新たなる依頼
「アラム=スルタンですか?」
柔らかな日差しが降り注ぐ学院の中庭。ユリウスは学院長アルセリオの私邸でのお茶会に招かれていた。手入れの行き届いた庭園には季節の花々が咲き乱れ、甘い香りが漂っている。
「そうだ。古い友人からサンドワーム討伐の依頼があってな」
学院長は深い皺を刻んだ顔に穏やかな笑みを浮かべながら言った。彼の手には優雅な仕草で紅茶のカップが握られている。
「砂漠の王国ですよね。確かに古代文明の遺跡も多いと聞きます」
ユリウスは紅茶を一口含みながら考え込んだ。砂漠の砂に刻まれた古代文字や遺跡の壁に描かれた魔術陣が脳裏に浮かぶ。
「今回は特に協力を求められている。君の魔術が必要なのだ」
アルセリオは真剣な表情で続けた。
「もちろん報酬も十分あるし、何より研究者としては願ってもない機会だと思うが」
「学院長……」
ユリウスは少しだけ眉をひそめた。
「もしかして僕を体良く利用しようとしているんじゃないでしょうか?」
「む?」
アルセリオは驚いたような表情を見せたが、すぐに苦笑いを浮かべた。
「さすがに鋭いな。だがユリウスよ、これは単なる利害関係ではない。アラム=スルタンは古代魔法文明の宝庫だ。学院の蔵書にも載っていない魔術理論があるかもしれんぞ」
「むぅ……」
ユリウスは少し考え込んだ後、モジモジと指を絡ませた。
「仕方ないですねぇ。学院長の頼みなら断れませんから」
照れたような笑顔を浮かべながら答えるユリウス。アルセリオは満足げに頷いた。
「ありがとう。準備は万全に整えておく。明日の朝に出発すれば三日で到着するはずだ」
「はい!楽しみです!」
ユリウスの顔がパッと輝いた。
「サンドワーム……古代文明の痕跡……砂漠の魔術陣……どれも気になることがいっぱいです!」
アルセリオはユリウスの無邪気な反応に思わず笑みを漏らした。この少年がどれほど強力な魔術師であるかを知りながらも、その純粋な好奇心にはいつも心を打たれるのだった。
***
翌朝、ユリウスは早朝に出発した。学院長が用意してくれた精霊馬車(風の精霊を召喚した特殊な乗り物)に揺られながら砂漠を目指す。
三日目の夕刻、地平線の彼方に見えてきたのは黄金に輝く城壁と塔だった。灼熱の太陽が西の砂丘に沈みかけ、砂漠全体を金色に染め上げていた。
「あれがアラム=スルタン……」
ユリウスは息を呑んだ。砂の海に浮かぶ宝石のようなその都市は、まるで夢の中にいるかのような光景だった。
城門に近づくと、立派な身なりの人物が待っていた。優雅な衣装をまとった鷹獣人の男性だ。
「お待ちしておりました。ユリウス・クラウディール様ですね」
低く落ち着いた声で挨拶するのは砂漠鷹の獣人ハキームだった。国王の側近であり、今回の案内役だ。
「はい!ユリウスです!よろしくお願いします!」
ユリウスは元気よく返事をした。すでに目はキラキラと輝き始めている。
「まずは王宮へご案内いたします。長旅お疲れ様でした」
ハキームに導かれながらユリウスは城壁内に入った。そこは別世界だった。砂漠の真ん中とは思えないほど緑豊かな庭園が広がり、噴水からは透き通った水が流れ出ている。宮殿は幾何学的な美しさを湛え、至る所に繊細な彫刻が施されていた。
「これは……すごいですね!」
ユリウスは驚嘆の声を上げた。
「王宮の地下には古代魔法文明の遺産である『水脈の石板』があり、それがこの地に水をもたらしているのです」
ハキームが説明しながら歩を進める。途中で様々な宮廷人たちとすれ違ったが、誰もがユリウスに好奇の目を向けていた。
今回から始まる砂漠編は初めて長編を意識して書いてみました。
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