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父の思い

「……やはり私は間違えたのだろうか」


昼下がりのクラウディール家の執務室で、ルーデアス・クラウディールは深いため息をついた。机上に置かれた


「アストライアでやらかしました ユリウス」


という簡潔過ぎるメモが彼の精神を削っている。文字は確かに我が息子のもの。あの子がこんなことをわざわざ書き記すということは――それなりの規模で何かが起きている証拠だった。


「領地経営だけでも頭が痛いというのに……」


子爵となってからというもの、彼の日々は単なる商人だった頃とは比較にならないほど忙殺されていた。新たに増えた領地の管理、貴族社会の儀礼や牽制、そして――あの息子のこと。ユリウスへの縁談話が続々と持ち込まれるようになったことも問題だった。今はラザフォード卿がうまく圧力をかけてくれているおかげで抑えていられる。だがもしラザフォード家の支えがなければ……


「そもそも、あの子を留めておける者がどこにいる?」


ルーデアスは机に肘をつきながら眉間に指を当てた。あの日、王がユリウスを再び謁見させろと言ってきた時の記憶が甦る。国王ですらも興味を示す我が息子。その逸脱ぶりはまさに"規格外"だ。だが幸いなことに、ラザフォード家のエドワード殿と学院の学院長が自ら動いてくれているおかげで王家の関与は回避できている。


「王笏の一件とドワーフ王国との独占交渉権……あれでラザフォード家は事実上王家と同等の力を持つに至った」


その交易はルーデアスにとっても大きな恩恵をもたらした。かつて彼が商人だった頃に築いたコネクションが生き延びているのだ。ドワーフ製品は高値で取り引きされるため、その一部は当然ながらクラウディール家にも流れてくる。おかげで今や彼の財布は潤っている。だが同時に妬みも多い。諸侯の中には「商人上がりの新参者が」と陰口を叩く者も少なくない。それでもラザフォード家の後ろ盾があるから正面切っての攻撃はない。


「もっとも……それを跳ね返すのはユリウス自身なのかもしれないがね」


そう考えながら、彼は苦笑いを浮かべた。あんなにも破天荒な子供が普通であるはずがない。それに加えて――


「フラナルか」


突然入ってきたユリウスの兄、フラナルの姿を見てルーデアスはさらに苛立ちを感じた。


「ごきげんよう、父上」


「ご機嫌なものか!」


ルーデアスは怒りを込めて叫んだ。


「毎度毎度あのあの子が騒動を起こすたびに私の胃袋は締め付けられる!」


フラナルは肩をすくめながら苦笑いを浮かべた。


「まぁまぁ落ち着いてください。ユリウスは元気一杯ですからね」


「元気過ぎるわ!」


ルーデアスは頭を抱える。


「あの子の行動を制御することなど不可能だと承知している。だがドナの『星読み』もある以上……」


フラナルの妹であるドナは未来を垣間見る力を持っている。彼女の予言によれば「ユリウスを家に閉じ込めることは破滅への道となる」とのことだった。だからこそルーデアスは渋々学院行きを認めざるを得なかった。


「しかしあまりに傍若無人にさせると厄介事ばかりですよ」


フラナルは呑気に言った。


「わかっている!」


ルーデアスは苛立ちつつも頷く。


「私だってわかっているんだ」


普通であれば子供の活躍は誇らしいものだ。貴族としては望ましい結果を次々と叩き出すユリウス。しかし同時にルーデアスにとってそれは不安材料でもあった。いざという時、あの奔放な息子を制御できるのは自分達だけなのだから。


「フラナル、次にユリウスが帰ってきたら必ず私に直接報告するよう伝えてくれ」


「わかりました」とフラナルは微笑んだ。


「でもユリウスだって悪気はないんですからあまり責めないであげてください」


「……わかっているとも」


ルーデアスは窓辺に歩み寄った。遠くには青々とした草原と雲ひとつない空が広がっていた。きっとあの向こうで息子はまた何かしら大騒動を起こしているのだろう。彼は改めて大きなため息をついた。商人時代からの勘が告げる。「これからの未来は荒波続きになる」と。


それでも――


「あの子が幸せである限りそれでいい」


ルーデアスは己に言い聞かせるように呟き、執務に戻るため椅子に座った。これからも続くであろう騒動を乗り越えるため、まずは目の前の業務を片づけなくてはならない。そう思いつつも彼の心には一抹の希望があった。

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