第66話 ミステリーサークル④
学校帰りに、夏子と二人で大町駅のコンコース周辺に、万が一にも、あのチャームが落ちていないかと探してみたが見つけることは出来なかった。
「博則先輩の妹ってどんな人なんだろう?」
ブラコンで嫉妬深くて、そんでもって手先が器用な女性なんだろうなと思いながらも、全くイメージがつかめない。
「確か、年齢は先輩一つ下で、県南の大学で法学部に通ってるらしいよ。見たことある人は美人だって言うね。そう言えばさあ、全然関係ない話だけど、博則先輩って、確定留学が決まって今年の秋からヨーロッパの大学に一年間留学するらしいよ。まだ、公にはしてないみたいだけど。」
…流石は情報通の夏子だな…って言うか、関係なくない気がするその話。
「それじゃあ、博則先輩を狙っている女性たちが焦り出すってことだよね。」
「まあ、秋までに彼女になっておけば、留学先に遊びに行けるもんね。ヨーロッパのどこだろう?」
「まあ、それもあるだろうけど、一年間会えなくなる前に彼女になっておきたいとか、海外で彼女を作られたらどうしようとか、そう考えたら焦るよね。」
「ああ、そう言う考えもあるね。でも、一年でしょう?あっという間じゃない?でも、その後、就職とか大学院が海外ってこともあるかもね。」
うーん、あると思います。そんなこと考えだしたら、益々、焦るだろうな…
「博則先輩の留学先がロンドンかパリだったら、私は今年の夏休みはニューヨークに行くことにするよ。そんで、来年、大英博物館とルーブルに行くことにしようっと。ねえ、明も来年だったら一緒に行けるんじゃない?今からバイト始めれば資金貯められるでしょう?」
「え、それいくらかかるの?」
「うーん、先輩の所に泊めてもらったり、エアビーみたいに民泊とかで安い所探してとかならば五十万あれば行けるんじゃない?」
「え、五十万円…¥だよね?」
「¥だよ。今、海外の物価って馬鹿みたいに高いからね~ちょっと余裕見ておかないと、でもまだ一年以上あるし、どうよ?無理にとは言わないけど、興味あったら考えておいてよ~」
大英博物館、ルーブル美術館…それは、史学女子の私からしても興味ありだよ…しかも夏子と一緒ならば、なおさらだし。でも、バイトしてる余裕なんてないよなあ…なんか割のいいバイトないかな?
そんなことを考えながら駅のコンコースを改札方面に向かっていると、木村先輩が改札側からこちらに向かってくるのが見えた。
カジュアルだけどちょっとフェミニンでこなれた感じのファッションに、サラサラのセミロングをなびかせ、すれ違う数名の男性が彼女に視線を向けているのが分かる。木村先輩とは特に仲が良いわけでもないから挨拶だけして過ぎ去ろうとしたが、木村先輩の方から声を掛けて来た。
「あれ~、星と馬場じゃない。こんな所で会うなんて奇遇だね。」
いや、ここは大学の最寄り駅だから、会っても普通でしょう。そう思いながらも、
「そうですね、奇遇ですね。先輩はこれから大学に向かうんですか?」
もう五限目だって間に合わない時間だ、授業に出る訳ではなさそうだし、サークルもないしなどと思って聞いてみた。
「今から行く訳ないでしょう。博則のバイト先に行こうと思って。」
木村先輩は、博則先輩を博則と呼ぶ、最初はびっくりしたけど、今ではもう慣れてしまった。
「博則先輩ってどんなバイトしてるんですか?」
「知らないの?じゃあ、教えても良いのかな?まあ、悪いことじゃないし良いよね。バーテンダーだよ。時給はそこそこだけど、チップもらえるんだって。」
「へーそうなんですか。」
他に答える言葉が見つからない…バーテンダーなんて、Theモテますバイトの代表って感じがする。
「まさかとは思うけど、二人は博則のこと狙ってないよね?」
サラサラの髪をかき上げながら、マウントを取るような感じに見下しながら、圧倒して来る。
この人は、どういう心境で夏子と私にこの質問をしてるんだろう?
「先輩人気ありますもんね、狙うなんて滅相もないですよ。ねえ、夏子。」
「そうだね、でも、博則先輩が誰を選ぶかなんて分からないですよね。」
後半の語気がちょっと強めじゃない?どうした夏子?そう思い、夏子の顔を見上げると、喧嘩を売られて、買った時の顔をしている。いや、木村先輩は喧嘩売ってないし、あの人は通常運転があれなんだし…まあ、いいや、好きにやってくれ。
「星は博則みたいなのタイプなの?」
「違いますけど。」
「ふーん、まあいいや…知ってると思うけど、博則モテるよ。」
「知ってます。」
「ミステリーサークルも女子の三分の一は博則狙いだし、留学生のティナだっけ?あれも確実に博則狙いだし。バイト先に来る客でも狙ってるおばさんとか沢山いるよ。でも、皆、勘違いしてるんだよね、博則は可愛い素直な女じゃなくて、気が強くて押しが強い私みたいな女に弱いの!」
「でも、博則先輩、迷惑そうでしたよ。木村先輩が帰らないって駄々こねだして困ったって言ってましたよ。」
…ああ、夏子、それダイレクトに言っちゃうんだ…もしかして、ここで取っ組み合いしようとしてる?それ、誰得なの?夏子、そこまで博則先輩のこと好きだったっけ?さっき、どちらかと言うと好き寄り程度のこと言ってたよね?
本命は大河で、高校入学からずっと狙い続けてるって言ってたよね!頭おかしくなった?
「はあ?そんなの外向きはそう言ってるだけに決まってるでしょう。馬鹿じゃないの!」
「…そうかもしれませんね。明、行こうか。私、バイトあるし。」
「はあ?」
「じゃあ、木村先輩、私たちはここで、失礼します。」
夏子はそう言うと、何事も無かったように木村先輩の横を通り過ぎて行った。私も、急いでその後を追った。
「じゃあ、先輩、失礼します。」
「…え? ちょっと、星、あんた頭おかしいの?ふざけてんの?」
背後から木村先輩の声が聞こえて来るけど、もう振り向けない。夏子はすたすたと先に歩いていく、その背中を必死に追いかけた。
「夏子、どうしちゃったの?」
木村先輩の姿が見えなくなったので、夏子の手を掴んだ。
「だって、頭来るじゃない、なんなのあの態度。一つ学年が上ってだけなのにあんなに偉そうにしてさあ、ずっと思ってたけどやっぱりいけ好かないよ。」
私も木村先輩のことは苦手だなって思ってたから、気持ちはわかるけど。
「確かに、私も木村先輩は苦手だな。でも、先輩もかなり焦ってるっぽいね。それにしても、博則先輩ってどれだけモテてるの?」
「それは思った。木村が言う事が本当ならば、博則先輩のモテ具合、異世界に転生もしてないのに無双してるよね。」
木村と呼び捨てとは…相当に木村がいけ好かないんだね。
異世界に転生してなくても無双って…丁度いいというチートスキルを使って無双…いや、フェンシングとか英語ペラペラの時点でただのハイスペック男子だけど…
…まあ、そこはさて置き。
木村先輩の話が本当ならば、この夏は博則先輩を巡る博則ラブな女子たちによる(もしかすると女子以外の参戦もあり?)熱い戦いが始まってしまう…と言うか、既に水面下では戦いは始まっているのかもしれない。
「明日は、丁度、博則先輩の考察会だよ、そこで、誰が博則先輩を狙ってるのか探ってみようよ。」
「そうだね。その中にチャームを取った人がいるかもしれないし。」
「モテすぎた男の代償としては安いもんでしょう、チャームの一つや二つ、そんなことより、この事態の成り行きを最後まで見届けなくっちゃ!誰が博則の彼女の座に君臨するのか!」
博則先輩のことまで、博則呼ばわりかい…まあ、ここまでモテると、もうべつ世界の人って感じで、芸能人を呼び捨てにする感覚にも近いかもしれない。
「博則の行動範囲が広すぎて、学校内の人と付き合うとは限らないよね。バイト先の仲間とかお客さんとか、飲み屋で知り合った女性とか、何ならダークホース的に、うちらの知らない幼馴染の登場とかもあるかもしれなよ。」
もう、夏子のみならず、私も博則呼ばわりしている。
彼は大学の先輩を通り越して、私たちの最も話題に上がるアイドル的存在の域に達してしまった。少し前に、沼ってしまった韓国ドラマのトッ〇ビに出演していたコ〇・ユに並んだと言っても過言ではない気がする。
「うーわー、その辺の情報は誰から収集すればいいんだろう?博則って誰と仲いいんだっけ?」
「丸茂先輩と仲が良いよね…」
「あーあ、丸茂先輩かぁ。学食でも良く一緒にいるし、楽しそうに話してるもんねえ。」
丸茂 健一先輩もミステリーサークルの先輩で、主に超自然現象の幽霊や超能力について研究している先輩である。学部は博則先輩と同じ文学部の心理学専攻。どちらかと言うと、ぽっちゃりさんで一部のサークルメンバーからは熊さんみたいと言われている。ただ、こちらも博識で、話が面白いため、夏子も私も好きな先輩の一人である。
「明日のお昼一緒に食べようって、誘ってみるね。」
そう言って、夏子はスマホで丸茂先輩にメッセージを送った。
「え、夏子、丸茂先輩とそんなに仲いいんだ?」
「うん、一度一緒にホラー映画を観に行ったんだよ。明を誘った時に、ああ言うの怖くて映画館で観たくないって言うからさあ、丁度その時、丸茂先輩も一緒に行ってくれる人がいないって言うから、一緒に行ったんだよ。それから、時々連絡とるよ。いや~人脈は作っておくもんだね。」
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