を構え、砂煙を上げて駆け出した。


「ダメです!ラシード様!」


ユリウスが叫んだ時には遅かった。地面の隆起は偽装だった。本体はさらに深く潜っていたのだ。


「何っ?!」


突如として地面が裂け、巨大な口がラシードを飲み込もうとする。


「ちっ!」


ラシードが素早く身をひるがえそうとするが間に合わない。


「ラシード様!」


ユリウスの叫び声が砂漠に響き渡る。サンドワームの巨大な口がラシードを飲み込もうとするその瞬間—


「『氷牢壁!』」


ユリウスの詠唱と共に青白い魔力が光り、ラシードの周囲に氷の壁が瞬時に形成された。閉じかけたサンドワームの口が氷壁にぶつかり、轟音と共に氷が砕け散る。


「ぐっ……!」


衝撃でラシードは数メートル吹き飛ばされたが、無事だった。彼が地面に倒れ込む前に、ユリウスが魔術の鎖を使って彼を空中でキャッチする。


「大丈夫ですか?」


優しく尋ねるユリウスの声に、ラシードは顔を上げた。自分の命を救った相手と目が合う。オアシスのように澄んだ青色の瞳が心配そうに自分を見つめている。


「……何をしている」


ラシードは低い声で言った。怒りとも悔しさともつかない表情が浮かんでいる。


「危なかったですね」ユリウスはニッコリと微笑んだ。「もう少しで骨まで溶かされていましたよ」


その言葉に、ラシードは思わず顔を背けた。なぜか胸の鼓動が速くなっていた。


「ふん……礼は言っておこう」ラシードは立ち上がりながら言った。「だが貴様のような小僧に助けられるとは……屈辱だ」


「またまた〜」ユリウスは朗らかに笑った。「でも本当に危なかったんですよ?もっと慎重にならないと」


ラシードは返答せず、サンドワームに向き直った。ユリウスの魔法によって一時的に動きを封じられているが、それも長くは持たないだろう。


「『雷閃破!』」


ユリウスの放った魔法がサンドワームを貫き、最後の一匹も砂上に倒れ伏した。

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