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その渇望ゆえに宇宙をさまよわずにはいられない

ニエズルボロ - アストロファーミングの裏側

作者: 八角泰三

テラフォーミングとは、天体の環境を丸ごと居住可能にする技術である。この考え方自体は古くから存在していたが、現在に至るまで実現した例はない。人類はまだ宇宙で完全に居住可能な環境を作り出すことはできておらず、代わりに限られた範囲で生活可能な空間を確保することに注力している。


テラフォーミングに似た考え方として、食料生産だけを目的とした環境調整「アストロファーミング」がある。この技術にはいくつかの成功事例がある。


アストロファーミングは、数段階にわたる工程を経て行われる。第一段階では、光合成に似た化学反応を起こす装置を天体に送り込み、土壌となる化学物質を取り込みながら、炭素からセルロースを作り出す。この段階が進むと、天体の表面に樹皮に似た硬い層が形成され、第二段階が始まる。


第二段階では、開拓者が現地に派遣され、樹皮様の層を開墾していく。開墾作業では、重機を使って地面を撹拌しながら、アミノ酸やミネラルを合成する微生物と、セルロースを糖に分解する「ニエズルボロ」と呼ばれる生物を管理する。これにより、土壌が徐々に育成されていく。


天体全体で第一段階が完了する頃、第三段階が始まる。第二段階で開墾された土地に、アストロファーム環境下で育成可能なようにデザインされた家畜や植物の農場が開かれる。本来は第二段階も機械化が可能だが、第二段階で人を定住させておくと、第三段階の成功率や、初期の生産性が高くなる事が知られている。そのため、農場開設までの水と酸素の支給と、第三段階での土地開発の優先権を条件に開拓者が誘致される。


第四段階では、農場の面積を広げる作業が続き、ここでアストロファーミングは一つの完成を迎える。農場が発展し、他の天体に物資を輸送し始めると、アストロファーミングの収支はプラスに転じる。


今回訪れたのは、アストロファーミングの第二段階が始まったばかりの天体だ。開拓者たちの食事を体験する機会を得たが、そのためには開墾作業を手伝わなければならない。なぜなら、彼らの食料源はニエズルボロで、開墾を進めた分だけ食すことが許されているからだ。


ニエズルボロは、円筒形の体を持ち、断面はわずかに楕円形をしている。その表面は薄く、半透明で、内部の組織がぼんやりと透けて見える。湿度を含んだ表面はわずかに粘り気があり、食欲をそそるものではないが、その体には炭水化物が豊富に含まれており、開拓者の貴重な栄養源となっている。


開墾作業を終えた後、開拓者たちと共に食卓に座ると、そこには外皮を剥かれ加熱されたニエズルボロが並べられていた。さらに、いくつかの錠剤が添えられている。ニエズルボロの味は非常に悪く、消化が難しいため、食事の前に嘔吐抑制剤と胃腸薬を服用しなければならない。


このような過酷な環境にも関わらず、子孫に豊かな土地と仕事を残すため、彼らは望んで開拓者となることを選んだ。宇宙開発以前にも、同じように未開の地を開拓し、切り開いた者たちがいたのだという。人類とはなんと働き者なのだろう。


第二段階には多くの時間がかかり、この中には人生のほとんどの食事をニエズルボロと服薬で過ごす人もいるだろう。にもかかわらず、彼らの表情は明るく活力に満ちている。


その姿に感化されたのか、それとも慣れない労働の疲れからなのか、この時の食事は不思議と満足度が高いものに感じられた。


何もせずに得られる報酬より、課題をこなすことで得られる報酬を好む、「逆たかり行動」が哺乳類や鳥類で観察されているそうです。労働の対価として食う飯が美味いのは、原始的な本能かもしれません。

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