第64話 ミステリーサークル②
「今度は、バッグチャームだって。これで4度目?」
二限目の英語の授業で隣の席に座った夏子がそんなことを言い出した。
「博則先輩のこと?」
そう言えば、最近、博則先輩の栞や傘がなくなったと言う話を聞いた事を思い出した。
「そうそう、ここまで来ると絶対に盗難だと思うんだよね。」
「うーん、確かにね。ファンの仕業かな?」
博則先輩は、こんなもの盗む人いないから、きっと自分がどこかに置き忘れたんじゃないかって言ってたけど、流石に4個目ともなれば誰かに盗まれたと考える方が自然かもしれない。
そして、金目の物ではなく、本人が愛用している日用品を盗むとなると、同一人物による可能性が高い気がする。
「先輩、イケメンとまでは言わないけど、落ち着いていて大人の雰囲気あるし、博識だしね~、確実にモテるわなあ、あれは。」
「ファンの仕業だったら、そのうち尻尾を出すよ。だって、自分に気づいて欲しいって思ってると思うから。」
「流石は名探偵!ねえ、うちらも犯人捜ししようよ」
「え?何で?」
博則先輩も困っているだろうから、出来ることがあればお手伝いはしたいけど、私にはそんなことをしている時間の余裕なんてないんだけどな…そんな暇があれば、ギンちゃんに、銀ちゃんに会いに行きたい。
「お昼にサークルの有志で集まって、犯人捜しするんだって。参加しようよ!」
「うん…まあ、良いけど。」
お昼ならば良いか、興味もあるし。
「へえ~、栞、傘、ハンカチ、そしてバッグチャームねえ。確かに、ファンの仕業って感じがするね。」
お昼の続きを話そうと言う事で、夏子が家に来ることになり、そして今は、ジョシュアさん、花沢さん、夏子、ギンちゃん、私で茶を飲みながらこの話をしている。
「どれも博則先輩の思い入れがあるものらしくて、栞は誕生日プレゼントに中学の同級生の女の子からもらったもので、傘も誕生日プレゼントに高校の同級生の女の子からもらったものらしいです…ハンカチは高校の卒業式に後輩の女の子からもらったものだそうで…そして、バッグチャームは妹さんの手作りだそうです。」
「モテるのね、その先輩。かっこいいの?」
「うーん、まあ、かっこいい部類だとは思いますけど、どちらかと言うと落ち着いた雰囲気と物腰、そして博識で、優しい所がモテる要素じゃないですかね。頼れる先輩って感じがするから、特に年下からモテてると思いますよ。」
私は、単にかっこいいと言っても良いんじゃないかと思うが、夏子的には先輩は『かっこいい』ではないと言う事らしい。
「今日のお昼にサークルの有志で集まって、犯人捜しをしようとしたんですけど、途中でその話を聞きつけた博則先輩に諭されまして、まだ、盗難と決まった訳じゃないんだから、犯人捜しは辞めて欲しいと。先輩は穏やかで優しいんですよね。」
「しっかり者の様だから、多分どこかに置き忘れる事は無さそうだけど。盗んだ人にまで気を遣っちゃっているのかしらね。戻って来なくても困らない物ならば良いけど…」
「そうでもないらしいんですよね、どれも愛着があるから、犯人捜しはしたくないけど、物は探したいみたいで。」
夏子の言葉に花沢さんが、
「もしかしてなんだけど…その先輩は犯人に目星がついてるんじゃないのかしら?それでその人に気を使って犯人捜しをしないのかな…何となくそんな気がしたんだけど。」
「花沢さん、私も同じこと考えてました。」
「明ちゃんもそんな気がした?それで、誰だと思った?」
「…妹さんかなって…」
「え!」
夏子だけが驚いた。他の二人は驚いていない。
「そうよね、持ち物が誰のプレゼンとかを把握している人物の仕業な気がするもんね、そうなると身近な人よね。」
花沢さんがそう言うと、夏子が尋ねた。
「でも、妹さんのお手製のチャームも盗まれてるんですよ。何でわざわざそんなことするんですか!?」
「カモフラージュじゃないかなあ、博則先輩に気づかれたかもと心配になった妹さんが、先輩の目を自分から逸らすために自分のチャームも盗んだんじゃないかなって、犯人は他にいますよってアピールのために。」
でも、そのカモフラージュが上手く行かなかったんじゃないかなと思う。
「え!何でわざわざ!ジョシュアさんどう思います?」
「うーん、僕も妹さんが怪しいかなって…お兄ちゃんに手作りのチャームをプレゼントする妹でしょう。兄に対する兄妹を超えた思い入れを感じる。うちだったら絶対あり得ないもん。万が一うちの姉が兄に手作りのプレゼントなんてしたら、毒か爆弾入りだと思って家族全員が警戒するよ。」
そう言われた夏子が少し考えて、
「確かに、私も兄にプレゼントなんて、ガチャガチャで出て来た要らないやつとか、置き場所に困ったけど捨てられないぬいぐるみとか、そんなのしかあげたことないな…ましてや手作りなんて渡したことないなあ…」
夏子の兄もジョシュアさんの兄も不憫だ…
しかも夏子のはあげたのではなく、勝手に兄の部屋に置いただけだ、プレゼントでも何でもない。
「兄が大大大好きな妹の仕業だとして、その動機は何なんですか?ずっと好きだったんですよね?何で今更、思い出の物を盗んでるんですか?」
夏子の疑問はもっともだ。
「最近、博則先輩に彼女とかできなかった?」
「あ!彼女かどうかは分からないけど、何度か同じ女性と一緒にいるところをバイト先の本屋で見かけたことがある。外国の人だった…留学生かな~何て思って見てたんだよね。でも、何で兄に彼女が出来たら、兄のもの盗むの?」
「うーん、嫉妬かな。それでどうなるもんでもないけど、やらずにはいられない気持ちになったんじゃないかな…」
何となく、妹さんの気持ちわからなくもない。まだ、妹さんが犯人と決まったわけではないけど。
「嫉妬?だったら、兄に気持ちを伝えれば良いんじゃないの?」
「何て?」
「私を差し置いて、何、彼女なんか作ってるんだよって。」
「…それ言って、どうなるの?」
「まあ、確かにね…でも、私は言ったよ。」
「え?大河に?」
「うん、私を差し置いて、何で、彼氏とか、しかも頭悪そうな彼氏作ってるんだよって。」
「そしたら…」
「えー、だって好きなんだもんって。」
「で?」
「じゃあ、仕方ないねって。答えた。」
…
「…夏子ちゃんははっきり言えるけど、きっと妹さんは言えなかったのかもね。まだ、犯人が妹さんと決まった訳じゃないけど…そろそろ煮えたかな…」
そう言って、花沢さんはキッチンに戻って行った。
「夏子は大河が好きなの?」
ジョシュアさんが夏子に尋ねた。
「はい、高校入学の時からずっと狙ってます。でも、ほら、大河は男しか好きにならないから、どうしたものかと…何かいい方法ないですかね?」
「うーん、いい方法ね…夏子は今のままで良いんじゃない?もしかしたら、熱意に押されて大河が根負けするかもしれないし、夏子にも他に好きな人できるかもしれないし…」
「そうですよね。大河のこと好きなうちは粘ってみます。」
夏子の目は輝いている。
この意思の強さ、羨ましい。
「そう言えば、明が好きな人って誰なんですか?ジョシュアさんの知り合いの王室の人って。」
その話をここでするとは…何て答えよう…
「王室?王室の人かどうかは分からないけど、明が好きなのはギンちゃんだよ。」
そう言って、ジョシュアさんはギンちゃんを指さした。ギンちゃんはキャットタワーの中腹にある寝床の中で顔を洗っている。こちらの話なんて気にしていない様だ。
「ギンちゃんって、猫ですよね?」
夏子が、ジョシュアさんと私の顔を代わる代わるに見た。
「猫だよ。」
当然と言わんばかりに彼は答えた。
「猫が好きって、どういう好きなの?」
今度は、私に尋ねて来た。
「え…ほら、大河だって男の人好きだし、恋愛は多様性の時代…」
苦し紛れの答えは、何の解決にもならなそうだ…
「ギンちゃんに恋愛感情を抱いているってこと?」
ギンちゃんは眠っていない、ここでその質問に「はい」と答えたら、銀ちゃんに私の気持ちがバレてしまう…そんなの恥ずかしすぎる…でも、「違う」とは言いたくない。それに、夏子が納得してくれるかどうか?馬鹿にされたと思わないだろうか?ああ、何をどう答えても、いろいろ問題が起こる気がする…
「まあ…そうだね。」
ああ、言ってしまった。私の好きは恋愛感情だってことを。恥ずかしくてギンちゃんの方を見れない、銀ちゃんはどんな気持ちで私たちの話を聞いているんだろう。
「…顔が赤くなるほど、ギンちゃんが好きなんだ。」
夏子が呆気に取られている。
「恥ずかしいから、この話はギンちゃんの前では、ちょっと…」
夏子の耳元で小声でお願いした。
「…まじか…」
当然の反応…夏子、もしかして私の事を変な奴だと思って、もう友だちやめようなんて思ってないよね、だったらどうしよう。
「…まあ、好きならばそれで良いんじゃない…」
気を取り直して夏子がそう言ってくれたが、どことなくギクシャクした空気が流れている気がする。
「ギンちゃんは明が好きな人が飼ってる猫でね、今、その人は海外にいるから僕が預かってるんだ。」
「え~なんだよ~、どう答えていいか真剣に悩んじゃったよ。もう、明もそれならばそうと言ってくれればいいのに。」
ジョシュアさんの助け舟でどうにかその場の空気が正常に戻った。
「で、その人は何してる人なの?」
「え?」
ああ、答えを用意してないよ…
「スパイ」
またもや彼は当然の様に答える。
「え?」
呆気にとられる私。
「え?」
呆気にとられる夏子。
「だから詳しいことは教えられないんだよ。明にもやめとけって言ったんだけどね、それでも好きだって言って泣くんだもん、じゃあ仕方ないかなって…」
確かに、最初に『もう彼と会うのは止めた方が良いよ。』と言われて、泣き出したことはあったけど、今その話しなくてもいいじゃない!
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