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月下の誓い

「さてさて、学祭の出し物ですがー!」


円形のテーブルに腰掛けた四人。ヴァルデール王国側の二年生代表としてトリスタンがパンダらしく丸い顔をさらにニコニコさせながら音頭を取った。隣では同じくヴァルデール一年生代表のエドガーが猿のような茶色の尻尾をゆらゆらと揺らしている。対するアストライア王国側からは、侯爵家嫡男のリュシアンが狐の耳をピンと立てて不機嫌そうに腕を組み、その隣では同じくアストライア一年生代表のアレクシスが鷹の鋭い目をわずかに伏せて資料に目を通していた。


「なんかいいアイデアありますかねぇ〜?やっぱお化け屋敷とか定番っすかね?」


エドガーが能天気に提案するが、リュシアンがふんと鼻を鳴らして一刀両断した。


「平民の催し物などこちらの品位に関わる。もっと格式高いものをやるべきだろう。例えば……そうだな。宮廷楽団を招いて演奏会でも開くか」


「いやいやいや!それ準備期間的にも費用的にも無理でしょーが!それにアストライアとヴァルデール合同!ってのが条件ですからね!?」


トリスタンが慌てて遮る。エドガーは「そんなん面白くなーい!」と舌を出した。


「じゃあ、お互いの国で有名なお芝居とか歌劇みたいなのはないんですか?それを参考にアレンジするとか!」


アレクシスが冷静に提案すると、リュシアンが「ふむ」と考え込む仕草を見せた。


「歌劇か……。それなら『月下の誓い』などいかがだろうか?両国で非常に人気のある演目だ」


「げっかのちかいぃ〜?」


エドガーが首を傾げる。


「ああ、知らないのか?本当に貴族か君は。両国を代表すると言っても過言ではないラブロマンスだぞ。アストライアの高貴な獅子族の青年と、ヴァルデールの下級貴族の美しい人間の娘が恋に落ちる。身分違いの恋に苦しむ二人だが、互いの愛を貫こうと最後は月の光の下で永遠の誓いを交わす……という古典的だが非常に美しい物語だ」


リュシアンは滔々と解説する。その目はうっとりとしており、よほどこの話が好きなようだ。


「へぇ〜!そんな有名なの?なんかベタな感じだけど面白そうじゃん!」


エドガーは手を叩いて喜ぶ。


「……まぁ、確かに両国の架け橋というテーマにも合うし、知名度もあるから観客の反応も期待できるかもですね」


トリスタンも乗り気になったようだ。


「じゃあ、それで決まりってことでいいですか?リュシアン先輩がこんなにオススメするなら間違いないでしょうし」


アレクシスが確認すると、リュシアンは「当然だ」と満足げに頷いた。


「さて、次は役者の選定だな。アストライアの貴族役だが……これはもうダミアン様以外にあり得まい!」


リュシアンが立ち上がり、ビシッと天井を指差す。


「ダミアン様のあの気高さ、威厳、そして獅子王家に連なる尊き血筋!まさにあの物語の王子様役にぴったりだ!いや、それ以上かもしれん!」


熱弁を振るうリュシアン。ダミアンのルームメイト兼従者のハインリヒも聞いたら喜びそうな賛辞の嵐だ。


「ええ……ダミアン殿下にそんなお芝居……。迷惑なんじゃないですかね……」


アレクシスがポツリと呟くが、リュシアンには聞こえていないようだ。


「ふむふむ、ダミアン君でアストライアの王子様か。そりゃいいですね!じゃあヴァルデール側の娘役は……どうしましょうか?誰か適当に可愛い女の子を探してくるしかないかなぁ」


トリスタンが困ったように笑いながら言った


瞬間、バンバンバン!と勢いよくテーブルを叩く音が響いた。リュシアンである。


「適当!?生半可な役者でダミアン様の隣に立たせるなど言語道断!容姿だけでなく品格、演技力、そして何よりもダミアン様と釣り合うだけの存在感が必要なのだぞ!」


鬼気迫る表情で詰め寄るリュシアンに、トリスタンは「ひえっ」と小さく悲鳴を上げた。エドガーも若干引き気味である。


「えぇ〜……そんな完璧な子いるかなぁ……。うちのクラスの子に可愛くておっぱい大きい子がいるけど……」


エドガーがぼやくと、「そういう問題ではない!」とリュシアンの叱責が飛んだ。

重苦しい空気が流れる中、エドガーがパチンと指を鳴らした。


「あ!そうだ!ユリウスでよくね?」


その一言に、部屋の空気がピシリと固まった。リュシアンは狐の耳を疑うようにぴくぴくと動かし、トリスタンは目を丸くする。アレクシスは内心(やっぱり来たか……)と小さくため息をついた。


「……ユリウス?クラウディール家の次男の?」


リュシアンが眉をひそめて尋ねる。


「そうそう!あいつ顔可愛いしぱっと見華奢だし、衣装着たらきっと映えるぜ!それに頭いいから台詞もすぐ覚えられるだろ!面白いし!」


エドガーの屈託のない笑顔とは対照的に、リュシアンの顔が険しくなる。


「男を女の役に……だと?正気か?」


「だって可愛いじゃん!それにほら、あの金髪なんて月の光に照らされたらキラキラして最高に綺麗だと思うんだよね!」


エドガーは完全に乗り気だ。トリスタンも


「……確かにユリウス君なら……。ちょっと変わってるところが神秘的な雰囲気を醸し出したり……?」


と妄想を膨らませ始めている。

アレクシスは(まぁ、エドガーが言い出したら聞かないだろうしな……それにユリウスなら意外と引き受けてくれるかもしれない。あの子、変わってるし)と静観の構えだ。


「……ふん。まぁいいだろう。ダミアン様が御許可なさるかどうかは別問題だがな。それに演技の練習は死ぬほど厳しくやらねばならんぞ」


リュシアンは渋々といった様子で認めると、早速「ではダミアン様に確認を取りに行かねば!」と鼻息荒く立ち上がった。

こうして、学園祭の劇『月下の誓い』の主要キャストは、アストライア王国第三王子ダミアンと、ヴァルデール王国子爵次男ユリウスに内定したのだった。


まさか自分がそんな大役を仰せつかるとも知らず、当のユリウスは寮の自室で魔術書を読み耽っていたのだが……


***


「よーし!完成だー!!」


エドガーの歓声と共に、幕が上がる前の薄暗い楽屋。鏡の前で最後の仕上げを終えたユリウスがゆっくりと振り向いた。


「ど……どうでしょう?」

恥ずかしそうに長い睫毛を伏せながら、しかし好奇心に満ちた青い瞳がちらりと皆を見る。

そこに立っていたのは――まるで別世界からやってきた妖精のようだった。

金糸のような髪は丁寧に梳かされ、月桂樹の冠が優雅に載せられている。華奢な肩を露わにする白いドレスはふわりと裾が広がり、胸元には小さな宝石があしらわれていた。透き通るように白い肌に薄く塗られた化粧が、彼の生まれ持った美貌をさらに際立たせていた。


「……!」


一番最初に硬直したのはトリスタンだった。パンダ男の丸い目に映るユリウスの姿は、もはやただの女装ではない。神聖な何かのようにさえ見えた。


「お……おいおい……マジかよ……」


ザナヴァスも思わず呟き、喉をごくりと鳴らす。黒狼男の鋭い眼光が、今や驚愕と少しの戸惑いに揺れている。

最も反応が顕著だったのはダミアンだ。第三王子の気品ある顔は一瞬にして凍りつき、黒獅子の耳がピンと逆立ったまま微動だにしない。金色の瞳が吸い込まれるようにユリウスに釘付けになっていた。


「あ、あの……変でした?」


沈黙に耐えかねたユリウスが不安そうに首を傾げた。その仕草があまりにも可憐で――


「「「―――ッ!!」」」


三人の男たちは同時に息を呑んだ。ドキッどころではない。胸の奥がきゅっと掴まれたような衝撃だった。


「い……いや!すごく似合ってる!っていうか……本物の姫さまみたいだぞ!?」


慌てて取り繕ったエドガーの声が上ずっている。彼もまた目の前の非現実的な美しさに心臓をばくばくさせていた。


「そ、そうですか……?」ユリウスはほっとしたように微笑む。その笑顔がまた――


(なんか胸が……キュンとする……)


トリスタンはそっと胸を押さえながら思った。普段は飄々としているこの友人が、こうまで変身するとは予想外だった。

ザナヴァスも無言で頷くしかなかった。武術馬鹿の自分がこんなことで動揺するなんて――と自嘲しながらも、目はやはり彼から離せない。

一番冷静であろうとしたダミアンもまた例外ではなかった。王子の尊厳を保とうと必死に背筋を伸ばすが、目の前でふわりと舞う白いドレスの袖や、キラキラと輝く金髪の先端が視界に入るたび、身体の芯が熱くなるのを感じていた。


(こ……これは……一体……)


彼は自分の感情に戸惑いながらも、その胸の高鳴りが何なのか理解しかけていた。


舞台は薄暮のヴァルデール王国の市場。ダミアン扮するライオネル・ヴァルガード王子が視察に訪れる。庶民の生活を偽装するため、簡素な外套を羽織り、高貴な顔立ちを隠して歩く。

そんな時、ユリウス演じる下級貴族の少女エリナが転びそうになったところをライオネルが助け起こす。


「怪我はないか?……そなた……」


ライオネルの金色の瞳がエリナの美しい瞳を捉える。エリナは驚きながらも頬を赤らめる。


(ここでユリウスが「え……王子様……?」と驚くような自然な表情を作るのが肝だった)


二人の間に流れる一瞬の緊張とときめき。観客席からはすでにため息が漏れていた。


数日後、市場で再会した二人は恋に落ちる。だが、ダミアンは苦悶の表情を浮かべながら告げる。


「私はもう婚約者がいるのだ……」


そこにリュシアン演じる許嫁の貴族令嬢が颯爽と登場。彼はまさに「男装の麗人」、その気品と威圧感は完璧に令嬢を演じ切っていた。


「ライオネル様!このような場所で何をなさっているのですか!?」


赤く燃えるような瞳でエリナを射抜くリュシアン。「身分違いの恋など許されるはずもないでしょう!」


(ここでリュシアンは完全にノリノリで、台詞の語気を強めすぎてエドガーが「おい!ユリウスを殺すなよ!」と囁いたほどだった)


屋敷に戻ったライオネル(ダミアン)は深く悩む。エリナ(ユリウス)は悲しげな表情で窓辺に佇む。

別れのシーン。ダミアンは眉を寄せ、苦渋の決断を告げるように言う。


「そなたの幸せのために……私は身を引く」


ユリウスは俯き、涙を堪える演技。彼の指先が震えるのを見て、ダミアンの胸が締め付けられた。


(本番前のリハーサルでユリウスが本当に泣きそうになり、「ちょっと休憩!」と中断したこともあった)


満月の夜。街の路地裏でエリナ(ユリウス)が暴漢(生徒扮装)に襲われそうになる。


「そこまでだ!」


ダミアン扮するライオネルが駆けつけ、見事な剣さばきで暴漢を退治する。(ここでダミアンは本気で型を繰り出したため、相手役が危うく本当に怪我しそうになった)

月明かりの下、二人は再会する。


「なぜ……ここに……?」ユリウスの声が震える。


「そなたが危ないと思ったら……私の足は止まらなかった」


ダミアンが手を伸ばし、ユリウスの頬に触れる。

観客は息を飲む。この瞬間、舞台上の二人は完全に役に入り込んでいるようだった。


翌日、許嫁のリュシアンが二人の前に現れる。


「ライオネル様……あなたはこの愚かな娘のためにすべてを捨てるつもりですか?」


ダミアンは毅然と答える。


「我が心はすでに決まっている。身分よりも大切なものがあると知ったのだ」


リュシアンはしばらく睨みつけた後、諦めたようにため息をついた。


「……愚か者ですね。でも……あなたのその愚直さが好きだったのかもしれません」そう言って踵を返す。

これが「最後に二人の純愛を認める」という劇の結末だった。


劇中で最も大きなトラブルは照明事故だった。最後のシーンでユリウスとダミアンが抱き合う直前、舞台の照明が突然一斉に落ちたのだ。


「わっ!?」

「な……なんだ!?」


暗闇の中でユリウスが小さく悲鳴を上げる。ダミアンは即座に「落ち着け!」と低い声で囁きながら、ユリウスの腰に手を回して支えた。暗闇の中でも互いの体温だけは確かに伝わる。

観客席からはざわめきが起こる。スタッフが必死に復旧作業をしている間、数十秒の沈黙が流れた。

しかし次の瞬間――ダミアンの腕の中でユリウスがひらりと身を翻す。


「ライオネル様!お怪我はありませんか!?」


ユリウスが舞台用の明るい声を張り上げた。照明が一部復活したとき、彼はダミアンに覆いかぶさるように守っている姿勢だった。その咄嗟の判断と演技に観客は沸き立った。

ダミアンは驚きつつも即座にアドリブで応じた。


「そなたこそ……無事か?」


二人が互いを気遣う場面は台本になかったが、劇の「守る」「守られる」というテーマにぴったりだった。


全ての障害を乗り越えたライオネルとエリナ。舞台上で向き合う二人。ダミアンはゆっくりとユリウスに手を差し出す。


「我が心は永遠にそなたと共にある」


(しかし――ダミアンの動きが止まった。まるで石のように固まっている。彼の金色の瞳がユリウスを見つめたまま微動だにしない)

ユリウスは少し驚いた表情を見せたが、すぐに優しい笑みを浮かべると、そっと一歩踏み出し、ダミアンの胸に飛び込んだ。


「私も……あなたと一緒にいたい」


ダミアンの腕は最初こそ硬直していたが、やがてゆっくりとユリウスの背中に回った。ぎゅっと力が込められる。舞台上では王子と下級貴族の少女が抱き合い、永劫の愛を誓う劇的なシーンだ……が――


(あああ!?ユリウスから来た!?こ……この感触……柔らかい……そして温かい……)


ダミアンの内心は完全にパニック状態だった。練習でもここまで密着することはなかった。衣装越しに感じるユリウスの鼓動が伝わってくるようだった。


「……ライオネル様?」


ユリウスが顔を上げて不思議そうにダミアンを見つめる。その青い瞳は舞台の光を受けて星のように輝いていた。


「……!」


ダミアンはごくりと唾を飲み込みながらも、なんとか平静を装うと、ユリウスの頬にそっと手を添え、ゆっくりと額を合わせた。


「……誓おう。そなたのためならば、どんな困難も厭わぬと」


その言葉は劇の台詞でありながら、ダミアン自身の心からの叫びのようでもあった。


***


劇が終わり、会場は熱気に包まれていた。生徒たちが歓声を上げ、拍手が鳴り止まない。主役の二人は大勢のクラスメイトに囲まれ、祝福を受けた。


そして、その夜打ち上げパーティーが行われていた。

学院の大講堂は華やかに飾られ、楽団の演奏が流れる中、貴族の子供たちは思い思いに談笑したり踊ったりしていた。ユリウスはまだ女装姿のままだが、今はすっかりリラックスした表情でケーキを頬張っている。


「まさか……あんな役をやることになるなんて」


トリスタンが呆れ半分で笑う。彼もまたパンダ男特有の大きな手で小さなグラスを弄んでいた。


「いや……でもすごい演技だったぜ、ダミアンもユリウスも」


ザナヴァスが頷きながらワインを一口飲む。黒狼男の耳が時折ぴくりと動くのは、まだ興奮冷めやらぬ証拠だろうか。


「エリナ嬢……じゃない、ユリウスの迫真の演技には驚いたな〜」


エドガーが満足げに呟いた。彼は脚本家兼監督として成功を噛みしめていた。


しかし、当のユリウスとダミアンは――少し離れたバルコニーに並んで立っていた。


「はぁ~……終わったぁ……」


ユリウスが大きく伸びをする。白いドレスが星空に映えて幻想的に輝いていた。


「……なかなかの出来だった」


ダミアンの言葉は短かったが、その声には安堵と少しの照れが混じっていた。


「本当に……ダミアンのおかげです。リードしてくださって助かりました」


ユリウスがにっこり笑う。その笑顔がダミアンの胸を再びときめかせる。

(この笑顔……劇中と変わらない……いや、今の方が……)


「……」


ダミアンは黙って夜空を見上げた。満天の星が二人を包んでいる。昼間の緊張が嘘のように穏やかな時間が流れていた。

ふと、ダミアンが呟く。


「……あの照明事故の時」

「はい?」


ユリウスが首を傾げる。


「お前が咄嗟に私を庇うように動いたのには……驚いた」


「あっ……あれは無意識に……」


ユリウスは恥ずかしそうに頬を染めた。


「でも……エリナならきっとそうするだろうなって思ったんです。劇の彼女なら」


ダミアンはゆっくりとユリウスの方を向く。彼の金色の瞳に月光が映り込んで揺れていた。


「……もし私が本当の『ライオネル』だったら」


「え?」


「……身分を超えて愛を選ぶ勇気が……本当にあっただろうか」


それは独り言のようでいて、ユリウスへの問いかけでもあった。

ユリウスは少し考え込むと、そっとダミアンの手に触れた。


「ダミアンは……きっと選べますよ」


「……なぜそう言い切れる」


「だって」ユリウスは微笑む。


「劇中のライオネルも、今のダミアンも……とても誠実で優しいから」


その言葉はまるで月明かりのように静かにダミアンの胸に染み渡った。


「……そうか」


「ふふっ……なんだか今日のダミアンは素直で可愛いですね」


ユリウスはそう言いながらツンッとダミアンの鼻に人差し指で軽く触れた


ダミアンが抗議の声をあげようとした時

部屋の中からダンスミュージックが流れてきた。曲は『月光の下で』――劇中でライオネルとエリナが踊った場面の曲だ。

「あっ!」ユリウスが目を輝かせる。「この曲……!」


「……」ダミアンはしばし考えた後、ゆっくりとユリウスに手を差し出した。


「そなたと踊りたい……我が姫君」


その仕草があまりにも優雅で、ユリウスは思わず息を呑んだ。ライオネル役のダミアンが再び蘇ったかのようだ。


「……はい、喜んで」


ユリウスはそっとその手を取った。

バルコニーの隅で二人だけのダンスが始まる。楽団の音は遠く聞こえるだけだが、彼らの動きは劇中の場面を再現するように自然で美しかった。

ステップを踏みながら、ユリウスがふと耳元で囁いた。


「……ダミアン」


「なんだ」


「今日一日……とても楽しかったです」


ダミアンの心臓が高鳴る。振り回されっぱなしだった一日。それでも最後にユリウスがそう言ってくれることが嬉しかった。


「……俺もだ」


そう答えると、二人は自然と視線を交わした。

月明かりが二人の顔を照らす。ユリウスは化粧が残っているものの、もはや紛れもなく少年だ。だが、ダミアンの目に映るのは確かに「エリナ」でもあり、同時に「ユリウス」でもあった。

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