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第75話 エシャの覚醒②

 何故だろう、今、ここを離れたら、二度と二人に会えなくなるかもしれない。そんな不安が頭の中を駆け巡った。


「…嫌です。帰れなんて…」


 その場に立ちすくんでいると、ギンちゃんが窓辺に飛び乗り、私に外に行くように促した。

 ギンちゃん酷いよ、ギンちゃんがそんなに薄情だったなんて…


 そう思いながら、ギンちゃんを見ると、ギンちゃんは一声「にゃ~」と言って、窓から外に飛び降りた。


 もしや、ギンちゃんは私と話をしたいの?

 だったら、神社に行くのが一番手っ取り早い…


「ジョシュアさん、来海ちゃん、私戻ってきます。ギンちゃんと一緒にこの家に戻ってきます。一緒に夕ご飯を食べなくちゃ!だから…」

 そこまで一息に言うと、涙が溢れて来て、言葉に詰まった。


「兎に角、待っててくださいね。どこにも行かないでくださいね。」

 そう言って、二人の元を離れ、ギンちゃんを追って神社に向かった。



 やっぱり、ギンちゃんは神社に向かっている。私もそれを必死に追いかけた。


 こんなに走ったのはどのくらいぶりだろう…高校の部活以来だ…体がなまり切っているし、暑さで汗が体中から噴き出してくる、でも、走らなきゃ。


 ギンちゃんが先の方で立ち止まって、こちらを振り返っている。私が追いかけて来ているのを確かめると、また走り出した。ギンちゃん、重たいのに走るのは速いんだね…今は、そんなことどうでもいいや!


 神社の裏手の大きな木々が見えて来た、足がもつれる、息が苦しい、汗が目に入って前が見えない、でも、でも、走らなくっちゃ。


 ギンちゃんが鳥居をくぐって行くのが見えた。直ぐに、振り返ってこちらに手を振っている。


「明!」


「銀ちゃん!」


 そのまま、銀ちゃんの胸に飛び込んだ、優しく受け止めてくれた。


「薄い青色、水色の石だよ。」

 銀ちゃんが、私の両肩に手を掛けながら、そう言った。


「え?」


「その石が原因かもしれないんだ。」


「どういうこと?」


「詳しい話は後、その石をエシャから出来るだけ遠くに引き離さなくっちゃ。」


 え?水色の石が原因?

 ギンちゃんはその石を探してたの?来海ちゃんを攻撃してたわけじゃないのか…まあ、そうだよね。


「体中を探したけど、見当たらなかった…、でも、どこか近くにあるはずなんだ。急いで戻ろう!明も探すのを手伝って。」

 そう言うと、再び鳥居をくぐって走り出した。


 ああ、また走るのか…でも、仕方がない。

 ギンちゃんを追って駆けだした時に、横目に自転車が見えた…勝手に乗っちゃ駄目だよね?鍵かかってるよね?と思いながらも、ハンドルを握って押してみた、動く…


「ギンちゃん、かごに乗って!こっちの方が早いよ。」

 ギンちゃんは直ぐに自転車の前かごに飛び乗った。重たいのに身軽だね。


「どなたか知りませんが、自転車お借りします。緊急事態なんです。後で、必ず返しにきます!!」

 大声で叫んで、自転車のペダルを全力で漕ぎ始めた。

 誰からも返事は無かった。



 全力でペダルを漕いだ、信号はギンちゃんの念力のお陰か、緑点滅でぎりぎりセーフ!ノンストップでかっ飛ばし続けた。

 ジョシュアさんの家に戻った時、二人がいなくなっていたらどうしよう…そう思うと、不安に押しつぶされそうになった。でも、今は漕がなくちゃ。そして、銀ちゃんが言っていた水色の石を探さなくちゃ、それを持って遠くに行かなくちゃ。


 こんな不安な気分で自転車を漕いでいるのに、なぜか、昔、フライデーロードショーで見た映画を思い出した。宇宙人を自転車の前かごに乗せて、追手から逃げる途中で、自転車が宙に浮かび上がって、大きなお月様をバックに空を飛ぶやつ。あんな風に飛んでいけたらいいのに。


 そう思った瞬間、自転車の前輪が何かにぶつかるのを感じた、何か石の様なものに乗り上げたのかも、でも止まれない!自転車が派手に横転した、右腕を大きく擦りむいた。痛い…ヒリヒリする。

 …ギンちゃんは?ギンちゃんは大丈夫?

 私の横で何食わぬ顔をして、私の顔を覗き込んでいる。

「…良かった。ギンちゃんは大丈夫だったんだね。」

 そう言いながら自転車を起こした。自転車は一先ず大丈夫そう、借りものだから壊したら大変。


 再び自転車に跨り、ギンちゃんを前かごに乗せて全力でペダルをこぎ出した。右足首が痛い、さっき捻ったんだ。右腕もヒリヒリする。でも、でも、今は、兎に角、進まなくっちゃ。


 良く見慣れた和風のベージュ色の壁が見えて来た。来海ちゃんと一緒に登った大きな木も見える。二階の窓は全部カーテンが掛っている。見慣れた風景だけど、何だかいつもと違うように見える。何でだろう。手が震える。

 お願いだから、まだ、そこに居て。

 そう思いながら、自転車を全力で漕いだ。


 門の前に自転車を止めて、門を開けようとしたけど鍵が掛っていて開かない。

 横の通用門もだめだ。

「どうしよう…」


 ドアホンを押した。

「ジョシュアさん!いますか!いたら出て来てください。」

 返事はない。ドアホンを立て続けに押した。

 でも、返事はない。


「ジョシュアさん、水色の石を探してください。その石のせいで来海ちゃんの体調が悪くなってるんです。聞こえてたら、お願いします。」

 大声で叫ぶように言った。でも、返事はない。


「電話…」

 スマホで電話を掛けた、数回コールして留守電になった。留守電にも水色の石の事を伝言として残した。テキストも送っておこう、もしかしたらそっちならば見てくれるかもしれない。


 裏手から入れたっけかな?…そんなことを考えながら塀に目をやった、

 ギンちゃんは塀の上からこちらを見降ろしている。

「…塀を登れってこと?」

 辺りを見回して、足場になりそうなものを探した。


 自転車だ!


 自転車を壁に寄せて、その上にふらつきながら立ち上がり、塀によじ登った。どうにか登れた…この高さ、飛び降りるのは問題ない。

 着地と同時に右足に激痛が走った。

 ああ…右足首捻ったんだった…忘れてたよ。涙目でうずくまっていると、ギンちゃんが私の顔を一舐めして、目を細めてこちらを見ている。心配してくれてるんだ。

「大丈夫、立てるよ。」

 そう言って、痛みを堪えながら立ち上がった。


 ギンちゃんは心配そうにこちらを振り向きながら、前に進んでいく、私は右足を引きずりながらギンちゃんの後を追った。


「ダメだ、玄関にも鍵が掛ってる。」


 この家には頻繁に来てたけど、合鍵を持っていない。いつもジョシュアさんがいて鍵は開いてた。そして、いつでも、『明、いらっしゃい』って笑顔で迎えてくれた。足元にはギンちゃんがいて、来海ちゃんがいて、それが当たり前だと思っていた。目に涙が溢れて来た。右足が痛いからじゃない…いや、それもあるけど…そんな姿がもう二度と見れないかもしれないなんて不安が頭を過る。そんなことある訳ないと否定しようとしても、やっぱり、涙が止まらない。


 足元にいた、ギンちゃんがどこかに走って行く。私もその後に付いて行く。どこか抜け道を知ってるのか?…と思ったら、来海ちゃんが寝ていた部屋の窓の下で銀ちゃんが立ち止まった。そうだ、この窓、あの時、開いていた。

 今はカーテンが閉まっていて中が見えない。窓を開こうとスライドさせてみたが動かない。

「ここもダメだ…」

 どうしようギンちゃん、気持ちだけ焦る。


「にゃ~」

 ギンちゃんが庭石の上に飛び乗って、一鳴き、


 え?この石で窓を割れとなもし?こんな大きな石持ち上がらないよ。そう思ったけど、大きな石の周りに中くらいの石が何個か配置されていて、その脇にはもっと小さめの石が…何のオブジェだってずっと不思議に思っていたけど、そうか、こういう時に使うための石だったのか!!


 持ち上げられそうな石を両手で持ち上げて、自分の顔の位置くらいまで持ち上げた。そのまま、その石を窓ガラス目掛けて叩きつけた。


 ガッシャン!

 大きな音と共に窓ガラスが割れた。


 割れた所から手を入れて、鍵を開けた。

 泥棒ってこうやって侵入するのか?いや、こんなに大きな音立てたりしないか。こんなことしてたらセ〇ムが来てしまうかもしれない…その時はその時だ!


 窓を開け、さっき窓を叩き割るのに使った石の上に乗っかって、と言ってもほんの二十センチくらいの高さの足場にしかならないけど、無いよりまし。飛び散っているガラスを軽く手で払い、窓辺に足を掛けてよじ登り、カーテンを開いた。

 薄暗い部屋には誰もいない…


 二人ともどこに行ってしまったんだろう?もう、この家にはいないのかなあ…


 さっきまでは薄日が差していた空には、どんよりした濃い灰色の雲が広がり、薄暗い部屋をより一層暗くしている。


 間に合わなかったの?


 そんな不安を過らせていると、ギンちゃんはガラスの破片が飛び散った部屋に飛び降り、ドアをガリガリとし始めた。


 そうだよ、この部屋にいないだけだよ、他の部屋を探そう。

 そう思い直して、靴のまま、ガラスの破片の上に飛び降りた。



今回のお話はいかがでしたでしょうか?

感想などいただけると励みになります。

毎週水曜、日曜の14時30分更新予定です。

宜しくお願いします。

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