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遺跡のマッピング授業

「今回の特別授業では二年生と一年生がペアを組み、第二階層までのマッピングを行います。二年生は一年生をうまく補助するように!」


セドリック教師の厳格な声が響く中、生徒たちは興奮と緊張が入り混じった表情で地下遺跡へと降りていった。


ユリウスはルームメイトのトリスタンとペアになり、目をキラキラさせながら前方を指差す。


「遺跡内部に残された魔力痕跡……これは古代魔術の一種かもしれないですね!」


「ちょっ……」


トリスタンが慌てて止める。


「マッピングが目的だよ?変な研究始めないでね?」


「わかっています!」


ユリウスは真剣な表情で頷いた。


「だからこそ正確な記録が必要なんです!この壁の質感一つとっても—」


「だからマップ以外書かないでってば!」


トリスタンが必死に制止する。


**【地下遺跡・第二階層】**


順調に進む作業の中、コンラッドが慌てた様子で駆け込んできた。


「大変だ!」


彼の声が洞窟内に反響する。


「エドガーが……ザナヴァス先輩と一緒に消えた!」


一瞬で空気が凍りついた。トリスタンが青ざめた顔で問いかける。


「どういうこと?詳しく説明して」


「急に地面が光って……気づいたら二人ともいなくなってた」


コンラッドが困惑した表情で説明する。


「まさか……転移魔法?」


ユリウスが顎に手を当てながら呟く。


その時、ライナスが冷静な声で指示を出した。


「ボクが様子を見てくる。コンラッドくんはユリウスくん達と地上に戻って先生に報告して」


「待ってください!」


ユリウスが即座に声を上げる。


「魔術で探知できます!」


全員の視線が集まる中、ユリウスは確信に満ちた表情で続けた。


「魔術の痕跡を辿れば二人の行き先が分かるはずです!」


ライナスは一瞬迷った後、「……分かった。でも危険を感じたらすぐ撤退だよ」と言い、ユリウスと共に奥へと進み始めた。


***


ユリウスは遺跡の床に膝をつき、手を置くと呪文を唱え始めた。


「《魔力の追跡者よ、失われし道標を示せ》」


洞窟内に柔らかな光のラインが浮かび上がる。その線は一定の方向へと続いていた。


「あっちです!」


ユリウスが指を差す。


二人は慎重に歩を進め、やがて一室のような空間に辿り着いた。


ユリウスは壁に触れ、


「この辺りで痕跡が途絶えています」


と告げた。


ライナスが周囲を観察し、


「何か魔法陣のようなものが見えるね」


と指摘する。


「……転移魔法陣の痕跡だと思います」


ユリウスの声が低くなる。


ライナスの表情が引き締まる。


「ということは……彼らは更に深い層に?」


「おそらくは」


ユリウスが頷く。


「この規模だと、最低でも第三階層……最悪の場合、第四階層まで到達している可能性もあります」


「……厄介なことになった。三層以降の立入は危険だから禁止されてるんだ」


ライナスが苦渋の表情を浮かべる。


遺跡の暗がりの中で、二人の影が微かに揺れた。探知魔法の光だけが不気味な静寂を破っていた。


遺跡の暗がりの中で、二人の影が微かに揺れた。探知魔法の光だけが不気味な静寂を破っていた。


「どうする?」


ライナスが慎重に問いかける。


「先生に報告して救援を待つか、それとも……」


ユリウスは暫し考え込み、やがて強い眼差しで顔を上げた。


「ここにいても何も分かりません。それに……」


言葉を区切ってから続けた。


「僕の魔術が正しければ、この魔法陣は一方通行になっています。つまり、二人が自力で戻ってくるか助けに行くかの二択しかありません」


ライナスは深く息を吐いた。


「分かった。行こう。でも絶対無理はしないで」


「はい!」


ユリウスが力強く頷く。


二人は慎重に転移魔法陣へと歩み寄った。魔法陣の中央でユリウスが再び呪文を唱える。


「《古の契約に基づき、断たれし門を開け》」


魔法陣が淡く光り始め、微かな振動が地面を伝わる。やがて光は収束し、小さな穴が開いたように見えた。


「ここで一度探査魔術を使ってみます」


ユリウスが手をかざす。


「《暗がりを見通す眼よ、奥に潜むものを見せよ》」


周囲に柔らかな光が広がる。そして……


「……見えました!」


ユリウスの声が震える。


「彼らはここから五階層下にいます!」


「五階層……⁈」


ライナスが絶句する。


「かなり深いね」


「でも生きています」


ユリウスの目に強い光が宿る。


「二人とも魔力を保っています!間に合います!」


その決意に満ちた表情に、ライナスも覚悟を決めた様子で頷いた。


「行こう。でも十分に注意して」


「はい!」


ユリウスが力強く返事をする。


二人は互いに頷き合い、深い闇へと続く穴の中に足を踏み入れた。


***


魔法陣の中心に立った瞬間、二人は奇妙な感覚に包まれた。重力が歪み、周囲の景色が溶けていくような錯覚。


やがて視界が安定すると、そこは全く異なる空間だった。


狭い通路が続き、天井からは不気味な紋様が刻まれた石板が垂れ下がっている。壁面には古代文字がびっしりと書き込まれており、その一つ一つが微かな光を放っていた。


「すごい……」


ユリウスの目が輝く。


「これは古代魔術の痕跡ですね!どの時代のものでしょうか……」


「集中して」

ライナスが冷静に制止する。


「二人を探すのが先だよ」


ユリウスは我に返り、「そうでした」と頷くと再び魔術を発動した。


「《魔力の導きよ、求める者の元へ》」


光の矢印が前方を指し示す。


「こっちです!」


二人は慎重に歩を進めた。通路は次第に広くなり、やがて大きな円形の空間に出た。


***


部屋の中央には巨大な石柱が立っており、その周りを奇妙な形の台座が取り囲んでいる。部屋全体が淡い光に包まれており、どこからともなく不規則な音が響いていた。


「これは……」


ユリウスが石柱に触れる。


「儀式場ですね。古代の召喚魔術か……あるいは封印の名残でしょうか」


「君の知識は凄いね」


ライナスが感心した様子で言う。


「えへへ」


ユリウスが照れ笑い。


「でもこれで少し手がかりが得られました。もし二人が事故でここに来たのなら、何か操作を誤ったのかもしれません」


「事故……」


ライナスが眉をひそめる。


「まさか遺跡の罠に触れたとか?」


「可能性はありますね」


ユリウスが頷く。


「ただ、もっと気になるのはこの場所の魔力の異常さです。明らかに通常の遺跡とは違います」


その時だった。


「……ライナス?」


懐かしい声に二人は振り向いた。そこには—


壁際に倒れ込んだエドガーと、彼を支え起こそうとしているザナヴァスの姿があった。


「エドガー!無事かい!?」


ライナスが駆け寄る。


「良かった……」


ユリウスが安堵の表情を浮かべる。


「怪我はありませんか?」


ザナヴァスは二人の姿を見てほっとした様子だったが、同時に警戒心も残していた。


「なぜここに……?」


彼の声には困惑が滲んでいる。


「探知魔術で追ってきたんです」


ユリウスが説明する。


「あなたたちの魔力を感知できたので」


「……そうか」


ザナヴァスが複雑な表情を見せる。


エドガーはまだ意識が朦朧としている様子で、「なんでこんなところに……」と呟いていた。


「落ち着いて」


ライナスが優しく声をかける。


「何があったのか教えてくれるかい?」


エドガーは記憶を探るように眉をひそめた後、「……あれは突然だった。通路の壁に触れた瞬間、眩しい光に包まれて……気づいたらここにいたんだ」と説明した。


ユリウスが頷く。


「やはり転移トラップですね。それも意図的に仕掛けられたものではなく、長い年月で発動条件が曖昧になった古代の魔術回路が偶然起動したのでしょう」


「詳しい説明は後で聞くとして」


ライナスが立ち上がり、「まずは安全な場所に連れて行こう。エドガーくんは歩けるかい?」と確認する。


エドガーはゆっくりと立ち上がろうとしたが、ふらついて再び座り込んでしまった。


「すみません……少し眩暈が……」


ユリウスが心配そうに近づく。


「魔力酔いかもしれません。こちらで一時的な回復を—」


その瞬間だった。


部屋全体が激しく振動し始めた。


「何!?」ライナスが身構える。

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