第9話 あなたは神を信じますか?
お立ち寄りいただきありがとうございます。
「君は神を信じる?存在すると思う?」
突然の話の展開に、何を問われているのか全く分からなかった。
それが銀ちゃんと何の関係があるの?
何か教訓的な話をして、誤魔化そうとしているの?
「どういう意味ですか?」
質問に質問で返した。取り敢えず相手の出方を伺ってみよう。
「もし君が、自分の確たる神を信じているのならば、この話はしない。」
??益々意味が分からない。
「特に熱心に信仰している神はいないです。」
お正月には神社やお寺にお参りをしておみくじを引くし、観光がてら御朱印を集めたり、素敵な教会があれば結婚式は教会でなんて夢を見てみたり、受験の前には神社で合格祈願をした。
まあ、その程度である。
「地球及び、又は人類を守護する神は8人存在していた。でも、いろいろあって今は6人になった。」
彼の口調はごく普通のことをごく普通に話している感じだ。
それと、『及び、又は』に凄く引っかかった。でも、何故かこの話の途中で口を挟むのは申し訳ない気がして黙って話を聞くことにした。
「地球と似たガーデンという惑星があって、その半分近くを占めるエデンと呼ばれるエリアに彼らは住んでいる。ガーデンは地球のすぐ近くにあるけど引力などは全く干渉しあわない、いわゆる異次元に存在する惑星で、ガーデンから地球は見えるけど、地球からはガーデンは見えない。」
おい、どうした?!
教訓や説教じゃなくて、意味不明な作り話をして煙に巻こうって言うのか?
「そして、銀ちゃんの話だけど……」
「はい。」
この話が銀ちゃんの話にどの様につながるのか全く想像がつかないけど、固唾を呑んで彼の次の言葉を待った。
「明日、銀ちゃんに会ったら私からこの話を聞いたと言って続きを尋ねてみて。きっと彼は答えてくれるはずだから。」
「え?」
鳩が豆鉄砲を食ったような顔とは、今の私の顔の事だろう。
「え?」
もう一回、イントネーションを変えて言ってみた。
「私から話せるのはここまでだ。」
彼はコーヒーを一口飲んでマグカップをテーブルに置き、腕時計を見た。
「そろそろ出かけなきゃならないんだけど、他に質問は?」
「じゃあ、論点はずれるんですけど、『地球及び、又は人類』ってどういうことですか? 神様ってどっちも守ってくれるんじゃないんですか?」
「面白いところに気づくね。」
穏やかに笑って話すジョシュアが何だか良い人に見えてきた。
こんな壮大で意味不明なほら話をしている男なのに。正直、ほらのレベルを超えて、病んでるレベルだ。
「私たちにも解らないんだ。彼らがどちらに重きを置いているのか。」
「あと、どうして神様は二人減ったんですか? 神様って不老不死だと思っていました。」
「本当に、面白いこと聞いて来るね。一人は存在している、もう一人は……消滅してしまった。詳しい話は出来ないけど、彼らにもいろいろあるのだろう、私には理解できない事ばかりだけど。」
そう言ってまた腕時計に目をやった。
「君と話していると面白いね。彼が友だちにしたがる理由も分かるよ。でも、本当にそろそろ行かなくちゃならないんだ、申し訳ないけど今日はこの辺で。」
そう言うと立ち上がり、自分とモモ太を玄関まで送り出した。
玄関では手を振って「気を付けて帰ってね。」と言ってくれた。
「なあ、モモ太。あいつ良い奴なのかな?」
モモ太がこちらを見上げたが、もちろん返事はない。
「騙されちゃダメだよね。何食わぬ顔で、あんな作り話をする奴なんか信じられる訳がない。それに…」
とある言葉が頭に浮かんでいた。『ロリコン』
…厳密にはペドフィリアって言うらしいけど、ここはロリコンと呼んでおこう。
そうだ、あの男が来海ちゃんに向けた表情、態度、一度見ただけでは確証は持てないが、あの男はロリコンかもしれない。
そう思うと、全てが怪しい。あの男は何を企んでいるのだろうか?
明日、本当に銀ちゃんにあの話をしても良いのだろうか?
まあ、問題ないだろう、あの男がした話で、私がした話じゃない。
いや待てよ、私がこの話を銀ちゃんにして、銀ちゃんがそれをジョシュアに尋ねる、その時にあいつが自分はそんな話はしてないと答える。そしたら、銀ちゃんにまるで私が虚言癖のある怪しい人だと思われちゃうかもしれない。あいつは、それを目論んでいるのか?
そう考えると、あの男がまたもや怪しく感じられる。
でも、そんなの考え過ぎかもと、頭の片隅で冷静な自分が言っている。
それもそうなのだ、そんなことして彼に何の得があるのだろうか?
......もしかして、銀ちゃんのことが好きなのか?……そう言えば、光源氏ってロリコンキャラが定着してるけど、空蝉の弟にもちょっかい出しかけていたよな……
そんなことはどうでもいい、あー私は一体どうすればいいんだ!
その時、ギューっとお腹が鳴った。
音が大きかったのか、モモ太がこちらを見上げた。
一先ず家に帰ってお昼を食べよう。冷凍のパスタがあったからあれにしよう。
明が帰った後の誰もいない玄関で、一人ジョシュアは佇み、
「続きはご自分で話してくださいね。結局、最後は記憶を消されてしまうのだから、嘘をつく必要はないでしょう。」
今回の話はいかがでしたでしょうか?
宜しかったら感想など聞かせてください。
毎週水曜、日曜14:30更新予定です。