第1話
思い返せば、山あり谷ありの人生だった。
医者の家系に生まれ、外見にも恵まれていた俺は、何不自由なく育った。
スポーツも得意だったので、小学生時代はすこぶるモテた。
だが中学2年生の夏、父が業務上横領の罪で捕まった。
それを機に両親は離婚、俺は母に引き取られた。
母も医者だったが、ボランティア精神の強い人だったので、俺たちの生活は驚くほど困窮していた。
そんな母も、俺が高校生の時に交通事故で亡くなった。
俺は賠償金と保険金を元手に事業を始め、それが大成功。
若くして年商10億円の会社の社長になった。
しかし、その二年後、経営していた飲食店で食中毒が発生し、さらにアルバイト従業員の不謹慎動画も発覚したことで業績不振に陥り、結局、会社は倒産、俺は自己破産を選ぶこととなった。
30歳を目前にして、お金も恋人も友人も一気に失い、挙句の果てには末期の癌まで見つかる始末。
生きる希望をなくした俺は自殺することに。
「……母さん、今行くからね……」
富士の樹海で首を吊ろうと、俺はゆっくりとロープに手をかけた。
――まさにその時だった。
ドゴゴゴゴゴゴッ……!!
地響きとともに地割れが発生した。
バランスを崩し、その場に倒れる俺。
森全体が大きく振動して、鳥や獣のけたたましい鳴き声が響いた。
どれくらいの間、地面に倒れていたことだろう。
揺れが収まったのを確認し、立ち上がると、
「っ……!?」
俺は目の前の信じられない光景に思わず絶句した。
「な、なんだ、これ……?」
俺の目に映っていたもの、それは――この世のものとは思えないまがまがしいオーラを放つ、金属製の大きな扉だった。
◆ ◆ ◆
「……」
その扉は地面から生えているようにも見えた。
しかし、そんなことあろうはずがない。
理解の及ばない光景に、俺はただただ息を飲むことしか出来なかった。
そんな呆気に取られていた俺を、現実に引き戻すように、次の瞬間、扉から機械音声が発せられた。
『ようこそ、無限大ダンジョンへ』
その声は抑揚のないもので、一切温かみのないものだったが、それがかえって俺の気持ちを落ち着かせた。
『この扉の向こうには、多くのお宝が眠っています。そしてそれらを守るように多くの魔物が潜んでいます。身の危険はありますが、命を懸けるだけの価値はあります』
「……」
『さあ、覚悟が決まったならば、この扉を開けて無限大ダンジョンへと繰り出してください』
……俺はイカれてしまったのだろうか。
それともこれは現実なのか……。
「ふっ……どっちでもいいか」
どうせ俺は死ぬつもりでここに来たのだからな。
今さら命など惜しくはない。
この扉の先で何かが起こって死んだとしても別に構わない。
自暴自棄にも似た感情が俺の心の中を支配し、気付けば自然と笑っていた。
「お宝、魔物……面白そうじゃないか。騙されてやるよ」
富士の樹海に足を踏み入れた時から死ぬ覚悟はできていた。
タダで死ぬくらいなら、最後は華々しく散ってやる。
俺は右手を伸ばすと、扉に手を押しあてた。
そして力を込め、ギギギギィィィ……。
扉は思いのほか軽々と動いた。
「さて、何が待ってるかな……」
『ご武運を』
声に導かれるようにして、俺は扉の先、光のあふれる方へと足を一歩踏み出した。