第7話 銀ちゃん君は何者ぞ
お立ち寄りいただきありがとうございます。
銀ちゃんが何者かよりも、これからも毎日会って話が出来るかどうかが、自分には重要だ。
だが、銀ちゃんは大河が撮った写真に写ってなかった。普通の人からは見えないって、いったいどういう事だろうか?
可能性としては幾つか考えられる。
先ず、皆で私を騙している。
大河も銀ちゃんと知り合いで、三人で私にドッキリを仕掛けてきた。だけど、あの三人が知り合い何てことはないだろうから、一番可能性が低いと思う。
次は、銀ちゃんが幽霊である。
と言うことは、銀ちゃんはすでにこの世の人じゃないということになる……そんなの嫌だ。それに、ジョシュアって人は霊能者ってことになる。私もそうなるか?でも、私は今まで幽霊とか見たことも感じたこともない。だから、きっと違う。
そして、銀ちゃんが特殊な生命体である。
具体的に何かは分からないけど、写真に写らない、普通の人からは見えない生命体だってこと。生命体って言うのが正しいのかは分からないけど。ただ、自分のことは今は話せないと言っていたので、無理に聞くことは出来ない……あのジョシュアって人なら何か知っているはず。
そう思い、スマホでジョシュア・エバンズのことを調べた。
本当に有名なバイオリニストならばネットに情報があるはず。
検索すると、あの男の写真が何枚も出てきた。
大河の言った通り、有名なバイオリニストだ。しかもここ数年は全く活動をしておらず、その理由もわからないと書かれていた。
そんな人がなぜこんな中途半端な田舎にいるんだ?
ド田舎ならば、インスピレーションと大自然を求めて、芸術家が移住するとかありそうだが、そんな大自然なんてない。一応、高い建物だって多少はある。
一番高い建物(カントリーエレベータは抜きにして)は、駅前の七階建てのマンションと、市内唯一の総合病院である柏木病院くらいである、それも確か六、七階建てくらいだったかな、隣には大きな特別養護老人ホーム夢うつつホームが併設されている。
そんなに有名なバイオリニストならば金持ちだろう。金持ちが住みそうな所ってどこだ?
そう言えば、梅枝小学校の近くに、大きな和風の空き家があった。
自分が小学校に通っていた頃、そこには品の良い老夫婦が住んでいた。子どもたちからは「大富豪の家」と呼ばれていた。
ここ数年は空き家になっていて、母とその近くを車で通りかかった時に、こんな立派な家、誰が買うのかねえ? 固定資産税だって馬鹿にならないだろうに。何て話をしたことを思い出した。
あの顔で和風の家を選ぶかな?
逆にそれもありか?
横を見ると、モモ太がつまらなそうにしている。一緒に大富豪の家を覗きに行くことにした。
梅枝小学校の正門から親に手を引かれた子どもの集団が出てきた。まだ、下校時間には早いけど何だろう?ランドセルも背負っていない。
なんてことを考えながら歩いていたら、その列から見覚えのある女の子が、父親の手を強引に引っ張りながら、こちらに向かってくる。
「モモ太~~~」
女の子がそう言いながら、こちらに近づいて来た。
あれは、モモ太を見ると近づいて来る女の子、確かクルミちゃんとかいう名前だったかな。来海とかいてクルミとか言っていたな。
「来海ちゃん、こんにちは。」
声を掛けると、モモ太の前で立ち止まり。
「モモ太のお姉さん、こんにちは。モモ太に触ってもいい?」
と尋ねてきた。うん、躾がされている。犬に触る前にちゃんと確認して来てくれる。
「うん、良いよ。」
そう言うと、来海ちゃんは嬉しそうにモモ太の首元を撫でた。
「犬はここを撫でると喜ぶって、パパが言ってた。ね、パパ。」
横で嬉しそうに微笑む父親も挨拶をしてきた。
「こんにちは、モモ太のお姉さん。いつも来海がお世話になってます。」
そんな挨拶がてらの世間話をしていると、あの男が二人の背後からこちらに近づいて来た。
「こんにちは、本間さん。」
あの男が、父親に向かって満面の笑みで声を掛けた。
こんな表情出来るんだと思った矢先、こちらを見て、一瞬だけ冷たい表情に戻った。ああ、やっぱりヤな感じだ。
「ああ、エバンズさん。こんにちは。」
父親は振り返り満面の笑みで挨拶をした。
その後、あの男は、しゃがんで来海ちゃんと同じ高さに視線を合わせた。
「こんにちは、来海。来海はワンちゃんが好きなんだね。」
「うん、来海、ワンちゃん大好き。」
そう言いながら、来海ちゃんはモモ太に抱きついた。
それを、愛おしい人に見とれるような表情で見つめているこの男に違和感を感じた。
その後、男は、来海ちゃんと少し言葉を交わすと立ち上がり、丁寧に父親に挨拶をして去って行った。
ジョシュア・エバンズ、やっぱり感じが悪い。それに、来海ちゃんへの対応は気味が悪い。
あんな表情でただの知人のお嬢さんを見るつめるなんて、、、なんだか違和感。
そんなことを考えながら、ジメっとした視線をジョシュアの背中に送っていると、
父親が心底そう思っていると言わんばかりの口調で、
「エバンズさん、良い人なんですよ。来海にも良くしてくれるし。」
「え!」
思わず心の声が漏れてしまった。
「彼、私のお客様で、この先の家を購入いただいて…あ、顧客情報なので詳しいことは言っちゃダメなんだけど、本当に素敵な人なんですよ。英国紳士っていうんですかね、男から見ても惚れ惚れしてしまうよ。」
そう言って、エバンズの背中を見つめていた。
英国紳士……
イギリス人か……
そう言えば、銀ちゃんもイギリスの出身だって言っていたなあ。
そして、この先の家とは、あの「大富豪の家」の事だろか?
来海ちゃんの父親は不動産屋さんなのかあ。
「この先の家って、大富豪の家のことですか?」
そう尋ねると、父親は少し困った顔をしてから答えた。
「そう、あの家だよ。でも、僕が言ったって事は内緒にいしおいてね。つい口が滑っちゃって。」
「はい、勿論です。」
自分も満面の笑みで答えた。
「やっぱり大きいな、っていうか広いなあ。」
大富豪の家の前に立ち止まり、ザ・和風の門と、家屋を取り囲む土塀のような趣深い塀を眺めた。
「数寄屋門って言うんだっけ?」
通用口が開いている。
そこから中を覗き込んでいると、あの男が出てきた。
「何か用?」
先ほどの笑みが嘘のような怪訝に満ちた表情だ。
「あ、ず、ずっと空き家だったから、この豪邸に誰が住み始めたのかなって、興味があって…まさか、ジョシュアさんだったとは…ハハ、驚き。」
どんなに笑おうとしても、表情筋が凍り付いたかのように動かない。
ふと、足元にサワサワした感触を感じて、視線を下げると白い猫が自分の足元にスリスリしている。
「あれ…ギンちゃん?」
あの塀の上で見た白猫に似ている。こんなに近くにモモ太がいるのに、全く怖がる様子もないし、モモ太も気にする様子もない。猫にこんな風にされると嬉しいなんて思いながら、再び視線を上げると、あの怖い顔が……
それでも、勇気を振り絞って尋ねた。でも目はつぶってしまった。
「あの、銀ちゃん、あ、猫じゃなくて、神社にいる方のですけど。お二人はどういう知り合いなんですか?」
目を開けると、まだ怖い顔だ…
「とりあえず、中に入って。」
そう言われて、銀ちゃんに関する情報がつかめるかもと、嬉しくなった反面、
え、この人の家に上がる?...
と思うと、敵地に乗り込む兵士のような気分になった。それがどんなものかはわからんが、、、
今回のお話はいかがでしたか?感想を聞かせてください。
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