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使い魔契約

薄暗い部屋に蝋燭の灯りが揺れている。古びた魔法書が積み上げられた机の上で、ユリウスは羊皮紙に複雑な魔法陣を描いていた。


「準備はいいですか?」ユリウスが肩に乗る二匹のドラゴンに尋ねる。リュミナは小さく頷いたが、ヴォルカは鼻を鳴らした。


ヴォルカの赤い鱗が薄暗がりで鈍く光る。


「こんな契約を受け入れるくらいなら……」


「そうですか」ユリウスが突然冷たい声で言う。


「残念ですが仕方ありませんね」


「なに?」


「あなたが使い魔にならないなら……学院の規則上、危険生物として処分する必要があります」


ユリウスの瞳に計算された悲しみが浮かぶ。


「せっかく友達になれそうだったのに……」


ヴォルカが凍りつく。「き……貴様っ!」


「冗談です」ユリウスがパッと笑顔になる。


「でも契約してくれないと困るのは本当です」


「こ……この……!」ヴォルカの爪が怒りで震えた。


リュミナが小声で耳打ちする。「ヴォルカ……もう諦めよう。彼からは逃げられない」


「では始めましょうか!」


ユリウスが羊皮紙を広げると床に光の魔法陣が浮かび上がる。


「ドラゴンとの契約なんて初めてです!」


「当たり前だ!」ヴォルカが吐き捨てる。


「人間とこんな契約を結ぶドラゴンなどいない」


ユリウスがナイフを取り出す。


「ちょんと血を一滴……」


「うっ……」ヴォルカが爪を切られる痛みに呻く。リュミナも大人しく爪先を差し出した。


三滴の血が魔法陣の中心に落ちると、光が爆発的に広がった。


「わぁっ!」ユリウスが目を丸くする。


「予想以上に反応が!」


光が収まると、不思議な感覚がユリウスを襲った。まるで頭の中に大量の水が流れ込むような感覚—。


「これは……」彼の瞳が銀色に輝く。


「炎竜の記憶……?火山の溶岩流れる洞窟……?」


リュミナの記憶も流れ込む—炭鉱の奥深くで孤独に生きた日々……。


「ヴォルカの知識も……」ユリウスが呟く。


「煤炎術式……?翼を使った高速移動法……?」


ヴォルカが歯噛みする。


「だから嫌だったんだ……!我らの力を盗み取るつもりか!」


「違うよ!」ユリウスが熱心に首を振る。


「これはすごい!あなたたちの力と知識が一部だけど僕の中にも流れてくる……これが使い魔契約!」


「……なに?」ヴォルカが困惑する。


リュミナが驚いた表情で言う。


「主人に使い魔の力の一部が流れ込むなんて……聞いたことがない」


「本当に?」ユリウスが残念そうに俯く。


「僕もまだまだ知らない事だらけだな……もっと勉強しなきゃ」


***


ユリウスが突然顔を上げる。「あっ!もしかして竜族特有の元素操作の応用法!」


彼が片手を掲げると、指先から小さな火の玉が生まれる。


「これは……煤炎術式?」ユリウスが嬉しそうに跳ねる。


「ヴォルカの得意技だよね!」


「貴様……」ヴォルカが唖然とする。


「これは面白い!」ユリウスが目を輝かせる。


「今度はリュミナの隠蔽術を試してみよう……」


リュミナが青ざめる。


「まさか……私たちの特殊能力まで?」


ユリウスが部屋を歩き回りながら新しい魔法を試す様子を、ドラゴンたちは呆然と見つめていた。


(ヴォルカの心の声)「冗談じゃない……俺たちの力の一部とはいえ人間ごときに……!」


(リュミナの心の声)「この子……想像以上に危険だ……」


ユリウスが突然振り返る。


「ねえ!この煤隠れ術って応用すれば透明化できるんじゃない?」


「え?」リュミナが慌てる。


「こうやって……」ユリウスの姿がゆらりとぼやけ始める。


「ほら!成功した!」


ユリウスが元の姿に戻ると、満面の笑みを浮かべる。「素晴らしい体験でした!」


「全く……」ヴォルカが疲れた声で言う。「こんなの初めてだ」


「本当に面白いね」ユリウスが肩に乗ったリュミナを撫でる。


「これからもよろしくね!」


リュミナとヴォルカは顔を見合わせる。二人の心は同じ言葉で満ちていた。


((この子は……本当に世界を滅ぼすかもしれない……))


リュミナがため息をつく。「もうどうなっても知らないよ……」


ヴォルカも同意するように羽ばたいた。「全くだ……」


ユリウスは新しい知識に興奮しながら研究ノートに走り書きしている。二人のドラゴンは小さくなって肩に留まったまま、大きなため息をついた。

窓の外では夕暮れが迫っていた。しかし彼らの長い夜はまだ始まったばかりだ—。


***


ドアを開けた瞬間、ユリウスは硬直した。部屋にはトリスタンを筆頭にザナヴァス、ライナス、エドガー、コンラッドまでが雁首揃えて彼を待ち構えていた。


「おかえり、ユリウス」


トリスタンの声は柔らかいが目は笑っていない。


「ちょっとお話しようか」


「あの……ただいま戻りました」


ユリウスが小さく言うと、次の瞬間には全員に囲まれ部屋の中央に正座させられた。


肩の上ではリュミナとヴォルカが呆れたように首を振っている。


「何でこんなことに……?」


ユリウスが小声で聞く。


《そりゃそうでしょ》リュミナの思念が流れてくる。


《まったく……》ヴォルカもため息交じりだ。


《ドラゴン二匹を連れて帰ってきたんだぞ?》


「とりあえず……」トリスタンが腕を組む。


「全部説明してくれる?」


ユリウスは背筋を伸ばし話し始めた。


「実は……ドワーフ王国で……」


ドワーフ王国での出来事、ヴォルカとの対決、そして学院長との面会までを簡潔に語った。


「それで、ドラゴンの使い魔を許可されたのか?」


コンラッドが唖然とする。


「はい!」ユリウスが笑顔で頷く。


「正式な契約も完璧です!」


「おいおい……」ザナヴァスが牙を剥く。


「なんで家絡みなのに俺に言わねえんだよ!」


「当初はドワーフ王国に調べ物をしに行くだけのつもりだったので……」


ユリウスが申し訳なさそうに言う。


ライナスが腕を組む。


「まあ、結果的にはよかったけど……」


「それより問題は」


トリスタンが前に出る。


「君の無茶ぶりだよ」


***


「まず」トリスタンが指を立てる。


「この寮には力のない生徒も多い。ドラゴンが居ることで不安になる人もいる」


「なるほど」


ユリウスが真剣に頷く。


「それに」トリスタンが続ける。


「君はもう普通の生徒じゃない。学院長公認の特例待遇……それだけ影響力があるってこと」


「はい……」


「だからこそ」トリスタンが膝を折り目線を合わせる。


「君が常識の範囲を踏み間違えてしまう可能性がある」


ユリウスの目に真剣な光が宿る。


「もし迷ったら」トリスタンが優しく言う。


「僕たちを頼って。君一人で判断しちゃダメだよ」


「わかりました!」ユリウスが明るく頷く。


「今後何かあったら必ず皆さんに相談します!」


全員が安堵の表情を浮かべる。しかし……


「そういえば」ユリウスが突然思い出したように言う。


「契約のおかげでドラゴンの力と知識の一部が僕に流れ込んできたんです!」


一瞬の静寂。


「え?」トリスタンが固まる。


「ほらこれ!」ユリウスが指先から小さな火の玉を生み出す。


「煤炎術式!」


「それだけじゃなくて!」


ユリウスが興奮気味に続ける。「隠蔽術も使えるようになったんですよ!」


全員が凍りついた。


「まだ他にも色々あって……」


「待って」トリスタンが片手を挙げる。


「それは……つまり君がドラゴン並みの力を追加で持ったってこと?」


「そうかもしれません!」


ユリウスが笑顔で答える。


「すごく面白い発見なんです!」


部屋の空気が凍る。


《やっぱり言った通りだ……》リュミナが心の中で呟く。


《世界の終わりだな……》ヴォルカも同意する。


「でも!」ユリウスが楽しそうに言う。


「こんな発見を皆で共有できるのは楽しいですよね!」


沈黙。


「本当に……」トリスタンが額を押さえる。「君は……」


「なにか?」ユリウスがキョトンとする。


「いや……」トリスタンが苦笑する。


「やっぱり君はユリウスだね」


「はい!」ユリウスが元気に頷く。

その後もユリウスは新しい魔法を披露し続けた。友人たちは呆れながらも、そんな彼が好きだった—危険だとわかっていても。

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