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ダミアンの変化

図書室の一角。ダミアンは重厚な歴史書を開いていた。しかし隣には三人の取り巻きたちが陣取っている。


「ダミアン様!最近の政策についてですが……」


「殿下!ぜひ私にお任せを!」


「我が家の領地が—」


「うるさい!出て行け!」


堪忍袋の緒が切れたダミアンは本を乱暴に閉じた。


「少し一人にさせてくれ」


取り巻きたちが渋々去っていくと、彼は眉間に皺を寄せたまま立ち上がった。護衛のガルヴェインにさえ「付いてくるな」と命じて学院の廊下を歩き始める。


(どこか静かな場所はないのか)


***


中庭に出たダミアンは、茂みの向こうから微かな囁き声が聞こえてきた。


「……だからこの術式は……」


興味本位で覗き込んだ彼の目に映ったのは、小柄な青年—ユリウスが本に向かって何かを呟いている姿だった。周りには小鳥やリスが群がっている。


「あれは……」


ユリウスが夢中になってページをめくる姿に、ダミアンはなぜか引き寄せられるように近づいた。


(この俺に気づかないとは……)


無防備な背中に少し呆れつつ、彼はユリウスから少し離れた場所に腰を下ろした。先程読み掛けた本を開く。


ページに目を落とすと、先ほどまでの苛立ちが不思議と消えていくのを感じた。


「ここにいさせてくれ」


ダミアンは自分でも驚くほど穏やかな気持ちでそう思った。


ページをめくる音だけが響く静寂。風が木々を揺らす音すら心地よい。


(こんなに落ち着いたのは久しぶりだ)


しかし時折、城での記憶が蘇ってくる。権力争いの陰湿な駆け引き。媚びへつらう家臣たちの声。毒を孕んだ視線。


「お前は兄上に比べれば……」


「将来は殿下の足手まといに……」


父の冷たい声が耳の中で響く。


「うっ……」


頭を振って記憶を振り払おうとするが、一度浮かんだ負の感情はなかなか消えない。


(やはり俺は……)


深い溜息をついたその瞬間—


ふわりと誰かが自分の手を包み込んだような感覚があった。


(なんだろう……この安心感は)


意識が遠のいていく。母の温もりを思い出した。亡くなった母が頭を撫でてくれた時の温かい感触—


「大丈夫よダミアン」


懐かしい声が優しく響く。あんなにも恐れていた自分が、不思議と受け入れられていく。


遠くから呼ぶ声にダミアンは目を開けた。目の前に広がるのは青い空。


「起きましたか?ダミアン様」


視線を下ろすと、ユリウスが覗き込んでいる。彼の片手が自分の手をしっかりと握っていた。


「なっ……!?」


慌てて手を振りほどく。ユリウスはきょとんとした顔で首をかしげる。


「あの……うなされていたようなので」


ダミアンは顔が熱くなるのを感じた。


「ふざけるな!気安く触れるんじゃない!」


立ち上がって踵を返す。しかし振り向きざまにユリウスの笑顔が目に入った。


「また今度!」


その屈託のない笑顔に一瞬足が止まる。心臓が妙な鼓動を打った。


廊下を早足で歩くダミアンの前に取り巻きたちが立ちはだかった。


「ダミアン様!探しましたよどちらへ—」


「失せろ」


通り過ぎようとした時、一人が目を丸くした。


「お顔が赤くなっておりますよ?」

「まさかヴァルデールの輩とまた—」


「あり得ん!」


怒鳴りつけるダミアン。しかし彼の胸の中では別の感情が渦巻いていた。


(あの手の温もりは何だったんだ……)


***


その日の夜。自室のベッドで天井を見つめながらダミアンは考え込んでいた。


「なぜあんな奴に……」


窓辺に月明かりが差し込む。ユリウスの屈託のない笑顔が脳裏に浮かんだ。


「また今度!」


(何なんだ……この気持ちは)


ダミアンは自分の胸の高鳴りに戸惑いながらも、不思議と嫌な気持ちではなかった。むしろ次にユリウスに会ったら何を話そうかと考えている自分に気づき、さらに混乱するのだった。

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