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第8話 あなたのことは理解できるはず

お立ち寄りいただきありがとうございます。

 そう言えば、スティングの曲で『Englishman in New York』っていうのがあった。

 大河たいがはクラッシック好きだが、結構な雑食でスティングのベースが凄いって熱く語ってたことがあった。半分以上、大河たいがが何を言ってるのかわからなかったし、正直スティングって親世代が聞いてたかどうかのミュージシャンってイメージだから自分は全く聞いたことなかった。だけど、その曲の歌詞は面白いと思って印象に残っている。

 リーガルエーリアン。


 ここはニューヨークみたいな大都会じゃないけど、この中途半端な田舎で、彼は、まさしくリーガルエーリアン。

 そんなことを考えながら門をくぐり、彼の後について玄関に向かった。


 そう言えば、モモ太も一緒だった。


「あの…」


「なに?」


 止まって振り返った。


「あの、モモ太も一緒で大丈夫ですか?」


「え? どうぞ。」


 犬には寛大らしい。それも英国紳士だからだろうか?




 引き戸の広い扉を開けると、めちゃめちゃ広い玄関。玄関と言うより土間。多分リフォームして床をタイル張りにしてある。吹き抜けの天井にはモダンなシャンデリア。


 靴を脱いで上がると、その先に長い廊下が続いていた。廊下の方を覗こうしたら


「こっちだよ。」


 手招きをされ、玄関脇の和室に通された。


 応接室的な所だろうか?

 和室には、綺麗な青色のペルシャ(って言うのかな?)絨毯が敷かれ、アンティークなソファーとローテーブルが置かれている。何となく内装は洋館仕様になってるっぽい。


 促されるままソファーに腰を掛けた。


 このソファーが良いものなのかは全く分からない。


「何か飲む? 紅茶、コーヒー、緑茶もあるかな。」


「え、じゃあ、コーヒーを。」


「ミルクと砂糖は?」


「牛乳入れてもらっていいですか?砂糖はいらないです。」


 少々厚かましかったかなと思ったが、彼は嫌な顔もせずどこかに去って行った。



 こんな広いところで一人暮らしなの?

 掃除は、食事はどうしてるの?

 いやいや、家族と住んでるでしょう。

 などと、どうでも良い疑問が泉のように湧き出した。



 暫くすると、トレーにコーヒーカップが一つ、ミルクピッチャーが一つ、マグカップが一つ、スープ皿を二つのせて戻って来た。


「牛乳は好きな量を自分で入れて。」


 私の前にコーヒーカップとミルクピッチャーを静かに置いた。


 スープ皿には水が入っていて、一つはモモ太、もう一つはギンちゃんの目の前に置いた。

 モモ太は高級そうな絨毯に水を飛ばしながら美味しそうに水を飲んだ。それを見ても特に気にする様子もなかったので、申し訳ないと思いつつもこちらからはその事には触れないことにした。


 そう言えば、ギンちゃん(だよね?)、君はいつからここにいたの?

 銀ちゃんは顔を洗い終えると、差し出された皿から水をほんの一口だけ飲んで、直ぐにソファーに飛び乗った。


「この子、ギンちゃんですよね? ジョシュアさんが飼ってるんですか?」


「飼ってないよ。数日前から勝手に住みついている。」


 勝手に住み着くレベルじゃない、ソファーに乗ることまで許しているなんて。

 うちはモモ太をソファーに上がらないように頑張って躾けた。そこだけは、母が譲らなかった。


「広いおうちですね。ご家族と一緒ですか?」


「一人だよ。」


 マジか?


「一人にしては広すぎませんか?」


「別に。」


 ああ、そうですか。

 と、心の中で返事をして、目の前のミルクピーチャーを手にした。温かい、この牛乳温めてあるんだ。何てマメな男だ。


 この食器、夏子が見たら喜ぶやつだよな?そんなことを思いながらコーヒーにミルクを注いだ。


 正直、食器のことはよくわからないけど、夏子が洋食器が大好きで、高くて買えないからと、デパートの食器売り場で眺めながら一つ一つ説明をしてくれた。

 なので、コーヒーカップがウェッジウッドだってことは何となくわかった。


 ジョシュアの前にはマグカップにミルク入りのコーヒーが入っている。

 コーヒはブラックじゃないんだ、マグカップで飲むんだ。意外に思いながら、彼がコーヒーを飲む姿を眺めた。


 悔しくて認めたくないけど…絵になる。


 手にしているものがマグカップであっても絵になる。コーヒーがブラックじゃなくても絵になる。

 イケメンの友だちはイケメンなのか? 流石は銀ちゃんのお友達と言うことにしておこう。


 気を取り直して本題に入らねば。


「あの……」


「猫じゃない方の銀ちゃんの事だよね。」


「はい。」


 意外と話が分かるやつなのか?こちらの意を介してくれているっぽい。


「もう彼と会うのは止めた方が良いよ。」


 はあ?

 心の声が漏れそうになるのを抑えて、


「そんなこと急に言われても、理由も分からず、はい承知しましたとは言えません。」


「どうしてそんなに彼に会いたいの?好きなの?」


「はあ?」

 今度は心の声が漏れた。異様に大きな声が出てしまった。


「好きか嫌いかって言ったら好きですけど。友達としてです。友達に会いたいのは普通のことでしょう?」


「友達ならば、彼以外にもいるでしょう。こないだ盗撮していた男の子とか友だちでしょう?」


 え?盗撮?大河たいがの事か?


「誰の事か分かりませんが、そう言う問題じゃありません。」


 その時、ふと嫌な考えが頭をよぎった。

 もしかして、この人は銀ちゃんに頼まれて私を説得してるの?

 銀ちゃん、私が会いに行くのが迷惑なの?

 段々、血の気が引くような嫌な感覚になった。


「あの……銀ちゃんが、私に会いたくないって言ってるんですか?」


「……そうだと言ったら?」


 その言葉を聞いた瞬間、全身が凍り付いたような感覚になった。

 そして、訳も分からず涙が溢れ出した。


 突然、膝に温かな何かを感じた。

 猫のギンちゃんだ。右手を私の膝に乗せてこちらを目を細めて見上げている。

 私を慰めてくれているみたいに見える。思わず、ギンちゃんの頭を撫でた。


「そんなだから……」


 ジョシュアの声がした。

 私が泣いたことに腹を立ててるのか?

 だって、仕方ないよ。友達だと思っていた人が、実は会いたくないのに無理に会ってくれていたなんて、泣くよ、普通ショックで泣くよ。


「うそ。」

 ジョシュアの声がした。


 うそ、そう、これは嘘よ。え?


「え?嘘?」

 また心の声が思いっきり漏れた。


「嘘だよ。彼はそんなこと言ってない。」


「嘘って、ひどすぎませんか!」

 今度は腹が立った。人の心をもて遊んでそんなに楽しいか!


「本当のことを言っても、きっと理解出来ない。」

 今度は人を馬鹿にする気か!頭にくる!


「そんなこと有りません。私きっと理解できます。」

 根拠のない自信をもって返事をした。


 でも、銀ちゃんの事ならば、私はきっと理解できると、本気で思っていることは事実だ。






今回の話をいかがでしたか?感想を聞かせてください。


毎週水曜、日曜の14:30更新予定です。

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