第67話 ミステリーサークル⑤
「丸茂先輩って、家がお金持ちでね、映画もご飯もご馳走してくれたんだよ。あ、明日のお昼OKだって!これで、博則先輩の話が聞けるね。」
「夏子、凄いね。」
夏子も大学でどんどん新しい友達を作っていく、いや、私は銀ちゃんの事で精一杯で、交友関係をどんどん広げるなんて、身が持たない。
「趣味が合う人とは自然と仲良くなるよね。」
ああ、確かにそう言うものか。趣味か…私は、夏子の様な特出した趣味なんてないしなあ…ミステリー小説読んだり、お笑い観たり、高校ではバドミントンやってたけど、そんなにのめり込んでもいなかったし…趣味ねぇ…そう言えば、銀ちゃんの趣味って何だろう?
「博則も誘ったんだけど、今日は無理って言われて。」
学食で、丸茂先輩がカレーとラーメンをトレーに乗せて席に戻って来るや否やそう言った。
「あ、その方が都合がいいです。」
夏子が答えた。
「じゃあ、やっぱり博則の事?」
丸茂先輩がちょっと寂しそうに笑いながら尋ねて来た。
「何で分かったんですか?」
夏子が尋ね返すと、丸茂先輩がため息交じりに答えた。
「大体、後輩女子からお昼を誘われる時は、博則の相談だからね。星も博則が気になるの?」
「はい、とても気になります。ね、明?」
おい、その答え方は誤解を招くだろう。
「気になると言っても、私たち二人は当事者ではなく、その、ことの成り行きを見届けたいという位置づけでして…野次馬根性と言いますか…」
そう切り出して、先輩のチャーム探しから垣間見えた、秋の先輩の留学に向けた、博則先輩を巡り女子たちの熾烈な戦いが気になってしょうがないこと、その成り行きを見届けたいことを正直に話した。
「ここまで、博則先輩がモテて、周りの女性たちが翻弄されるのも、失礼ながら、一種のミステリーではないかと…」
「馬場、その発想面白いね。」
「ありがとうございます。」
「博則の留学が決まった途端に、皆が焦り出したのは僕でもわかるよ。博則がモテるのは男の僕からでもわかる気がするんだよね。優しいし、頭いいし、背が高くて、カッコ良くって、英語とスペイン語が話せて、どこを探しても欠点がないもんなぁ。」
スペイン語まで…どんどん出て来る、丁度良いでは済まされないハイスペック。
「それで、先輩を狙ってるのは誰で、その中でも有力候補だと思うのは誰なんですか?」
夏子が身を乗り出した。
「正直、僕もその辺り興味あるんだけど、一人でそんな相関図みたいなものを作ってたら、ゲスすぎるかなと思って、控えてたんだけど…三人でってことならば…」
そう言うと、バッグからノートを出して広げた。
「あ、その前に、お昼食べちゃおう。二人は三限目は?」
「私はないです。」
「私もないです。」
「僕もない。じゃあ、大丈夫だね。」
そう言うと、丸茂先輩はカレーとラーメンを飲み物のごとく食べつくし、それでも足りないからとパンを買いに行った。
「これが今、僕が考えている博則に多少なりとも恋心を抱いているであろう人物だよ。妹の有希ちゃんは抜いてある。」
そう言って丸茂先輩が書きあげた相関図には、博則先輩を中心に23人の女性の名前が書かれていた。矢印は女性から博則先輩に向けてだけ書かれている。
23人とは…その数の多さ、もはやミステリー…妹の有希ちゃんを加えたら24人
同じサークルから5人
サークルが異なる後輩から3人
留学生から1人
大学事務職員から1人
高校の同級生から2人
妹の友人から2人
バイト先のお客さんから5人
カフェの店員から1人
時々行く定食屋の娘さんから1人
逆ナンされて知り合いになった女性2人
「大学内にいる10人からは、僕は直接相談を受けているから、彼女たちが博則を狙っているのは確実だ。そして、高校の同級生と定食屋の千鶴子ちゃんからもそれとなく相談されていて、まあ、この3人も博則の事が確実に好きだ。それに、妹の友人2人は、博則の事が好きってことで、有希ちゃんに絶縁されたけど、駅で博則に会うと声を掛けてきて、遊びに行こうとしつこく誘ってるからまだ狙ってるはず。バイト先のお客さんはかなり凄いプレゼントをくれるみたいで、博則も困っていたし、食事にも良く誘われるみたいだから、この5人も博則を狙っているはず。逆ナンパしてきた2人からは頻繁に連絡があるみたいだし、バイト先にも良く来るようになったと言っていたから、この2人も狙っているはずだ。そして、カフェ店員のミキちゃんは、博則を見る目が違う、あれは確実に好きな相手に向けるまなざしだ。間違いない。」
丸茂先輩は一気にそう言い終わると、ドクターペッパーを飲んだ。これ、変な味がするコーラだよなと思いながら、その姿を眺めた。
「それで、その中に、博則先輩が好きな女性はいるんですか?」
「この中にはいないんだよ。」
「この中にいはいないと言うことは、博則先輩には、別に好きな女性がいるってことですか?」
「そうなんだよ。博則はその子のことがずっと好きなんだ。」
夏子と二人で顔を見合わせた。
「誰なんですか?」
「博則が小学生の時に、シアトルにいたことは知ってる?」
博則先輩は子どもの頃、母親の仕事の都合でアメリカに住んでいたと言うことは知っている。
「それでね、その時に同級生だった沙羅ちゃんって子に数年前に再会して、それからずっと沙羅ちゃんのことが好きなんだよね。」
「…ってことは、23人のうちの誰かと付き合う気はないってことですか?」
夏子がちょっと気落ち気味に尋ねる。
「まあ、相当な大どんでん返しがない限りは、そうなるね…」
大どんでん返し?大きな番狂わせってことか。
「じゃあ、事情も分からずに博則先輩を狙ってる二十三人には、殆ど可能性がないってことですか?!」
夏子、何を熱くなってるんだ?そんなに応援したい人がいるのか?この23人の中に?
「出来レースの中で翻弄され、最後は突然現れた沙羅ちゃんとやらにかっさらわれる!良く聞く体のあれな感じのストーリーじゃないですか!」
「まあ、沙羅ちゃんも、博則のことを好きみたいだし、留学すれば頻繁に会えるようになるからね…でも、何で星はそんなに熱くなってるの?」
「いや、何だか面白くなりそうだなって…」
「星はこういうの好きなんだね?恋愛リアリティ番組とか好き?」
「いいえ、あれはリアリティであってリアルではないからそこまで熱くはならないですね。でも、観ますけど。」
「その気持ちわかる~」
「わかってくれます?」
「わかる~」
何だかほっこりしてるな、この二人。以外とお似合いなのか?
ああ、もうそう言う目でしか見られない。この中にいる五人は博則先輩を狙っている。そう思うと、彼女たちの目がどことなくギラギラしている様に見えてしまう。
博則先輩も入れた十二名ほどのメンバーが椅子に座って円形に座っている。博則先輩は自分パソコンの画面を背後のスクリーンでシェアしている。そこに皆が発表した考察の要点を書きこんでいく。
博則先輩の正面側に2人、両脇に2人、遅れて来た1人は空いていた所に座った。今いる女性のうち夏子と私を除いた5人は博則先輩狙になる。服装も心なしか、気合が入っている様に見えてしまう。日頃からお洒落なだけかもしれないけど。
左脇に座る三輪さんは眼鏡をコンタクトにしたらしい。
右脇の門脇先輩は幽霊部員だけど、博則先輩の考察会には必ず参加するらしい。
正面に座るうちの一人、渡部先輩は美人で、他の男子メンバーから人気があるらしい。
もう一人の山崎先輩は…そう言えばよく知らない。
そして遅れてやってきたのは木村 奏である。デニムのショートパンツにヌーディーなカラーのサンダルで、自慢の長いおみ足を組んでいる。若干オタク気味のうちのサークルメンバーでは、木村先輩以外には見かけない服装である。おばあちゃんがボロ布って呼ぶ系のショートパンツだ、糸が沢山ほつれている…でも、お洒落に見える。そして木村先輩はこう見えて成績が良いし、英語もペラペラ。この考察会でもホホーっとなるような考察を述べることが多い。天は二物を与えるのである。いや、三物でも四物でも与えるところには惜しみなく与えるのである…羨ましい限りである。
私も、予め準備して置いた考察を二つほど述べた。博則先輩が、『馬場の視点はいつも面白いね、そう言うの好きだよ。』と言ってくれた。嬉しくなったけど、女子たちの視線が確実に痛かった。
「こうやって改めて観察すると、あの5人確実に博則先輩狙いだったね。」
帰り道で夏子が嬉しそうに言った。
「いや~、本当にそうだね。みんなお洒落してたもんね。」
そう答えながらバスの窓から駅の方を眺めた。
今日は遅くなったので大学から駅までバスに乗った。
駅の手前に十三階建てのビルが建っている。あの嫌な出来事を思い出してしまった…そうです、私はあのビルの屋上から落ちたのです。でも、何故か無傷でこうやってピンピンしています。それは、誰かさんが白い羽でパタパタ~っと空を飛んで助けてくれたからです。
「ねえ、あのビルの屋上って行った事ある?」
夏子が私の視線の先にあるビルを指さしながら、そう尋ねた。
「ああ、冬に一回登ったけど、夜景がきれいだったね。」
「一人で行ったの?」
「うん」
「へー」
「小学生が落とした定期券を拾って、その小学生を追いかけて行ったの」
「ああ、そう言う事かぁ。それで、定期券の持ち主には返せたの」
「うん、返せたよ。」
「ねえ、行ってみない?」
「今から?」
「うん、今日、バイトないから時間あるんだ。その後、しゃぶしゃぶ食べ放題に行かない?丸茂先輩から二千円引きの優待券もらったんだよ」
「そうだね…行ってみようか」
絶対に行きたくない場所なのに、何故かそこに行った方が良いような気がして、そう答えた。もちろん、お得にしゃぶしゃぶ食べ放題には行きたい。
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