第76話 エシャの覚醒③
「ジョシュアさん、来海ちゃん、いたら返事してください。」
何度か大声を張り上げた、でも、誰からも返事はない。
家の中に人の気配を感じない。
いつも過ごすリビングにも、花沢さんや中島さんが料理をするキッチンにも、玄関にも、応接間にも、他の空き部屋にも誰もいない…
いつも通りの家の中の風景なのに、まるで知らない家みたいな気分にさせられる。
もしかして、夢だったの?今までの事が全部現実じゃなかったの?
段々そんな気分になって来た。
だってそうだよね、ガーデンなんて星がある訳ないよね。神様が八人もいて、今はもろもろあって六人になったなんて、そんな話、現実な訳ないよね…
銀ちゃんも私の空想だったの?
そういえば、さっきからギンちゃんが見当たらない。私の目の前を歩いてたのに、今はどこにもいない…
猫のギンちゃんですら、空想だったの?
じゃあ、私はここで一人で何をしているの?
そんなことを考えながら、呆然としていると、スマホが鳴った。
誰?画面を見ると、花沢さん…直ぐに電話に出た。
「明ちゃん!良かった。何度掛けても出ないから、何かあったのかと思っちゃった。ジョシュア君から電話があってね、来海ちゃんが、原因不明の感染症かもしれないからって、明ちゃん、聞こえる?」
花沢さんの声だ、泣きそうになる。これは嬉し涙だと思う。花沢さんは実在するし、その花沢さんがジョシュアさんと来海ちゃんの話をしている。
「はい、聞こえます。私もその話を聞きました。念のため、ギンちゃんをつれて家に帰ることになりました。」
「そうなのね。明ちゃん、具合は大丈夫?来海ちゃんを看病してたから、心配になっちゃって。」
「はい、今の所は大丈夫です。花沢さん、ありがとうございます。」
「それなら良かった…でも、何だか変よ、明ちゃん。ジョシュア君と同じこと言うのね、ありがとうなんて…そんなことないか、普通か。私の考え過ぎね。何かあったら連絡頂戴ね。私も連絡するから。」
「はい、連絡します。」
ジョシュアさん、あの後、花沢さんに電話したのか…私がテンパって電話し忘れること分かってたのかも…ボスはどんな時でも冷静なんだな。そんなボスはこういう時どう行動をするんだろう?
その前に、これはどういう状況なのだろうか?
来海ちゃんに羽が生えてきた…というか現れたと言うのだろうか?まあ表現はさて置き、自分が普通の人間だと思って暮らしていて、記憶が戻らないまま、羽だけ現れたらパニクルのは確実…普通に考えたら、記憶が戻ってから羽が現れるというか、羽を出すことが出来ると考えるのが普通かな。今回は、それが逆になってしまったって事なのかな?
この後に、エシャさんの記憶が戻ってくるのだろうか?
そして、ジョシュアさんは来海ちゃんの状態を見て驚いていた。
と言うことは、やはり、これは彼らの本来の記憶が戻るときの通常の状態ではないということだろう。それに、ある程度の年齢になってから記憶が戻るような話を聞いた記憶があるから、来海ちゃんはまだその年齢に達していないはず。
兎に角、異例の事態であることは間違いがなさそうだ。
この手の異例の事態が起こった場合、ボスはどう対処しようとするのだろうか?地球人の私には想像がつかないなあ…
銀ちゃんならば何か知っているのかな?でも、今から神社に戻っている時間はない気がするし、銀ちゃんは神様の元で平穏に暮らしていたようだから、緊急事態への対応については経験がないかも…
こんな時はどうすればいい?
ジョシュアさんの言葉がふと浮かんできた…『木登りは例えかな。ちょっと目線が変わるだけで、気持ちが楽になることもあるからね。』
木登りかぁ…木登りとまではいかないけど、二階に上がってみよう。それで何が変わる訳じゃないけど。
電気がつかない暗い階段を昇りながら考えた。
ジョシュアさんの言った『ありがとう』、私だけじゃなくて、花沢さんにも言っていた。そして、花沢さんもその言葉に違和感を感じていた。もう二度と会えなくなることを覚悟して言った言葉の様な気がしてしまう。二度と会えなくなるような場所に行くつもりなのだろうか?
ガーデンに戻る?記憶の戻っていない来海ちゃんを連れて?
又は…いや、こっちは考えたくない。
ガーデンに戻れば、何か対処法があるのかもしれない。そして、二人が生きているならば、それはそれで仕方がないと思える。
でもそうじゃない方は嫌だ。せめて、そうじゃない事を確かめたい。
二階の窓にはすべてカーテンが掛っている。
お昼前、二階のカーテンは開いていた、ということは、ギンちゃんと私が出て行ったあと、ジョシュアさんはこのカーテンを全部閉めたのだろうか?そう言えば、一階のカーテンも鍵も全部閉まっていた気がする。そんな時間あったのかな?
カーテンを開けた。外にはどんよりとした濃い灰色の雲がかかっている。
車庫に車が見えた。車を使って外に行ったわけではなさそうだ。タクシーやバスや電車を使ったとも考えにくいから、徒歩で外に行ったか、この家の中にいるかのいずれかだろう。いや、誰か事情を理解してもらえる人に車で迎えに来てもらったのか…でも、近所にそんな人がいるなんて話を聞いたことは無い、だったら、二人ともまだこの家の中にいる可能性がある…でも、一階にも、二階にも居ない…
外の納屋が見える。うーん、あそこは前の住人が残して行った古物が残っていて、宝探しをしようなんて話をしていたなあ…あの状況で物置なんかに行かないよなあ。優先順位は低そうだ、後で覗いてみよう。
そして、他に探す場所は…
そうだ!地下室だ!
一度も行ったことがない地下室。
ジョシュアさんから、地下室へ行くなとは言われたことは無い。
ただ、『使い道もないし、掃除するのも面倒くさいから、鍵を掛けてあるんだ。でも、やっぱり年に1回くらいは掃除しないとダメかな~』なんて言っていた。だから、秘密の場所って感じもせず、使い道がないただの空き部屋くらいにしか思っていなかった。
二階の他の部屋を覗き、二人が居ないことを確かめてから一階に降りた。
一階に降りると、廊下にギンちゃんがいた。
「ギンちゃん、どこに行ってたの?」
そう尋ねると、ギンちゃんはこちらにお尻を向けて、ゆっくりと尻尾を数回揺らし、前に進んで行った。私もギンちゃんの後について進んだ。
ギンちゃんが止まってこちらを振り返った、その横には地下室に続く階段。
ギンちゃんもここだと思ってたんだね。
ギンちゃんについて暗い階段を降りて行く。
昼間でも電気がないと本当に暗い。足元も薄っすらとしか見えない。
地下室の扉の前に立ちドアノブに手を掛けた。鍵が掛っている。
「ジョシュアさん、居たら返事をしてください。水色の石のせいで来海ちゃんの体調が悪くなったんです。石を探して、来海ちゃんから引き離さなくちゃならないんです。だから、お願いです、ここに居るならば出て来て下さい。」
あらん限りの声で叫んだ。
「ジョシュアさん、お願いです。」
力まかせに扉を叩き続けた。
それでも、返事はない。室内に誰かいる様子も感じられない。
ここじゃなかったら、どこなの?
もう、二人ともどこかに行ってしまったの?
もう、二度と会えないの?
その場に崩れ落ちるようにしゃがみ込んだ。胸が苦しくなって、涙が込み上げて来る。ダメだ、泣いても何の解決にもならない、考えなくちゃ。
立って、考えて、動かなくちゃ。でも、どんなに自分を奮い立たせようとしても、気持ちは沈んで行ってしまう。
もう、私には何も出来ないんだ。きっと…そして、二人には二度と会えないんだ。
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