繋がる事件
翌朝、ユリウスとバルドは山岳都市の喧騒の中、事件の核心に迫るための聞き込みを開始した。昨夜の酒場の荒くれ者たちから、早起きの職人、さらには街はずれの老人まで、二人は手当たり次第に声をかけていった。だが、返ってくるのは皆、漠然とした恐怖と噂話ばかりだった。
「夜に出歩いて霧に呑まれたら最後、二度と戻れない」「霧の中に獣の唸り声が聞こえた気がする」「弟はあの霧の中から帰ってこなかった……」
そんな証言が続く中、とある老獣人からの証言がユリウスの耳に強く残った。
「……それは普通の霧じゃなかった。あの夜、月明かりの下で一瞬だけ見えたんだ。霧の中に浮かぶ、赤い二つの光が……まるで、獲物を見据える獣の眼のような……そして、霧自体がまるで意志を持っているみたいに、ゆっくりと蠢いていた。魔術で火を焚いても、すぐに消えちまったよ。魔術師の爺さんが試したが、結界も弾かれたって話だ」
ユリウスは顎に手を当て、慎重に情報を吟味する。隣ではバルドが眉間に深い皺を寄せている。
「魔術が使えなくなる霧……火も消える……しかも意志を持って動く?」バルドが唸るように言った。「そんなもん、自然に湧いて出るはずがねぇ。誰かが仕組んでるに決まってる!」
ユリウスは頷いた。「ええ。自然発生的なものとは考えにくいです。何者かが意図的に、この街の周辺に魔術妨害と幻惑効果を持つ特殊な霧を展開させている可能性が高い。しかも、火や物理的な衝撃にも強いように改良されているようです」
「そんな技術を持つ奴がいるのかよ……しかも、そんなもんをこんな場所で使うなんて、目的は一体……」
ユリウスは少し考え込み、そして静かに答えた。「目的はまだ不明ですが……学院近くの沼地でも、似たような状況に遭遇しました。あそこは元々魔術の乱反射が起きやすい土地でしたが、その時も、キメラに襲われました。偶然ではありません」
「沼地のキメラ……ってことは、今回も?」
「可能性は非常に高いですね。それに、霧の話を聞く限り、単なる獣ではなく、明らかに知能と目的を持った存在が関与していると感じます」
バルドの目が鋭く光った。「つまり、この街の失踪事件も、その『キメラ』が霧を使って人を攫ってるってことか?そして、その霧はお前さんを狙うために準備されたもんと同じ手口……ってことか?」
「少なくとも、関連性は極めて高いです。沼地の件が単なる実験だったとすれば……ここで起きているのは、その実験を元にした本番の作戦かもしれません。対象は僕だけでなく、この街全体かも……あるいは、素材集め」
「素材……だと?」
バルドが怪訝な顔をする。
「別の場所で似たような誘拐事件が起きた時は……拐われた人々はキメラの材料にされていました」
ユリウスの声は淡々としているが、その言葉の重みは二人の間に冷たい沈黙をもたらした。「もしそうなら……一刻の猶予もありません」
「……許せねぇ」バルドの拳が強く握りしめられた。「俺たちの仲間がそんな……くそったれが!」
ユリウスはバルドの怒りを静かに見つめた。この街の人々を大切に思う彼の純粋な感情が伝わってくる。それが少し嬉しいと同時に、巻き込んでしまうかもしれないという不安も過ぎった。




