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第4話

――三か月後。


「だ、誰か、助けてーっ!!」

ダンジョン内に女性の悲鳴が響き渡った。

俺は昼寝を一時中断すると、起き上がり、声のした方へと急ぐ。


声のもとに駆け付けると、そこにはゴブリンの群れに囲まれている若い女性の姿があった。

ゴブリンたちは今にも女性に襲い掛からんとしていた。


「お、お願い、助けてっ!!」

俺に気付いた女性が声を上げる。

それを受け、ゴブリンたちも俺の方に顔を向ける。


『ギギギ……』

『ギギギギィ』

『ギギギィ』


ゴブリンの中の一匹が、こちらにゆっくりと近づいてきた。

右手に持ったこんぼうを左手にパシパシと打ち付けながら、

『ギギギギ』

不敵な笑みを浮かべている。


俺はゴブリンたちの数を数えた。

「いち、に、さん……六匹か。楽勝だな」

『ギギィ』

ゴブリンは人語を理解できるくらいには知能が高いらしく、俺の言葉を耳にすると表情を一変させた。


「なんだ、一丁前に怒ったのか? 雑魚のくせに」

『ギギギ』

『ギギギギィ』

『ギギギィ』

俺の挑発が功を奏し、ゴブリンたちは女性から離れ、全員が俺のもとへと歩みを進める。

みな一様に眉間にしわを寄せて、牙をむき出しにしている。


俺は女性に目配せをして、そっと逃げるよう促した。

女性は怯えつつ、静かにその場を走って去っていった。

とりあえず、これでひと安心だ。


「さあ、全員でかかってこいよ。そうすれば、かすり傷くらいは負わせられるかもしれないぞ」

『ギィィッ!』

『ギギィッ!』

『ギギィィッ!』


怒りが頂点に達したゴブリンたちは、こんぼうを振り上げて一斉に飛び掛かってきた。

俺は額のゴーグルを両目に装着すると、右手に隠し持っていた閃光弾を地面に投げつける。


『ギャッ!?』

『ギギャッ!?』

『ギッ……!?』

まばゆい光が辺りを包み、ゴブリンたちは目を閉じて顔をそむけた。


「次はこれだっ!」

俺はLLLから爆裂弾を2つ取り出すと、続けざまゴブリンたちに放り投げた。

命中したゴブリン二匹が木っ端みじんに弾け飛び、そばにいたほかのゴブリンたちも爆風で吹き飛ぶ。


ゴーグルを外した俺は辺りを見回し、ゴブリンの死体が六つあることを目視。

直後、ゴブリンの死体は霧のように消え去っていった。


「なんだ、宝箱はゼロか。ついてない」


あとには何も残らなかった。

宝箱一つくらいは期待していたのだが、アイテムを消費しただけで終わってしまった。


「……いや、女の人を助けられたんだ。それでよしとしよう」

自分に言い聞かせるようにつぶやいてから、俺はステータス画面を開いて現在の所持アイテムを確認する。


――――――――

瀬尾大輔(セオダイスケ)

Age:29

Item:閃光弾×12、爆裂弾×2、火炎弾×10、回復薬×4、解毒薬×1、強化薬×1、ブロンズソード×1、皮の盾×1、兵糧丸×1、ただの水×11、金塊×3、

Friend:長谷川リサ、武藤信二、林ニーナ

――――――――


「爆裂弾は残り2つか……ま、なんとかなるだろ」


この三か月の間で、俺はダンジョンで生き抜くすべを身につけた。

魔物の倒し方、アイテムの使い方、LLLの操作方法。

フレンドも三人いる。

三日に一回くらいは連絡を取って、魔物やアイテムの情報を交換したり、お互いの無事を確かめ合っている。


「……あ、あの」


ステータス画面を閉じた俺に、小さい声で話しかけてくる者がいた。

振り返ると、それは今しがた助けたばかりの女性だった。

女性は頭を下げながら「さっきはすみませんでした。一人で逃げてしまって……」と申し訳なさそうに言う。


「いえ、お気になさらず」

逃げるように合図をしたのは俺の方だしな。

まったく問題ない。


「お礼を言わせてください。助けていただいてどうもありがとうございました」

「そんな、全然いいですよ」

「あの、助けていただいたお礼といってはなんですが、これを……」

そう言って、女性が差し出してきたのは兵糧丸だった。

兵糧丸は、一つ食べるだけで十日は腹持ちするというアイテムだ。


「すみません、本当はもっといいアイテムを差し上げたいのですが、アイテムはこれしか持っていなくて……」

と恥ずかしそうにうつむく女性。


「いや、お礼なんていいですよ」

「いいんです。私もうダンジョンには戻ってこないつもりなので……さっき死を目の前にして、もうダンジョンに潜るのはやめようって決めましたから……」

よく見ると、女性は恐怖からか、唇を震わせていた。


「……なので、これ受け取ってください。もしいらなければ捨ててくれて構いませんので……」

「そうですか。そういうことなら、じゃあ、ありがたくいただきますね」

兵糧丸を受け取ると、LLLにしまう。

それを見て、女性はホッとしたような表情を浮かべてから、

「それでは……失礼します」

扉を出現させると、ダンジョンから去っていった。


ダンジョンには魔物がいる。

俺はこれまでに十人の探索者と、この無限大ダンジョンで出会ったが、現在フレンド登録している三人以外の七人は、みんな魔物に殺されてしまった。

だからこそ、さっきの女性の意思は尊重したいと思う。


やはり、この世は命あっての物種なのだからな……。

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