アレクシス・ラングレー
図書室の一角。夕暮れの光が窓から差し込む中、ユリウスは古びた魔道書と格闘していた。
「ここがどうしても……」
眉間にしわを寄せてページをめくるユリウスの隣に、軽やかな足音が近づいてくる。
「やっぱりここにいたか」
声の方を向くと、鷹男獣人の青年が立っていた。鋭い眼光ながらも穏やかな微笑を浮かべている。
「あの……君は……」
ユリウスが思い出そうとする様子を見て、青年は自己紹介した。
「アレクシス・ラングレー。アークライトの従兄弟だよ」
「あっ!アークライトさんはライナスさんと対戦した方ですね!」
ユリウスの顔がぱっと明るくなる。アレクシスはその反応に目を細めた。
「君、魔術に詳しいって本当かい?」
「はい!古代魔術に特に興味があって……」
二人の会話は予想以上に弾んだ。ユリウスの豊富な知識と情熱に、アレクシスも次第に熱を帯びていく。
「……というわけでこの術式は現代の体系とは全く異なる原理に基づいてるんです」
「なるほど!面白いな……」
気がつけば二人とも椅子に座り込んで数時間経過していた。ユリウスの目は輝き、アレクシスの羽根もわずかに広がっている。
ふと我に返ったアレクシスが時計を見た。
「もうこんな時間か……」
彼は立ち上がりながら言った。
「君のおかげで素晴らしい時間を過ごせたよ」
ユリウスも本を閉じながら微笑む。
「僕も楽しかったです。またお話したいです!」
「ああ……そうだな」
アレクシスは少し考えるように天井を見上げた。
「実は最近、色々と変わってきてるんだよ」
「変わってきた?」
「アークライトのことさ」
彼は少し照れくさそうに翼を広げた。
「あいつとライナスは今では毎日のように一緒に訓練してるんだ。昨日なんか寮でチェスをやってたよ。従兄弟の僕でもそんな姿見たことなかったのに」
ユリウスは目を丸くした。
「それはすごい変化ですね!」
「ああ。君たちの代表戦がきっかけみたいだ」
アレクシスの表情が柔らかくなる。
「君とダミアン殿下の戦い。あれが国境を越えた何かを生み出したらしい」
ユリウスは少し恥ずかしそうに指を絡ませた。
「そんな大げさな……ただ全力を出しただけで……」
「大げさじゃないよ」
アレクシスは真剣な眼差しで言った。
「ヴァルデールとアストライアの生徒たちが少しずつ交流を始めてる。お互いの国について語り合ったり、時には合同で魔術の実験もしてる」
彼の瞳に感動の色が宿る。
「ライナスとアークライトみたいに親友になった例も多いんだ。あの対抗戦は思った以上の影響を与えてるんだよ」
ユリウスは照れながらも嬉しそうに笑った。
「僕も嬉しいです!」
「ところで……」
アレクシスが突然口調を変えた。
「君って本当に面白い奴だな」
「え?」ユリウスが首をかしげる。
「初対面の僕にここまで心を開くなんて」
アレクシスは苦笑しながら羽根を揺らした。
「しかも魔術の話になると周りが見えなくなる。まさに研究者気質だね」
「それは褒められてるんでしょうか……」
「もちろん」
アレクシスは真剣な表情で言った。
「君みたいな人がいたら、きっと世界は変わると思うよ」
二人は別れ際に立ち上がった。アレクシスが去ろうとした時—
「あの!」
ユリウスが呼び止めた。
「僕たちもう友達ですよね!」
その言葉にアレクシスは一瞬驚いたが、すぐに笑みが広がった。
「そうだな……」
彼はくるりと回ってユリウスを見つめた。
「君は獣たらしなのかな?」
「獣たらし?」
「ああ。あんなに敵対してた連中を次々と虜にしていくからさ」
彼は冗談めかして言った。
「そのうち全生徒の半分が君のファンになるんじゃないか?」
ユリウスは頬を赤らめた。
「そんなことないですよ!」
「まあいいさ」アレクシスは手を振った。
「また話をしよう。今度はもっと深く掘り下げて」
彼は歩き出しながら肩越しに言った。
「じゃあな。君との出会いは予想外の幸運だったよ」
アレクシスが去った後も、ユリウスはしばらく彼の言葉を噛みしめていた。胸の中に温かいものが広がっていくのを感じながら。
(友達……か)
窓の外では夕陽が沈みかけていた。新しい出会いと関係性の変化—これがアストライアとヴァルデールの未来につながっていくのかもしれない。そんな予感を胸に、ユリウスは再び本を開いた。




