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訓練か拷問か

学院の中央ホールに緊迫した空気が流れていた。


「代表戦を申し込む」


ダミアンが堂々と宣言する。


「ヴァルデールとアストライアの対抗戦を正式な決闘として認めろ」


ヘルマン教師が眉をひそめる。


「なぜ急にそのような提案を?」


「理由は明白だ」


ダミアンの鋭い視線がユリウスに向かう。


「先日の屈辱……これを公式な形で晴らす」


コンラッドとエドガーが身構える。しかしユリウスは静かに目を伏せていた。


「ふむ…だが決闘を認めるわけにはいかない」


「何だと⁈」


食ってかかろうとしたダミアンをヘルマンが手で制す。


「一、二年合同の団体戦であれば認めよう」


チッとダミアンが舌打ちする。


「仕方あるまい……貴様もそれで構わんな?」


「はい、授業の一環であれば受けましょう」


その言葉に周囲が息を呑んだ。


「ただし—」


ユリウスは初めて顔を上げる。


「僕達が勝ちますよ」


***


ヴァルデール側


「僕を含め五人ですね」


ユリウスがヘルマンから渡されたリストを見つめる。

実力が伴わない者が出ても怪我をするので候補者がある程度絞られていた。


「まずザナヴァス先輩」


圧倒的な戦闘力。


「次にコンラッドくん」


剣術と敏捷性に長ける一年生。


「ライナス先輩」


ザナヴァスの親友でありバランス型の戦士。


「そして……」


ユリウスの視線がトリスタンに止まる。


「トリスタン先輩」


「え!?」


「適任だと思います」


ユリウスは真剣な眼差しで言った。


「トリスタンさんは強いですから!」


一方アストライア側


「当然私は参加する」


ダミアンが宣言。


「そして……」


彼は四人の側近たちを指名する。


ガルヴェイン、ブルドラン、リュシアン、アークライト。


「完膚なきまでに叩き潰す」


***


森の中の秘密の広場。


「これからは毎日朝練から夜間訓練まで行います」


ユリウスが微笑む。


「怪我を恐れることはありません」


次の瞬間、大地から土製の巨人が次々と出現。


「これらは僕が作り上げた『治療用と訓練用ゴーレム』です」


最初の打撃—

ザナヴァスが吹き飛ばされる。


「ぐっ……!」


地面に叩きつけられる寸前—

ゴーレムの手が優しく受け止め、即座に治癒の光が放たれる。


「何度でも立ち上がってください」


「「めちゃくちゃ言うな!」」


誰ともなく非難の叫び声が聞こえる


しかしユリウスは気にする事なくゴーレムに指示を出し続ける。


次々と打ち込まれる土製の腕。骨が折れる音も聞こえる。

しかし瞬時に再生される。


「し、死ぬ……」


コンラッドが息を切らしながら呟く。


「なんで……僕なんかを選んだんだろう……」


トリスタンは震える拳を見つめていた。自分より強い者はいくらでもいる。

しかし—

ユリウスが近づいてきた。


「トリスタンさん」


その小さな手がそっとトリスタンの掌を包む。


「トリスタンさんは……本当はとても強いんです!」


力強く言い切るユリウスの目。


「だから一緒に戦いましょう」


その瞬間—

トリスタンの中で何かが弾けた。


「わかったよユリウス」


彼は頷く。


「全力を尽くす」


ユリウスの手を握り返す。


「必ず勝ちましょう」


その言葉に全員が奮起した。


***


学院掲示板に大きく貼り出された告知文。

〈ヴァルデールvsアストライア代表戦〉

日時:十日後

場所:学院訓練所

観衆動員:予定あり


ユリウスの目が燃えていた。ダミアンの怒りと誇りの全てを受け止める覚悟—はあるかは別にして

思う存分人体強化実験ができるこの機会を喜んでいた。それはもう非常に喜んでいた。


「ふふふ!アレとかコレとか全部試しちゃおう!」


***


「今日の目標は30分間生……逃げ延びることです」


森の中に立ち上がる五体の巨大な木製ゴーレム。表面には不気味な笑みが刻まれている。


「スタート」


ユリウスの手が一振りされるや否や、ゴーレムたちが唸り声と共に動き出した。鈍重に見えるその動きが瞬時に加速する。


「ひっ!」


トリスタンが真っ先に捕捉され、巨大な腕に掴まれる。地面に叩きつけられ意識を失う寸前—


「癒やしの手」


ユリウスの声と共に柔らかな光がトリスタンを包み込む。


「すぐに立ち上がって!まだ始まったばかりです!」


容赦ない声が響く。


30分後—

全員が泥まみれで地面に倒れ込んでいた。


「皆さん素晴らしい動きでした!」


ユリウスは微笑んだ。


「明日は35分です!」


***


巨大な木製の台座に直立する四腕のゴーレム。

「次は実戦形式です」


ユリウスが説明する。


「各腕が異なる戦術を駆使してきます」


「……っておいおい」


ライナスが苦笑いする。


「これ本当に訓練なのか?拷問じゃなく?」


「もちろんです!」


ユリウスは満面の笑み。


「でもちょっと難しいかもしれませんので……最初は一体から始めましょう」


「嘘だろ!?」


ザナヴァスが叫ぶ。

四方八方から繰り出される木剣の猛攻。避ける隙間もない。


「ぐっ!」


コンラッドが腹部を殴打され吹き飛ぶ。だが即座に回復が施され立ち上がらされる。


「もう一度です!」


夜になっても終わらない。血反吐を吐いても起き上がる。


***


森の中に円形の結界が張られる。


「最後は耐魔術の訓練です」


ユリウスの目が輝く。


「皆さんの身体の限界を探ります」


「探る……?」


トリスタンが不安そうに問いかける。


「どれだけの魔術圧に耐えられるのか」


ユリウスの手が4人に向けられる。


「まずは弱いものから始めます」


突然—


不可視の衝撃波が押し寄せる。見えない圧力が肺を潰し呼吸困難に陥れる。


「っ……!」


全員が呻き声を上げる。


「まだまだ序の口です!徐々に圧を増やしていきますから耐えて下さい!」


ユリウスが微笑む。


***


「よし!」


朝練後にコンラッドが握り拳を作る。


「昨日は3時間寝られました」


「俺もだ」


ライナスが笑う。


「最初なんて……眠れないくらい痛くて怖かったのに」


トリスタンが静かに呟く。


「でも……強くなってるのは感じるよね」


***


「では身体も慣れてきたと思いますので」


ユリウスが手を振るう。周囲に現れる無数の光の玉。


「制限時間はこの光が全部消えるまで。皆で僕を拘束できたら勝ちです」


「ふざけんな!」


ザナヴァスが吠える。


「負けるわけねえだろ!」


開始の合図と共に—

四人が同時に動く。


ザナヴァスが正面から突進。

コンラッドが背後から忍び寄る。

ライナスが左右から牽制。

トリスタンが遠距離から支援魔法を放つ。


しかし—


「なかなか良い連携です」


ユリウスが微笑む。

その指先一つで—

全員が空中に浮かされていた。


「くそっ……!こんなの反則だろ!」


***


30分後。

地面に倒れ伏す四人。

しかし誰一人諦めていない目をしている。


「大丈夫です」


ユリウスが笑顔で言う。


「皆さん……確実に強くなっています」


その言葉に全員が顔を上げる。

ユリウスの目が輝く。


「これならきっと……どんな相手にも負けません!明日から仕上げに強度を倍にして……」


『やめろーーーー!』


誰とも知れぬ、いや全員からの悲鳴が響き渡った。

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